手に馴染む武器を買いました。

 地図を見ながら進み、暗くなっても街灯が光っているので道に迷う事も無く無事に武器屋へと着く事が出来た。

 この街灯はガイドブック曰く電気でもガスでもなく魔力によって灯っているそうだ。地中を流れる魔力にラインを引いて、そこから少しだけ魔力を貰い受けて明かりにしているそうだ。

 なので、陽が沈んでも結構明るく、地図を視認しながら来れた訳だ。

 武器屋の窓から光が漏れて、まだ『CLOSE』の看板が出てないからやってる筈だ。

 俺はドアを開けて武器屋へと入る。

「いらっしゃい」

 カウベルが鳴り響き、奥の方のカウンターにいるエプロンを掛けたスキンヘッドなおっちゃんの店員さんが背筋をぴんとして俺を出迎えてくれる。俺は店員さんに会釈して、武器のコーナーへと向かう。

 ここでは武器の他にも防具も取り揃えているそうだ。現在の服装は高校の指定ジャージだから機動性はあるけど防御に難がある。なので防具は買った方がいいとも思うけど今回はまだお金の問題から防具は買わずに武器だけを買う事にしている。

 武器は商品棚に陳列されたものから、樽の中に無造作に突っ込まれたものまである。値段的に、棚に陳列されたものの方が高く、樽に突っ込まれたものの方が安い。樽の方は量産が進んでたり、少し質が低かったりするものを纏めてるんだろうな。今はお金があまりないし、樽に突っ込まれてる武器から選ぼうか。

 さて、どんな武器を使おうか?

 とは言っても、この店の品々は現代日本男児たる俺は殆ど馴染みのないものばかりだ。

 一応、中学の選択体育では剣道を選んでたし、修学旅行のお土産で木刀を買って振り回してたから少しばかりは剣を使える。

 けど、金属製の剣を振った事が無いので、思うように触れないかもしれない。

 だとすると、別の武器にした方がいいかな?

 弓は真っ直ぐ飛ばせる気がしないから却下。短剣は小回り訊きそうだけど間合いを詰めないといけないからなぁ。大鎌なんて重くて触れそうにないから事無いから却下。かと言って鎖鎌は上手く扱える気がしない。

 そう考えると、一番無難なのは棍棒かな? ただぶん殴るだけでOKだし、野球のバッドの要領で振り回せばダメージ与えられるかもしれない。

 そうと決まれば棍棒を買うかと、取り敢えず一番安い鉄の芯が入った木の棍棒を手に取って会計へと持っていく。

「ん?」

 その途中、商品棚に置かれた武器に目を引かれる。

 所謂、ハンドアックスと呼ばれる小型の斧だ。しかも柄が短く片手で扱う事を想定されていて、しかも両刃となっていて、刃の部分を全体的に見れば扇状に広がっている。

 このハンドアックスを見てふと思った。何か、卓球のラケットに形状似てるな、と。このままラバーでも張ればそれで違和感なく通りそうなぐらいだ。

 ……どうしよう、このハンドアックスが凄く気になる。と言うよりも今手に持ってる棍棒よりも上手く使える気がする。ただし、卓球のスイングでの要領でだけど。

 それに、俺はスキル【卓球Lv1】を持ってる。もしかしたら卓球の動作に何か補正が入るのかもしれない。

 そう考えると、この棍棒じゃなくてハンドアックスを購入した方が無難ではないだろうか?

 試しに、ハンドアックスを持って軽く素振りをしてみると、何と違和感なくすんなり触れるではないか。まるで長年愛用してきたかのように。しかも、あまり重さを感じない。

 これ、かなりいいぞ。

 しかし、このハンドアックス。お値段が6500ピリーする。つまり、全財産のほとんどを叩かないといけないのだ。対して、この木の棍棒は1400ピリー。宿代は何とか確保出来るお値段だ。因みにここらで一番安い宿の一晩の値段は2000ピリーで、一番高い所だと5000ピリーもする。

 もう少しお金を貯めてから購入すると言う手段もあるが、棚を見る限り、このタイプのハンドアックスはこれ一つしか見当たらない。在庫はあるかもしれないけど、今日を逃すと、下手をすれば入荷にしばらくかかると言う事態に陥るかもしれない。

 そう考えると、確実に手に入れる為には今日全財産を消費して購入した方がいい。

 …………よし、決めた。

 俺はハンドアックスを掴み、木の棍棒を元の場所に戻して会計へと向かう。

「これ下さい」

「あいよ。そいつは6500ピリーだぜ」

「はい」

 俺は巾着袋をひっくり返して中身を全部ぶちまけ、綺麗に硬貨を並べて500ピリーは巾着袋に戻す。

「おぅ、丁度6500ピリーだな。毎度あり。ちょいと待ってろ」

 そう言うと店員さんは店の奥へと向かい、革製のポーチみたいなものを持ってきた。

「このカバーはサービスだ。抜身のままじゃ危ねぇだろ?」

「あ、ありがとうございます」

 どうやら刃の部分に被せるカバーらしい。俺は店員さんに頭を下げてカバーを貰い受け、ハンドアックスに被せる。

 何か、刃が隠れた事によってより卓球ラケットっぽさが出てしまったな。

「ありがとうございました」

「また来いよ」

 俺は店員さんに別れを告げ、武器屋を後にする。

 さて、と。俺は改めて所持金を確認する。残りは僅か500ピリー。これでは宿に泊まる事は出来ない。しかし、一応屋根つきの場所で寝る事は出来る。

 俺は地図を頼りに目的の場所へと向かう。そこは塀の付近にあり、周りに他の建物があまり建っていない。草原が広がり、木の柵で囲われている。

 そこで俺は主と交渉し、500ピリーを払って一晩泊めさせて貰う事になった。

「おー、藁って結構フカフカする。チクチクもするけど」

 俺は地面に敷かれた藁を触り、率直な感想を述べる。

 俺が今日泊まる事になった場所は馬小屋だ。ガイドブックにも『お金がない時は馬小屋に泊めて貰いましょう』と書いてあった。

 500ピリー支払うのと掃除が泊まる条件だ。掃除は馬小屋内の掃除で、馬が全員出払った際に行う。

 さて、今日はもう寝るとしよう。

 俺はガイドブックを枕代わりにし、藁の敷かれた場所に横になって目をつむる。何時もより早い就寝だけど、今日は色々な事があって精神的に微妙に疲れた。あと、部活帰りの最中の召喚だったから肉体的にも披露がかなり溜まってる。

 あと、食料を買うお金がもう無いので、空腹を覚える前に寝てしまおうと言うのもある。

 ……もっと計画的にお金を使えばよかったなぁと思うけど、このハンドアックスを買った事に悔いはない。これ程手に馴染むものはそうそうないだろうし、今まで培ってきた俺のスイングを違和感なくこなす事が出来たんだ。いい買い物をしたよ。

 明日は馬小屋の掃除を終えたら直ぐに冒険者ギルドへ行って、初心者でもこなせる簡単な依頼を複数受けてお金を貰い、食べ物を買おう。流石に明日は何か食べないと体力的な意味で持ちそうにないし。

 ガイドブックに初心者お勧めの依頼ってのが載っているから、これを参考に自分でもやれそうなのをやって行こうと思う。

 と、つらつらと心の中で呟いてると睡魔が襲い掛かってきたので、俺はその睡魔に抗う事無く身を委ねて夢の世界へと旅立つ事にする。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る