魔法は凄いと思いました。

 クロウリさんとパーティーを組んだ翌日。午前中は何時もなら町中の依頼を受けているけど、今日はクロウリさんとギルドの喫茶コーナーで互いの情報交換? と言うか、何が出来て何が苦手だと語り合った。疑問に思った事はその都度質問して、きっちりと誤解のないようにしていった。

 あと、クロウリさんに敬語はいらないと言われた。年が一歳しか違わず、敬語を使われると何か遠慮されてる感じがするとか。なので、俺は敬語をやめて普段家族や友達と会話する時のような口調で接する事にした。

 そんな事があって、昼食を食べてスライムだからけのスライムの森へと向かう。

 因みに、午前中の語り合いの時と昼食の時も甲冑を外していた。甲冑を外した姿は純日本人で通用しそうな艶やかな黒髪を後ろで一纏めにし、凛とした風貌をしていた。ただ、瞳は黒ではなく翡翠色だったけど。あと、服装はとんがり帽子にマント、杖は昨日と同じだけどその下は黒一色。黒い長袖に黒いズボン。黒い靴に黒い手袋まで装備してついカラス族という言葉が頭に浮かんだ。

 で、スライムの森に行くのも黒一色の服装で、甲冑は着ていない。これはブルースライム相手なら甲冑は必要ないからと言う事。

 あと、甲冑を着てない状態で魔物との相対に慣れるって言うのもある。普段は堅牢な守りを誇る甲冑だけど、湿地帯では逆に足枷になる。ただでさえ足場が悪いのに重く動きにくい甲冑姿で行ったら転ぶ確率が上がってしまう。しかも、転んだ場合起き上がるのにも一苦労するし、その間は魔物にとって恰好の獲物な状態となる。

 特に、沼の移動では困難以外の何者でもなく、更に沈みやすくなって身動き一つ取れないだろう。そんな状態で転んだ場合、最悪のケースとして顔面ダイブからの溺死が待っている。

 と言う事で、午前中の語り合い中に甲冑はなしと言う事になって装着していない。「何時もより動きやすい」とはクロウリさんの言。そりゃそうだ。

 特にアクシデントもなく、スライムの森に着いた俺とクロウリさんはブルースライムを探し始める。

 まぁ、探さなくても突っ立ってるだけで遭遇するんだけど、動いた方が出遭う確率が上がるんだよね。

「いた」

 クロウリさんが右の方を杖で指す。ブルースライムが一匹俺達の方にぴょんぴょんと飛び跳ねて来ているのが見て取れる。

「じゃあ、最初に僕が」

「はい」

 クロウリさんが一歩前に出て、杖の先をブルースライムに向ける。

「ブラックショット」

 杖の先に闇が集まり、球形となってブルースライムへと放たれる。闇の球を受けたブルースライムはぼふっと言う音と共に後方に吹っ飛ぶ。地面に落ちたブルースライムはしぼみ始め、動かなくなった。

 ブラックショット。黒魔法の初歩的な攻撃魔法で闇を圧縮した球をぶっ放す。クロウリさん曰く、連射が効くらしく最大で五発連続で放つ事が出来るそうだ。けど、今回はブルースライムが相手なので一発で充分と判断したんだと思う。

 速度も結構あるので、遠距離攻撃としてかなり有効だ。

 そして、更に二匹のブルースライムが現れて俺達へと跳ねてくる。

「ブラッククロウ」

 クロウリさんは杖を横に一閃する。すると杖の前方の空間に黒い刃が横一列に三つ出現し、杖の動きに合わせて軌道を作る。

 黒い刃を振るわれたブルースライム二匹は身体を四等分にされて地面に落ちる。

 ブラッククロウは【黒魔法Lv2】になると習得出来るように生る攻撃魔法で、闇を凝縮して作った刃で敵を切り裂くそうだ。こちらは今の所一閃するだけで闇の刃は消えるけど、練習すれば数回振るっても消える事はないらしい。

「これが、僕の直ぐに出来る攻撃」

「成程」

 クロウリさんは魔法名を言っただけで発動していたけど、これは【詠唱省略Lv2】の御蔭だそうだ。これがないと、魔法名の他に詠唱を紡がないといけなくなって、速攻性が薄れるそうだ。

 この【詠唱省略】は同レベル以下で習得出来る魔法に対してのみ効果が発揮され、それ以上のレベルで習得する魔法を発動するには、きちんと詠唱を紡がないといけないらしい。

 因みに、魔法名も言わずに無言で魔法を発動させる事も出来るらしい。けど、それにはスキル【無詠唱】が必要になって来るそうだ。

 スキル【詠唱省略】と【無詠唱】は魔法を発動し続ける事によって習得可能となるらしいけど、発動回数が尋常じゃなく、また魔力量によって一度に連続で発動出来る魔法の回数にも制限があるので、習得するには結構根気が必要になるとの事。

「直ぐに出来るので他に戦闘に有用そうなのはない」

 クロウリさんは申し訳なさそうに顔を伏せる。

「いや、そんな事無いよ。これだけ出来たら凄いって。俺なんて斧使うぐらいしか出来ないし」

 俺はそんなクロウリさんを励ますように持ち上げる。【詠唱省略Lv2】が有効な他の黒魔法は解呪と耐呪の二つだそうだ。解呪は文字通り呪いを解除する魔法で、耐呪は呪いに対して耐性を付加する魔法だ。

 ただ、魔物との戦闘では呪いを受ける場面は高位のアンデッドを相手にした時くらいらしく、解呪の魔法はあまり活躍する機会はない。同様の理由で耐呪もここらの魔物戦では使用する機会はない。

「そう?」

「うん」

 顔を上げるクロウリさんに俺は頷き返す。すると、クロウリさんはほっと息を吐く。

 ぶっちゃけた話、魔力と幸運以外は俺の方がステータス高いけど、総合攻撃力的な意味だとクロウリさんに軍配が上がる。遠近を瞬時に使い分けられる攻撃方法を持っていて俺よりも強い御人なのだ。

 そこらにいる魔物は黒魔法をぶっ放してれば安全に倒せる。まぁ、囲まれたらその限りじゃないらしいので、一人で魔物を相手する時は甲冑で身を護っているとの事。

 ただし、今回求める素材を持つアンデッドに対しては、俺の方がダメージを与えられる。何でも、黒属性はアンデッドに効きづらいそうだ。理由はアンデッドも黒属性なので、耐性を持っているそうな。効かない訳じゃないにしろ、何発も黒魔法をぶっ放しても向かってくるアンデッドは脅威だろうな。

 アンデッドに有効なのは白魔法で、次いで赤魔法。だけどクロウリさんは攻撃に使える白魔法もしくは赤魔法を習得出来ない。白魔法は杖の先に灯りを燈すだけで、赤魔法はひと肌程度の熱を生み出すだけ。

 ただでさえ黒魔法でアンデッドを倒すのに時間がかかるのに、湿地帯には他にも魔物が出現する。しかも、アンデッドの出現時間帯的に夜なので暗く、余計に足元が危なく魔物からの不意打ちを受けやすくなる。クロウリさんの言った通り、一人で夜の湿地帯に言うのは無謀だ。

 なので、今回は俺がアンデッドの相手をして、他の魔物が寄ってきたらクロウリさんに迎撃して貰う手筈になっている。

「あ、来た」

 と、新たにブルースライムが現れる。数は三匹だ。

「じゃあ、次は俺の番だね」

「うん」

 俺はブルースライムへと向かって進む。

 今回は自分の攻撃方法を直に見て貰うと言う事なので、まずは鉄球を取り出してバックハンドサービスで打って一匹を攻撃。鉄球は貫通してブルースライムは液体をこぼしてしぼんでいく。

 二匹目には近付いた所をドライブのスイングで攻撃する。今回は目測を誤らず、きちんと刃の部分をスライムに当てて二つに分断する。

「ごめんねっ」

 最後に残った一匹には謝りながらスマッシュをかます。ブルースライムは吹っ飛んで近くの木にぶち当たって爆ぜる。初めてスマッシュをかました時よりも飛沫の飛び散り具合が半端無く酷いのは、レベルが上がったのと【殴打Lv1】の影響だろうな。うん、余計に惨殺現場に見えるわこれ。

「凄い、本当にスライムを殴打して倒した……それに、鉄球が貫通するなんて」

 クロウリさんは俺の攻撃を見て、僅かに目を見開いてそんな事を呟く。

「流石はミャーくん。斧殴りの二つ名は伊達じゃない」

「あの、本当にその呼び方固定ですか?」

「うん」

 僅かに眉を寄せる俺の頭を近寄ってきたクロウリさんは何故か撫で始める。

 クロウリさんは俺の事をミャーくんと呼ぶ。午前中の語り合いの時に俺に【斧殴りのミャー】と言う二つ名がつけられたという話になった際、「じゃあ、ミャーくんて呼ぶ」とクロウリさんが宣言したのだ。

 最初はウツノミヤくんだったんだけど、そっちよりも呼びやすいし、ミャーの由来にも納得がいくからだとか。俺としては何か微妙な気持ちになる。そこまで顔が猫を連想させるだろうか?

 それからスライムの森でブルースライム相手に連携っぽい事もやり、夕方になったので今日はもう町に戻る事にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る