第33話 事態急変

気が付けば陽子が紗季達に黙って旅行と称して

いなくなって半年が経っていた。


 原稿は週一間違いなく送られて来た。

陽子の筆不精は相変わらずだ。

紗季はそれでもめげず、日常を陽子にメール

しているらしい。

時折近況報告をしない事があると、近況報告と

一行だけのメールが来るから、読んでいるのは

間違いないらしいと紗季が苦笑して又吉に話し

たことがある。


非日常が日常化したころ事態は急変した。


「死んじゃった」


紗季からそんなメールが又吉に届いた。

 桜が満開なのに、季節外れの雪が降る、寒い

朝の事だった。

時季外れの寒波襲来で交通機関はマヒ状態だ。


丁度会社に向かおうとしていた又吉は、紗季から

のメールを受け取ると、急いで紗季に電話をかけ

た。

メールで話す内容ではない。

いつまでコールしても紗季は電話に出ない。

又吉は会社に休暇届を出すと、その足で紗季のマ

ンションに向かった。


 紗季のマンションに駆け付けると紗季は部屋着

のまま玄関に立っていた。

ちらつく雪が紗季の長い髪に積もっている。

ブランと下げた手には携帯を握りしめたままだ。

又吉にメールを送ったままここで待っていたのだ

ろう。

雪は紗季の肩にも積もっていた。

雪の重みで今にも崩れ落ちそうな弱弱しさだ。


 タクシーから駆け下りた又吉は慌てて紗季に積

もった雪をはらい落とした。

紗季の身体は氷のように冷たい。

まるで「死んだ」のが沙希であるかのように。


「こんなところに立っていたら風邪をひくじゃあ

 りませんか」


少しきつめの口調で紗季の肩を揺すった。

又吉を見つめようとしない紗季の瞳には全く生気

が見受けられない。


「紗季ちゃん!」


紗季は又吉にもたれかかったままだ。

今までたっていたのが精いっぱいだというように

身体中から力が抜けきっている。


「紗季ちゃん、どうしたんですか」

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