第43話 遺書の交換

「じゃあ」


言いながら紗季は自分の遺書と又吉の遺書を入

れ替えた。


「本当にいいのかい、紗季ちゃん宛の遺書を僕

 なんかが読んで」


「あっ、ひょっとして読まれたくないの、姉か

 らの遺書。何か後ろ暗いことが書いてあると

 か」


「まさか・・・」


苦笑いする又吉に


「じゃ」


紗季は又吉宛の遺書の封を切った。

それを見て又吉も又、封を切った。

懐かしい陽子の文字が飛び込んできた。


「ゴメン紗季、黙っていて。でも私らしいでしょ。

 お詫びに真理蛙のしずくは紗季にあげるわ。

 大切に使ってね。

 真理蛙のしずく、見つからなかったらシンリに

 聞けば教えてくれるはず。

 ホント、ごめんね、先に逝っちゃって」


フット紗季を見た。

又吉を見つめたままだ。

陽子が手を合わせ謝っている姿が目に浮かんで

くる。


真理蛙のしずく・・・

よく言うよ。

死を前にしてこんな(遊び)考えるなて。


「読むかい?」


「私も読んだ方がいい?」


又吉はもう一度遺書に目を向けると


「そりゃ、紗季ちゃん宛の遺書だから読まなきゃ

 いけなよ」


言いながらも遺書は手に持ったままだ。

何となく紗季に渡すのがためらわれた。


「こっちの遺書はシンリは読まないほうがいいわ」


言うと紗季は、又吉宛に書かれた遺書を封筒に戻す

とエプロンのポケットに仕舞った。


「でもそれ、僕宛の遺書だろ?」


「シンリは見なくていい、私もその遺書は見ない

 から」


「どうして」


「どうしても」


紗季はいたづらっぽく舌を出すと


「敢えて言えば姉貴への反抗かな」


腕を組んだ。


「私ねこの家売ろうと思っているの」


突然話題を変えてきた。


「家を売るって・・・じゃあどこに住む気なん

 だい」


「あっち」


紗季はベランダを指さした。

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