プロフェッサー


 プロになれなかった日下部だが、社会人野球チームから声をかけられた。


 野球用品を主力製品とする会社で、日下部が使っているグローブも、その会社の製品だった。バットやスパイクは、別のメーカーのを使っていたが。


 オファーを受ける事にした日下部は、バットやスパイクも、ここのメーカーのを使う事にした。

 社会人野球は、会社の広告という役割を担っている。



 社会人野球の選手となった日下部は、同時に、社員ともなった。配属されたのは、商品開発を担当する部署らしい。

「らしい」と言うのも、本当に商品開発をしているのか怪しい部署だったからだ。


(アニメに出てくるマッドサイエンティストの研究室みたいだな……)


 ならば、そこにいる人物は、マッドサイエンティストという事になるのか。

 白衣に身を包んだ男が、ビーカーで黒い液体を飲んでいた。コーヒーだろうか。

(あの人、マッドサイエンティストみたいだな……)

 マッドサイエンティストがビーカーをマグカップ代わりにするのかは、定かではなかったが。

「ユーが、ミスター・クサカベだね?」

「あ、そうっす(この人、日本人……だよな……?)」

「今日からよろしく頼むよ、ミスター・クサカベ。ミーの事は、フランクに『プロフェッサー』と呼んでくれたまえ」

「プロフェッサーっすか」

「本当は『ドクター』と呼ばれたいところだが、チームドクターをやっている男が、そう呼ばれていてね。仕方なく、プロフェッサーと呼ばれてやっているのさ」

「本名は何なんすか、プロフェッサー」

「そいつはトップシークレットだよ、ミスター・クサカベ。早速、実験に付き合ってくれたまえ」

「実験っすか。俺、理科は苦手だったんすけど」

「大丈夫、大丈夫。ユーに頼みたいのは、イージーな仕事だ。頭の良し悪しは関係ナッシング」

(俺、頭悪いと思われてんのか。まあ……良くはねえけど)

「これを飲んでくれたまえ」

「実験って、人体実験……?」

 プロフェッサーが差し出したのは、やはり、ビーカーだった。


 液体の色が、2秒置きに変化しているのだが……。


「……これ、飲めるんすか」

「大丈夫! 計算上は死にはしない!」

「何入ってんだよ、これ!?」

「大丈夫! ドーピングに引っかかる成分は入っていない!」

「それ以前に飲んで大丈夫なのかよ!?」

「大丈夫大丈夫! さあ、飲むんだ! 社会人野球をやりたいなら、社員としての仕事もしないとダメだぞ!」

「これが噂のパワハラか……!」

「実況パワハラ社会人野球だ!」

「何言って…………うぎゃああああああっっっ!!!?」

 変な液体を力尽くで飲まされて(プロフェッサーは怪力だった)、日下部の意識が遠のいていく──。

(プロ入りしてたら、こんな目に遭わなかったのに……!)

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