明日、他の魔物を倒す事にしました。

 バックハンドサービス攻撃はかなり有用だと分かった。

 しかし、五、六発も放つとハンドアックスに貼ったスライム皮がすぐに劣化してぼろぼろになってしまうのが難点だ。

 裏面と表面で合せて最大十二発しか放てないから、ここぞと言う時に使えるよう、普段は温存していかないといけない。

 もしくは、このハンドアックスに貼ってるようなスライム皮を多く所持しておき、劣化したらすぐに貼りかえるなどの工夫が必要か。

 あと、放ってて思ったのはやっぱり放つ球体を金属のではなく別の素材のものも使うべきか?

 現在使っている金属球は鉄で出来ていて、重いので威力は期待出来るけど、有効な飛距離は七メートルくらいまでだった。それ以上遠い相手に使うと狙いが逸れたり威力は減衰してしまう。

 因みに、現在持ってる金属球の個数は二つ。放ったらすぐに回収というのを繰り返してるから、摩耗もするし、脆くもなる。あと、敵に囲まれたら二回だけで終わってしまうのも心許ないな。

 せめてもう少し球は欲しいかな。あと、複数種類の球を持っていれば臨機応変に立ち回れるな。そうすると、今は威力重視の鉄の金属球があるから、飛距離を稼げる少し軽めの奴でも所持しておいた方がいい。取り敢えず、今日の報酬で一個買い足しておこう。

「依頼完了しました」

「はい、では冒険者カードと収拾されたスライムの皮をお預かりしますね」

 ギルドに戻った俺は早速受付に行って依頼完了の手続きを済ませる。本日は六十一匹のブルースライムを狩って、そのうち五十匹分の皮を換金に当て、残りの十一匹分はハンドアックスに貼るラバー生産の為に残しておく。

「お待たせしました。カードの方お返ししますね。あと、こちらが今回の報酬になります。しめて10000ピリーです。ご確認下さい」

 カードを返して貰い、トレイに乗った硬貨を数えてきちんと10000ピリーあるのを確認し、礼を述べて受付を後にする。

 俺は冒険者ギルドを出て、昨日スライムの皮を加工してくれた職人さんの所へと向かう。

 冒険者ギルドの二件隣りにあるちょっとこじんまりした一階建ての店。店の前に置かれてる看板には『ドールン工房』と書かれている。

 このドールン工房では武器や防具、ちょっと魔道具や生活用品など、幅広く取り扱っている。しかも、それらは全てこの店で作られるものだ。そして、素材さえ持って来ればオーダーメイド品も作ってくれる。

「おぅ、斧殴りか。らっしゃい」

 俺が店に入ると、ここの店主であるドールンさんが丁度売り物の整理をしていた所だった。他の店員さんは奥の方のカウンターに一人いて、残りは多分奥の工房で作業をしているんだろう。

 このドールン工房の店員兼職人さん達は皆ドワーフだ。故郷で培った鍛冶の技術で稼ぐ為にこのストラスの町に店を構えている。そして、手先が器用なので鍛冶以外にも木工や手芸とかの技術も持ち合わせているので、この工房は雑貨店のような印象がある。

 で、店主のドールンさんは俺よりも背が低く、その分体はがっしりとしていて立派な紳士髭が生えている。顔はそこまで厳つくなく、ナイスミドルと呼ぶに相応しい顔つきだ。

「どうも。今日もこのスライムの皮を加工して欲しいんですけど、いいですか?」

「おぅ。いいぞ。個数は?」

「今日は十一でお願いします」

「分かった。明日の昼までには作り終えとくからな」

「ありがとうございます」

 俺とドールンさんはカウンターへと向かい、そこでスライムの皮十一匹分と加工料を支払う。スライム皮は一つで700ピリーの加工量で、今回十一匹分なので7700ピリーになる。

 ドールンさんはスライム皮の状態を確認し、異常が見受けられなかったようでそれをカウンターの店員さんに渡す。

「で、今日はこれだけか?」

「いえ。ちょっとお聞きしたいんですけど、ある程度頑丈で軽い素材ってありますか? 出来れば跳ね返ったりする奴だったらなお有り難いんですけど」

「何に使いたいんだ?」

「この鉄球と同じで、打つのに必要なんです。これだとあんまり遠くまで行かなくて」

 そう言って俺は鉄球をドールンさんに見せる。この鉄球もこの工房で加工して貰ったもので、きっちり40mmと現在の卓球の公式ボールと同じ大きさにして貰った。

「あぁ、成程な」

 ドールンさんは納得いったとばかりに軽く息を吐く。

「にしても、本当だったんだな」

「何がですか?」

「お前さんがその鉄球を手斧でぶっ飛ばすのだよ。ここに来た冒険者パーティーが呟いてたぞ?」

「あ、そうなんですか」

 また見られてたようだ。と言うか、今更だけどまた変な二つ名がつかないといいな。

「にしても、そんだけで鉄球がスライムの皮を貫通するとはねぇ。信じがたいが、こうも証拠を見せられると逆に呆れるな」

 と、ドールンさんは預けたスライム皮を一つ掴んで広げる。それは丁度鉄球を貫通させて倒したスライムの皮で、40mmの穴が開いている。

「まぁ、それもスキルの御蔭なんで」

「あぁ、あのスキルな」

 ドールンさんには俺が【卓球Lv1】のスキルを習得してるのを話している。最初は「んな変なスキルあるか」と一蹴されたけど、証拠に冒険者カードを見せると目をパチクリさせて、信じて貰えた。

「で、ある程度頑丈で軽く、出来れば跳ね返る奴、か。その三つの条件を満たすのはここらじゃねぇな。ある程度頑丈で軽いって言うと、ウィードタートルの甲羅か」

「ウィードタートルですか」

 実物は見た事無いけど、ウィードタートルは知ってる。ガイドブックの魔物分布図に書いてあった。

 ウィードタートルは甲羅に草っぽいのを生やした亀型の魔物で、主食は虫。大きさは大体二メートルくらいだけど、人を襲う事は稀だそうで、基本的に地面に掘った穴に埋まって寝て過ごしているそうだ。

 一般的な倒し方は甲羅を割るか、首をちょん切るかだ。甲羅割ると肺が充分に機能しなくなり、呼吸不全で死ぬらしい。首をちょん切るには頭を甲羅から出した状態の所を狙わなくてはいけないが、甲羅を割るよりも労力があまりいらずに出来る。

 どちらを選ぶかは人それぞれだけど、俺の場合は首をちょん切る方法だな。甲羅を割る攻撃力は今の俺には無い。鉄球を放っても、スマッシュ打っても割れそうにないし。

「ウィードタートルの甲羅は今ここにねぇからな。どうしてもそれ使いてぇってんなら明日狩ってこい」

「そう、しますかね。じゃあ、甲羅取ってきたらお願いしてもいいですか?」

「おぅ、いいぞ」

「じゃあ、また明日の昼こちらに来ますね」

「分かった」

 俺はドールンさんにそう告げて、店を出て夕飯を食べに行く。

 俺はやや首を捻りながらも、今後の事を考え明日はウィードタートルを狩る事に決めた。

 今後の事とは、何もウィードタートルの甲羅を手に入れる為だけじゃない。ウィードタートルの生息する場所には他にも魔物がいる。今の所俺はブルースライム以外の魔物の相手をした事がない。レベルも上がった事だし、そろそろ他の魔物を相手にしてもいいかな? っても思った。

 取り敢えず、レベルは7まで……いや、今日も上がってる筈だよな。まだ確認してなかったから今見てみよう。


『名前:宇都宮卓海

 性別:男

 年齢:十五


 レベル:8

 体力:D+

 筋力:D+

 敏捷:C-

 耐久:E

 魔力:F

 幸運:C


 ポイント:25

 習得可能スキル:【精度向上Lv1】(消費ポイント10)


 スキル:【卓球Lv1】【殴打Lv1】【斬撃Lv1】

 魔法:なし

 称号:【異世界からの流れ人】(隠蔽中)』


「おっ」

 レベルが8に上がっている。それに加えて筋力と魔力のステータスランクも上がってる。筋トレと魔道具に魔力を流している成果が出たようだ。

 あと、新たに収録可能なスキルがある。

「【精度向上Lv1】か」

 これは習得しておいた方がいいな。鉄球を打つ際に標的に当たりやすくなる筈だ。勿論、それ以外の動作にも精度が上がる効果が現れるだろう。

 俺は躊躇う事無く冒険者カードをいじって【精度向上Lv1】を習得した。

 これで、明日魔物と戦うのが少し楽になるだろ。

 そう思いながら俺は夕飯を食べる為に料亭へと足を運ぶ。

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