第4話 どらごんてきさばいばる(何か違う気が)3

次に僕が目が覚めた時は丁度日の出で、森が橙色に染まっていた所だった。

さて、今日も一日頑張りますか。

ねぐらから這い出て柔軟運動、それからまたねぐらに戻って、昨日探索序でに拾っていた薪をアイテムボックスから取り出し解体した肉の残りを焼く。

流石に昨日程空腹じゃなかったから味気無くなっちゃっているけど、食べておかないと探索途中で倒れる羽目になるかもしれない。

駄目だ、それだけは用心しないと。

必要なものは兎に角アイテムボックスに詰め、何でも斬れそうな木刀と解体用木製ナイフを無理矢理腰に括り付けて準備完了。


「さて、行きますか」


メニューのオプションコマンドからマッピング機能をオートに設定してオン、まずは現在位置――ねぐら――のポイントをマーキングする。

こうしておかないと永久に森の中を彷徨う事になってしまう。

それだけは御免だ。

もしも人間に出会い頭に討伐されちゃいました、なんて事になったら洒落にならないって!

兎も角用心して行かないといけないな。


《『真実見抜く龍の眼ドラゴニック・トゥルースアイ』のレベルが2→3になりました》


出発して一時間、目ぼしいものは未だにほとんど見付からない。

途中ミスティ・トレントを発見して伐採と言う名の狩りをしただけ。

植物系、特に樹木の姿をした魔物は“狩る”のか“伐採”するのか、どう表現したらいいんだろう?

今回は『炉』の作成とそれに付随する諸々に必要な物が採取出来れば良い。

同時に生きている以上、食料調達は欠かせない。

あ、勿論カメロも採取してますよ?

木ごと何本か抜いてねぐらの周りに移植すれば促成栽培で油は何時でも採取できるし、他にも色々出来そうだ。


(ん? 何か動いた…?)


見回してみるけど、何も感じない。


(――――つ!?)


…あれ、おかしいな。

今強烈な気配を感じた様な気が…?

…う~ん、何だったんだろう?

ま、いっか。

進もう、進もう。


もう暫く進んでいると、洞窟を発見した。

さっきの盗賊とねぐらに適した小さな入口とは違い、此処の入り口は物凄く開放的だ。

例えるなら紀元前の人類が誕生したばかりの時代にヒトが暮らしていそうなくらい。

取り敢えず中に入ってみよう。


(お邪魔しますよ、っと)


意外と中は広い。

――そりゃそうか。

目ぼしいものは、っと…お。

僕の目の前に広がっているのは高火力の火を起こしても全く問題ないスペースと外に繋がる天然の天窓だった。

思いがけず良いモンめっけたぞ!

と言う事で此処を『工房』に改造したいと思う。

さて、どうするかと考え込もうとした瞬間脳内にアナウンスが聴こえた。


《スキル『領域接続スキャニング・エリアコネクト』の効果で【簡易拠点インスタント・ポータル】に設定できます。設定しますか? Y/N》

簡易拠点インスタント・ポータル

なんだそりゃ、って事で調べてみる。


▽【簡易拠点インスタント・ポータル

・スキル『領域接続スキャニング・エリアコネクト』の効果で簡易的な拠点となる領域を選択し設定する。

(※まだ【本拠地ホーム・ゲート】が設定されていません。此処を【本拠地ホーム・ゲート】に設定しますか? Y/N)


いやいやいや。

有るからね?

寝泊まりする場所有るからね?

あのねぐらは【本拠地ホーム・ゲート】として活用するのは確定事項なのだから。

此処はあくまで『工房』!

だから【簡易拠点インスタント・ポータル】で充分だ。

と言う訳でこの場所は【簡易拠点インスタント・ポータル】の方に決定。

本拠地ホーム・ゲート】の選択肢の文字が灰色になって消えた。


《この領域エリアは【簡易拠点インスタント・ポータル】に設定されました。名称を入力してください『…』》


名称?

あ、この場所のか。

決めてあるんだけどね。

『ヴァースキ工房』…と。


《『ヴァースキ工房』に設定します。以後、この洞窟一帯の領域エリアは『ヴァースキ工房』となります。同時に所有権はシェーシャに委譲される事となり、本人の許可無く立ち入る事は出来なくなりました》


よし!


『キュル、オン!』


ガッツポーズを取る。

これで安心してこの森で生活が出来る!

と言う訳で内部の改造云々はひとまず置いといて、狩りと採取を再開しよう。

僕の手によって『工房』と化した洞窟を抜けて暫く移動した僕は泉を見付けて、その水飲んだ。

その泉は湧水で、ぼこぼこと際限なく透き通った綺麗な水が湧いていた。

渇いた喉を潤し、その水を何本か瓶に詰めてアイテムボックスの中へ。

よし、また行こうか。

なかなか獲物が見付からないなと思った瞬間に出くわすのがお決まりなのか、丁度大物と目が合わさってしまった。


『デュエルハント・ベア』

ランク:B+

スキル:『咆哮Lv.1』『威圧Lv.1』『手徒空拳Lv.2』『凶化Lv.1』

称号:

森に住む好戦的な魔物

特に強者を好んで襲う傾向が強く、道中これに出くわしたら仕掛ける前に一撃で始末しなければならない。


うげげ。


『グルァアアアアア!』


『ギュッ!?』


ベアの凶悪な爪が空を切っていた。

咄嗟に半身をずらしていたけど、厄介な事に初動が遅れた所為で僅かにダメージを喰らってしまった。

いや、こう言ったら語弊が有るか。

正確には避けたには避けたんだけど、後からダメージが入ったのに気が付いたっていう。

自動修復オートリペアメントLv.EX』のお陰ですぐに回復したけど…うん、これは失態だね。

金属のボディに付けられた筋がすぅ、と消えて行く。

どうやら右肩を掠ってたみたいだ。

直ぐに体勢を立て直して、腰に差した木刀を薙いだ。


『グルォア!』


あ、避けられた!?

しかも予め予想してたのか、ベアの口元がにやけてた様に思えた。

熊のクセに生意気な、と一瞬イラっとしたけどここは冷静に、冷静に…ふぅ。

避けられた事で少し焦ったけど、はやる気持ちをを無理矢理捻じ伏せてすぐに『生活魔法ライフ・マジック』で真空波を起こして鎌鼬を起こして牽制。

ベアはそのまま吹っ飛ぶと、何遍も地面に転がる様に叩き付けられ、太い木の幹に激突した。

あれ、コイツ素人以下?

というか受身をしないなんて考えられないのに?

うーん、大体の生物なら最低でも無意識の内に体勢を直そうとする動作をするものなんだけど。

多分同種のベアも出来ると思う。

で、あれは何て言うか…体勢とかどうでも良くって、ただぶつかれば良いと考えているっぽいな。

でも僕からしたら、どんな熱血だからって体勢くらいは取りそうなものなんだけど。

まぁ良い、兎に角今はどうでも良い。

良いか、考えている暇が有るならこの戦いに集中するんだ!

ノータイムで高圧水流ウォータジェットでその場に縫い付けてからの、斬戟。

見事に入ってベアの首から血が勢い良く吹き出て、ゆっくり倒れた。

残心、後に一息吐いてベアの死体を丸ごとアイテムボックスに収納した。

あー、嫌な汗かいた。

流石に頸動脈をやられたらお終いか。


《『操機闘術ドッグファイト・アーツ』のレベルが5→6に上がりました。『龍闘法ドラゴニック・アーツ』のレベルが6→7に上がりました》

…もう何か、どうでも良いや、ねぐらに戻ろう。

獲物が手に入ったけどちょっぴり後味が悪い結果に、やるせない気分のままねぐらに還る事にした。

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