魔物達を倒しました。
電撃カブトムシと桐山の戦いは熾烈を極めた。互いの攻撃は躱されるか、防がれるか。どちらも有効打を与えられずにいる。
桐山を援護すべく冒険者達も電撃カブトムシへと向かおうとするも、放たれる電撃に打ち抜かれて気を失ったり、他の魔物が行く手を阻んで邪魔をしてきたりするので未だに一対一の状態だ。
魔法を使える者達が遠距離から攻撃してもその甲殻に弾かれるだけで終わる。クロウリさんのブラックグラビティエリアを受けても体は持ち上がらず、白魔法使いのホワイトアウトレイを喰らっても視力は失われている様子はない。
どうやら、魔法に対してかなりの抵抗を持っているようだ。それに加えてその強固な甲殻は刀を受け付けない。鈍器でもひびが入らないんじゃないかな?
勇者パーティーの戦士は勇者の手助けにはいかず、敢えて他の魔物の相手だけをしている。
それは、勇者に助太刀はいらないと言うよりも勇者が電撃カブトムシを相手しなければならなくなったから行くに行けない状況と言った方がいいか。
勇者が虫型の魔物を倒さなくなった事により、魔物達の攻撃が多くなった。その分、個々の負担が大きくもなった。そして、勇者に加勢しようとした者達の何人かは電撃に貫かれて戦闘不能に陥ってしまっている。
魔物に対しての戦力が削がれてしまっているのが現状だ。
それを分かっているから、勇者パーティーの戦士は桐山に加勢せず、魔物の相手をしているんだろう。
「ふっ」
レグフトさんも虫の魔物相手に奮闘している。彼女の持つ【注目】スキルにより、ある程度の相手はレグフトさんへと流れて行っている。それによって彼女の負担は大きくなっているけど、周りの人達は少しばかり楽になっている。
電撃カブトムシが現れる前はこのまま行けば大丈夫って思ってたけど、少し雲行きが怪しくなってきたかな?
「っし」
俺は目の前のアカヤンマをドライブのスイングで切り裂き、視線を電撃カブトムシへと向ける。
あいつの方へ行けば、他の魔物が邪魔してきたりする。そして、魔法は殆ど効かない。
なら、一回試してみるかと鉄球を取り出してバッグハンドサービスで電撃カブトムシ目掛けて打つ。狙いは電撃を纏っている角だ。
鉄球は回転しながら弧を描いて電撃カブトムシへと向かい、角に直撃する。
しかし、角に当たった瞬間鉄球はものの見事に砕けてしまった。破片が当たりに散らばり、それらに電気が通って二次災害が勃発。
……何か、被害を拡大させてしまったな。鉄球での攻撃は止めよう。
ならば、と今度はウィードタートルの甲羅で出来た球を取り出す。
バックハンドサービスの構えを取り、甲羅の球を桐山と相対している電撃カブトムシへと向けて放つ。
甲羅の球は弓形の軌道を描きながら他の魔物の間をすり抜け、電撃カブトムシの角へと直撃する。甲高い音を立て、甲羅の球は跳ねてあらぬ方へと飛んで行ってしまう。で、偶然そこにいたクロヤンマの複眼にぶち当たって抉り、その段階で砕け散る。
甲羅の球が当たった箇所を中心に、薄らとひびが走っているのが見えた。どうやら、この甲羅の球は電撃カブトムシの甲殻に有効な攻撃らしい。
自慢の角にひびを入れた俺を危険視したのか、電撃カブトムシは俺を一瞥すると電撃を連続で放ってくる。
「やっべ」
俺は魔物を立てにしながら避け、電撃カブトムシの視界から外れる。【逃走】スキルの御蔭か、普通に逃げる事に成功。その間に桐山が隙ありとばかりに刀で足の一つを切り落とした。
僅かにバランスを崩した電撃カブトムシだったけど、直ぐに体勢を立て直して改めて桐山へと攻撃を仕掛けていく。
足の一本を失っただけでは機動力は失わず、バランスも保ったままか。
さて、そうすると俺はどれを狙うとするか。
有効打となるウィードタートルの甲羅で作られた球は残り三つ。一撃当てるとその影響で再度何かに当たると砕け散るから回収出来ず、実質三回か。
当てる場所は角か足か、はたまた複眼か。
角はこのまま甲羅の球をブチ当てればひびを大きくし、壊れやすくする事が出来る。もし壊れれば相手の攻撃と防御の手段を奪う事が出来る。ただ、実際に角が折れるまではどれくらい甲羅の球を当てないといけないか分からない。
足は一本程度では何ともないらしいが、二本三本と失えば体を支える事が出来なくなり、その場に崩れ落ちる。機動力を奪う事によってこちらの攻撃を通りやすくする事が出来る、足を一本奪うのに甲羅の球を幾つ使うのか不明瞭だが、根元とか関節部位をピンポイントに当てた方が断ちやすそうではある。
複眼を潰して視力を奪えば桐山の姿が見えなくなり、辺りの状況を確認する手立てを大幅に失う事になる。目で追って攻撃したり防御したりしなくなると言う点では一番有力候補だけど、見えなくなった事で見境なく攻撃し始める危険性がある。
それらを考慮した上で、俺は角へと集中砲火する事に決めた。
奴の電撃は周りへの被害も馬鹿に出来ないから、早いうちに無力化しておいた方がいい。脚を奪っても結局電撃は顕在のままだし、視力を奪ったら前述の如く電撃乱舞なんてしでかす可能性あるし。
と、言う訳で。俺は甲羅の球を取り出して、奴の死角から角目掛けてバックハンドサービス。狙いは最初の甲羅の球を当てた場所。一応中学、高校と狙った場所へと打ち返せるよう、サービスを放てるように練習していた。それに、【精密向上Lv1】のスキル的な補助も受けているから多分いける。
バックハンドサービスによって放たれた甲羅の球は同じ場所にヒットし、ひびを更に大きくする。当たった球はそのまま跳ねて空を飛んでいたアカヤンマの胴体へと当たって軽くえぐり砕け散る。
電撃カブトムシが俺の方を向く前にさっさと移動し、別の角度からまたバックハンドサービスをお見舞いする。カブトムシが首を動かし、角を振った際の角度もおおよそだけど予想して。
三球目は少し横にずれたけど、ひびを大きくする事に貢献してくれた。最初は薄らとだったけど、今では目に見えてぼろぼろだ。少し欠片も零れ落ちている。
これはもしかしたら次の一球で砕けるかな?
何て思いながらバックハンドサービスの構えを取ると、電撃カブトムシがこちらに角を向けて電撃を放ってきたので、卓球で使う回り込みのステップで即座に回避する。
今度こそバンクハンドサービスを、と言う所で桐山がひびの入った角目掛けで対上段に構えた刀を振り下ろしていく姿が目に映った。
吸い込まれるように角にぶち当たった刀は、そのまま通過していき角は粉々に砕け散った。同時に、角に纏っていた電撃も空気に溶けるように霧散する。
これで厄介な電撃攻撃が繰り出せなくなったな。そうなればこのカブトムシはただデカいだけだ。
自慢の角が砕けても、カブトムシは戦意を失わずに果敢に桐山へと攻めていく。が、桐山は軽く刀で流し、残る五つの足を根元から断ち切っていく。
身動きの取れない置物と化したカブトムシは、最後首を刎ねられて絶命した。
「倒したっと」
これで一番厄介な相手がいなくなった。なので、他の魔物に集中出来る。それに、偶然だけどウィードタートルの甲羅で出来た球を一つ残す事が出来た。
桐山は目から光が失われたカブトムシを一瞥すると、一瞬だけ俺の方に目を向け、直ぐ様他の魔物へと刀で切り掛かっていく。電撃カブトムシとの戦いは桐山にとっても大変だったようで、彼女は息を切らし始めている。
電撃カブトムシが倒され、勇者を阻む者がいなくなったので魔物が次々と屠られていく。そんな勇者の姿を見て、冒険者たちはほっと息を吐きつつ、体力の限界に近くても同様に魔物を倒していく。
「もう、無理」
ブラックグラビティエリアで魔物を妨害していたクロウリさんだが、力を使い果たしてその場にへたり込んでしまう。このままでは魔物の恰好の的だ。
俺は即座にクロウリさんの方へと向かう。少し離れた所にいたレグフトさんも同様にクロウリさんの方へと来る。
「お疲れ様」
「ゆっくり休んで、あとは私達に任せろ」
「うん」
俺とレグフトさんはクロウリさんに労いの言葉を投げかけ、クロウリさんを守るような布陣を敷いて魔物の相手をする。
ブラックグラビティエリアによる妨害がなくなったが、まだ白魔法使いによるホワイトアウトレイがあるので、妨害自体は出来ている。
俺達は迫り来る魔物達を次々と切り伏せていく。
どれくらい経っただろうか。
白魔法使いの妨害もなくなり、体力の限界を迎えてなお戦い続け、漸く魔物を一掃する事が出来た。
「おやおや、すべて倒されてしまいましたか」
しかし、それからさほど時間を置かずにバァゼがゆっくりとこちらに歩いてきた。衣服は所々焦げていたり、破れていたりす。皮擦り傷のような感じの軽傷が所々見受けられるけど、五体満足で悠然としている。
バァゼがここにいると言う事は、つまりジョースケさん達が負けたと言う事だ。
その事実に、体力を限界まで消耗した冒険者達の顔を青くさせ、身体を震わせる。
この町の一番の実力者が負けた。そんな相手に、自分達が勝てる筈無い、と。
誰もが絶望を味わっている中、勇者は――桐山は肩で息をしながら正眼に刀を構えてバァゼを見据える。
「まぁ、問題はありません。こうして勇者を消耗させる事に成功したのですから……同時に力量をも上げてしまいましたが、それは想定の範囲内です」
バァゼはにったりと笑うと、体力を消耗している桐山へと躍りかかる。
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