第14話 本来、本物なんて出遭わない方が普通なんだ…4

ロゥ爺に連れられて水中洞窟から出たのは例の泉だった。

取り敢えずの目的えう達成したって言うのにこんな状況じゃ、あんまり喜べない。

水上に身を乗り出すと其処にはただ翼が生えただけの巨大トカゲが飛んでいた。

それを取り巻く様に満身創痍の人間数名が対峙していた。


『マズ!?』


突然現れた僕を視界に捉えたのか、不快な表情(?)で突撃してきたので一旦潜ってやり過ごし、再び水上に身を乗り出して腰から背中に移動した二門の砲で魔力を射出しながら【飛龍形態ワイバーンフォーム】へ変形させた。


『ロゥ爺はその人達をお願い!』


それからアイテムボックスからトレントの葉を視覚化させてありったけロゥ爺の前にぶち撒けて叫んだ。


『うむ、任せるが良い』


多分ロゥ爺なら何とかしてくれると信じて羽蜥蜴を全速力で追い掛けた。

割と簡単に追い付いた僕は、バックパックと化した剣鞘の先――二門の魔力砲――を連射。

羽蜥蜴はそれを容易く躱し続ける。

やっぱり地力じゃ向こうに分がありすぎる。


(ならっ!)


『“アームセイバー”!』


腕部からエナジーブレードを排出させてブースターを目一杯噴かせた。

羽蜥蜴を真正面で捉えてすれ違い様に斬り付け――ようとした瞬間、羽蜥蜴が急に消えた。

あまりにも一瞬の出来事だったせいか、気が付いたら背中に物凄い衝撃が走ってあわや墜落しそうになってしまった。

上空を見上げると羽蜥蜴が。

その表情は、余裕の笑み。


(くそっ油断した!)


ムキになってすぐ様上昇、羽蜥蜴に急接近する。

もう一度斬り付けようと今度は直前まで溜めてからブレードを出したけど、それもギリギリの所で躱されてしまった。

フェイントも含めて何度も突撃するが、その度に躱される。

ターンからの腕部と併せた計四門による一斉連射。

すると羽蜥蜴は苦い表情になって翼を盾に防御、僅かに吹き飛ばされて怯みはしたものの、その後の砲撃を着実に避けていった。


『うぁ!?』


またも衝撃。

今度は顔面に直撃、仰け反った隙に身体に何か熱いものが着弾して爆発、再び墜落しそうになった。

明らかに戦い慣れてる。

その中でも空中戦は他の追随を許さない程に圧倒的な動きで僕を翻弄する。

――いや、違うか。

この場合、僕の戦いが下手過ぎてそう見えるだけなんだ。

確かにこの姿に変形出来たのはついこないだ、だとすれば戦い慣れて無い僕を此処まで追い詰めた理由が解る。

――悔しい。

明らかに過剰な力を持ってる筈なのに、何も出来ないなんて、悔しい。


(――研ぎ澄ませ、精神こころ! 喰らい付け何処までも!)


《『操機闘術ドッグファイト・アーツ』のレベルが10→25に上がりました。『龍闘法ドラゴニック・アーツ』のレベルが11→30に上がりました》


今までにない戦いをしてるせいか、スキルレベルが、ガンガン上がってる。

それも尋常じゃない程に。


《『操機闘術ドッグファイト・アーツ』のレベルが30→50に上がりました。限界値に達しました。『龍闘法ドラゴニック・アーツ』のレベルが45→50に上がりました。限界値に達しました》


構わず羽蜥蜴に肉薄する。

この数時間で格段に動きが良くなって気がする。


『――ッ! ――クソッ! 誰デアロウトッ…俺様ノ前ヲッ! 飛ブンジャ無ェ!』


今更になって、羽蜥蜴の発する言葉を聞き取る事が出来た。


『そんなに僕が邪魔?』


『ソウダ! コナイダノ老イボレモ…サッキノクソ猿共モ…俺様ガ飛ブノニ邪魔ナンダヨ!!』


『老いぼれ…ロゥ爺の事か!』


だとするならロゥ爺に怪我を負わせたのは…。

――生まれて初めてかもしれない。

今まで殻に籠ってばかりで逃げてたせいで知らなかった熱いものがふつふつと沸き上がって来た。

駄目だ駄目だ。

こんな時こそ冷静に、冷静にっ…。

首をぶんぶん振って、目の前の羽蜥蜴をしっかり見据えて対峙する。


「ギュオァァァァァァァァァ!!」


先に動いたのは羽蜥蜴の方だった。


『“アクセルドラゴ”!』


一瞬遅れながらも『龍闘法ドラゴニック・アーツ』を発動して加速させる。

すれ違い様に攻撃。

爪と、ブレードが交差の際にぶつかって火花が散った。


(うぇ、堅いっ!?)


今の一撃で斬れなかった。

いやいや、でも確実にあの羽蜥蜴の居る舞台の近くまで駆けあがって来たんだ。

一度で駄目なら何度でも!


《『操機闘術ドッグファイト・アーツ』のレベルが限界値を超えてEXに上がりました。『龍闘法ドラゴニック・アーツ』のレベルが限界値を超えてEXに上がりました》


来たっ!


何度もぶつかり合って数時間、漸く巡ってきたチャンスを逃してなるものか!

既に開いていたメニュー画面からスキル欄を操作、SPスキルポイントを消費させて上位スキルへ進化させた。


SPスキルポイントを25消費、『操機闘術ドッグファイト・アーツ』は『操機戦術メックテック・アーツ』に進化しました。SPスキルポイントを25%消費、『龍闘法ドラゴニック・アーツ』は『刃真龍闘法ネオドラゴニック・アーツ』に進化しました。スキルレベルEXでの進化を確認しました。『能力最適化スキル・オプティミゼーション』の効果でスキルリンクを確認、SPスキルポイント100を消費。双方のスキルを統合し『機龍闘法メックテック・ドラグーンLv.1』への変異変換シフトチェンジが完了しました》


この緊迫した状況下でスキル進化したらどうなるのか。

この結果は思い通りになった。

スキルレベルが限界値まで達すると皆すぐに進化させたがる。

でも、どうなるのか。

それはスキルレベルのEXエクストラ化。

それを進化させたらどうなるのか。

答えは“派生進化アナザーサイド・エヴォリューション”だ。

実はこれ、意外にも戦闘職より生産職がなり易い環境にあった。

物作りに熱中して、気が付いたら何時の間にかEXレベルにまで上がっていたと言う事例が多く見受けられたからだ。

戦闘職は命に関わる状況下にあるために即決力がものを言うために気付き難かったと言うのも相まって、“増長した”戦闘職プレイヤーに比べて“いっぱし”の職人プレイヤーの技術レベルが異様に高い状況になっていた。

勿論、戦闘職でも自力で発見したか、生産職と仲が良いプレイヤーはこの事実を知っていた。

それ程派生進化アナザーサイド・エヴォリューションのインパクトが強過ぎた。

そして『能力最適化スキル・オプティミゼーション』の影響下でそれを実行したらどうなるのか。

答えは“変異変換シフトチェンジを起こす”というもの。

今思えばその兆候はあったんだ。

序盤でスキル統合して変質した『領域接続スキャニング・エリアコネクト』と『真実見抜く龍の眼ドラゴニック・トゥルースアイ』のふたつ。

兎も角、あの状況下で格下の僕が明らかに格上と思われる羽蜥蜴にひと泡吹かせるためにはこの方法しかなかった。

でもこれで漸く奴に届く!

『ブレードラッシュ』で羽根蜥蜴の懐へ飛び込み、すれ違い様に腕を斬った。


『ナ、ニーーグォア!?』


腕を斬られるとは思ってなかったのか、羽蜥蜴は斬られた拍子に動きを止めて無防備にも僕の方へ身体ごと振り向こうとした。

今の僕がそんな隙を見逃す筈も無く、羽蜥蜴の振り向き様に腕部の砲で連射して動きを止める。

その間に背中に付いたニ門の砲塔に魔力を集中させた。


《エネルギー充填率65%…異常無し――75%…80――95%…5――4――3――2――1――100%――――何時でも発射できます》


背中の砲から極大の魔力弾が発射され、物凄い勢いで羽蜥蜴に接近する。


『墜ちろぉぉぉぉぉ!』


『ド畜生ガァァァァァァァァァァァァ!!』


収束砲から放たれた魔力弾が羽根蜥蜴を諸共に呑み込んで爆発、黒焦げになった羽根蜥蜴は激闘の末、夕暮れで紅く染まった大樹海の大地へ吸い込まれるように墜ちていった。


「キュー…キュー…」


倒せたは良いけど、何時間もぶっ通しで戦ってたからもう限っ界!

地上に降りて【火龍形態サラマンダーフォーム】に変形、鞘から刀を抜いて黒焦げになった羽根蜥蜴にトドメの一撃とばかりに首を刎ねてこの戦いに終止符を打った。

疲れた体に鞭を打ちながら、羽蜥蜴の亡骸をアイテムボックスに突っ込んで、帰路に付いた。


『ようやったの。漸く決着ケリが着いたのじゃな』


既に日は落ちていて、夜空には天の川と月が綺麗に輝いていた。

へとへとになりながら泉に戻ると、ロゥ爺が出迎えてくれた。

――温かい。

優しく抱き止められると、ロゥ爺の温もりが体中に広がってきてなんだかほっとする。


『激戦じゃったの』


『…うん――ととっ』


『ほれ、無理をするでない』


ロゥ爺に支えられながら、どさっと地面に座ってへたり込んだ。

この世界に来てから初めて随分長い間、戦ってた気がする。


『…戦ってた人達は?』


『安心せい。お主がすぐに応戦してくれたお陰で皆無事じゃ。それにお主が提供してくれた薬草でなんとかなった様じゃ、今は食事を終えて眠っておるよ』


『そっ、か』


『幾らお主がカラクリ仕掛のゴーレムであろうとも、その身に魂を宿しておる限り、全く疲れぬという事は、あるまい』


優しく頭を撫でてくるロゥ爺。


『ゆっくり休んで、確実に疲れを癒せ。なぁに、今夜は儂が付いておるから安心して眠りなさい』


『う、ん…』


今日一日、物凄く濃い体験をした。

この世界で目が覚めて以来、物凄くドキドキハラハラした気がする。


『――お休み、なさい』

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