第9話空上刑罰ー3


 その頃、ルーカスはいつものように私室で複製体相手に様々な楽しみを行っていた。攻撃はオートになっているためルーカスは暇になり、日課に繰り出したのだ。


 「やれやれ、よくよく考えたら、どうやって死体を見つけよう。地下に沈んだら探せないぞ、これでは俺が統率官になることが出来ないではないか」


 自分のミスに気づき、思わずいらだつ、手近にいた複製体を八つ当たりで蹴り飛ばしながら、ルーカスは考える。


 「いっそのこと適当な複製体を侵入者だと言って差し出すか、確かに倒しているんだ証明がかわ……何だ!」


 その時、戦艦の警報が鳴った。ルーカスはその場で艦内モニターを表示させると戦艦内に何人もの人物が乗り込んでいるのが見える。


 「馬鹿な、侵入者は二人ではなかったのか! くそ、それにどうやってこの船に……このままでは不味い!」


 今まで圧倒的な優性を保っていられたのは敵が外に居たからだ。だが戦艦内に入り込まれてしまっては、それは崩れる。ルーカスは一気にピンチに陥っていた。


 「くそ、なんとしてでも逃げる時間を稼がなければ……」


 そう言ったルーカスの瞳が辺りで怯えていた複製体の少女達を捕らえる。瞳に映った少女達はさらに怯える。


 「お前達には役に立って貰うぞ、ご主人様の役に最後まで立つんだうれしく思え」


☆☆☆


 「はっはっは! 侵入成功だ!」

 「案外、あっけなかったね」

 「気を緩めるな、何があるかわからないぞ」

 「カイトさんの言うとおりですね。慎重に行きましょう」

 「取り敢えず、動力源を破壊すればいいのね。場所はわかるの?」


 哨戒に当たっていた機械兵達を倒しながら、会話をするカイト達。既にカイトとソラ以外の三人の武器も二人による承認が済まされており、ゲスト許可を利用することで普通のエルロイドと同じように戦うことが出来ていた。


 「分かります。この戦艦のようなものは、私は先の大戦の時に戦った経験がある。恐らく動力は中心部、詳しい地図はありませんが、このような場所にあると」


 外から見た戦艦に位置を書き出すノーマ。そしてそれを全員に渡すと言う。


 「ユーザーである、リーダーとカイトさんが死ぬと、ゲスト許可である僕たちの武器は使用できなくなります。何に変えても二人を守りつつ移動してください。そして動力源にたどり着いたらその場で破壊、脱出します!」

 「「了解!」」


 カイトは壁にある操作パネルを触り、認証を解く、そしてその解かれた認証を利用して、ノーマが改ざんを行い、シャッターを上げさせる。

 シャッターが半分上がったその時、向こう側から攻撃が行われた。ビームショットガンによる攻撃を受けた。カイト達は一旦、先ほど見つけた部屋で応戦することを考え、通路を戻る。そして、その際、攻撃を確認するために振り返った。そして自分たちを攻撃してきた人物を見て、驚きの声を上げる。


 「そんな! あれは地球人!」


 そこに居たのは全裸姿で胸に何かの装置を付けられた、まだ幼い少女達だった。彼女らは銃を持ちながら必死の形相でこちらに向かって、それを撃つ。


 「御免なさい、御免なさい」

 「私はまだ死にたくないの!」

 「許して!」


 こちらに対して謝り続けながら銃を乱射する少女達。それを見て、ノーマは言った。


 「あれは恐らく複製体の少女でしょう。全裸のことから考えて、そういう目的で使った後、私たちが侵入してきたことに気づいて、使い捨ての兵に使い方を変えたのでしょう」

 「だが、武器を使っている。なら、エルロイドに対して反逆すれば良いんじゃないか?」

 「それは無理よ。ソラのお兄さん。私、あの胸に付いている装置を見たことがあるわ。あれは確か、ルーカスっていうエルロイドとその子分だけが使う、通称【奴隷化(スレイブ)】よ。……あの装置は取り付けられた後、取り付けたエルロイドを裏切ると、爆発するのよ。もちろん破壊や、解除を行おうとしても爆発する。解除できるのは設置したエルロイドだけだわ。それにあの装置がもっとも醜悪なのは連帯責任で爆発するってことなの」

 「れ、連帯責任?」

 「そうよ、ソラ。誰か一人でも裏切れば全員死ぬ。だから装置を付けられた人はお互い裏切れないように見張り合い、任務の遂行を強制し合う。そして知人の一人でも同じ装置を付けられれば、人は裏切れなくなるわ。死なせない為にエルロイドのために働くしか無いのよ」


 そこまで言うと流花は手を握りしめて、振り絞るように言う。


 「ほんと、エルロイド達は腐っているわ……!」

 「これが、侵略された地球人類の末路……人の気持ちを利用して、こんな非道なことをするなんて!」


 ソラはエルロイドの仕打ちに対して憤りを露わにする。


 ソラは直接的なエルロイドの被害に遭うことは少なかった。兄であるカイトの手引きで基本的に戦場から逃げ続けていたし、エルロイドの蛮行として見たことがあるのも銃器によって、ただ機械的に殺戮をしている姿だけだった、そのようなことは戦場ではよくあることだ。だからこそ、ノーマ達からエルロイドの地球人に対する扱いを聞いたとしても、何処か現実感が薄かった。

 だが、今、目の前で、このような尊厳を踏みにじった、殺されるより残酷な行いをエルロイドは地球人に対して行っていると知ったことで、ソラは初めてエルロイドの残虐さに気づいた。


 「ねえ、兄さん。何とか助けられないかな?」


 そんな被害に合う彼女たちを何とか救えないか、ソラは兄にそう相談する。カイトはそれを聞いて難しい顔をした。流花の話しを信じるなら彼女たちを救う方法はない。あの装置を取り付けたエルロイドを倒し、制御権を奪えれば可能性はあるが、流花は言っていた。解除できるのは設置したエルロイドだけだと。最悪の場合、大本を倒しても装置を外すことが出来ず。最初に与えられたカイト達を倒せと言う命令を実行し続けるだけかも知れない。危険を犯して大本を倒しても、そうなってしまえば背後から不意打ちをされ、自分たちは全滅する。


 カイトがそのことを説明するより早くノーマが回答を返す。


 「……残念ですが、リーダー。それは不可能です。出来るのなら、既に僕たちが何とかしています。過去も、今も、どうすることも出来ません。……彼女たちに救いがあるとすれば、それが彼女たちが望まないことであったとしても、彼女たちの命を終わらせてあげることだけです。そうすれば少なくともこれから先、彼女たちはこんな理不尽な目に合うことは無くなります」


 ノーマがそう言った時、遠くから彼女たちの声が聞こえてきた。


 「助けて、誰か助けて!」

 「もう、こんなのいやだ~!」


 それを聞いたソラはノーマに反論しようとする。


 「でも! あんなに助けを求めているのに! 昔は見つからなかったかも知れない。けど諦めなければ、きっと何か……」

 「ノーマ、お前達はソラをつれてここに来る途中にあった別の道を行け」

 「兄さん?」


 カイトはソラの言葉を遮るようにノーマ達にそう命令する。


 「ここは俺が引きつける。彼奴らは命令されてるだけの素人だ。一人がここに残れば、そいつらは別の場所には行かない。別ルートから進めば、彼奴らと戦わずに動力源までたどり着けるはずだ」

 「でも、それじゃ、兄さんが危険な目に!」

 「ソラ、敵を救いたい、でも仲間が危険な目に合うのは止めたい。そんな都合の良いこと、あるわけないだろう? わがまま言ったって選択肢がそれしかないならやるしかないんだ。俺は彼女たちを殺す。覚悟が違う。俺がやれることは無い。……ソラ、お前にそう言う甘いところがあるのは知っていた。だからこそ、戦場を避けて生き延びて来たんだ。……だから、わざわざここに残って彼女たちを殺すのに参加する必要はない。俺がここで戦っている間に、動力源とあれを取り付けたエルロイドを倒せ」


 そのカイトの言葉に返答を返せず、うつむくソラ。そのソラの肩をクラックが叩いた。


 「行こうぜ、リーダー。大切なことは今、自分がやれることをしっかりとやることだ」

 「……そうだね」


 そう言ってソラ達は来た道を戻っていく。道を走りながらソラは呟いた。


 「目の前の理不尽すら救うことが出来ない……僕は無力だ。……未来の僕。英雄となった君は今の僕とは変われたのかな……」


☆☆☆


 「お前はソラについて行かなくても良いのか?」

 「私はあの奴隷化が嫌いなのよ。だから彼女たちをあれから解放してあげたいの。…それに、言ったでしょ?今度は私が貴方を守るって」


 笑顔でこちらを見る流花を横目にしながらカイトはぶっきらぼうに答える。


 「…勝手にしろ、ただ覚悟はしておけよ。これから行われるのは覚悟も出来てない奴らを殺す。虐殺だ」


 そういうとカイトは腰に付けたバインダーから兵器を取り出す。


 <血族認証……確認、エルロイド。煙玉の使用を許可します>

 <血族認証……確認、エルロイド。手榴弾の使用を許可します>


 カイトは煙玉を投げた後、少し時間をおいて手榴弾を彼女たちの元に投げる。煙玉によって混乱に陥った彼女たちは続く手榴弾の存在に気づかず、その大勢が爆発に巻き込まれ、体を失っていく。そこにカイトは容赦なく、銃撃を行った。続けて流花もカイトを援護するように銃撃を行う。しばらく叫び声が聞こえていたが、程なくそれがやんだ。カイトはまだ生き残っている可能性を警戒しながら一人ずつ確かめるように銃弾を撃ってトドメを刺す。


 その時、まだ息の合った少女が、うつろな目だが、憎しみや怒り、悲しみを込めている、不思議な目をしながら空を見ながら呟く、既に彼女の胴体は爆発によって無残なことになっていた。


 「な、何で。仕方が無かっただけなのに、生きたかっただけなのに……そんなに私たちが、に…く……」


 そこまで言ったところでゴフっと力なく、血を吐き出す少女。まだ死にきれない彼女に対してカイトはやるせない思いを感じながら銃弾を撃ち込んだ。


 「……これで全員だ」

 「……もう、行きましょう。ソラのお兄さん。私たちがここで出来ることは何も無いわ」

 「ああ、そうだな」


 ぐっと手を握りしめるカイト。


 「ソラのお兄さん?」

 「ソラの為に突き放したことを言ったが、俺もソラと気持ちは同じだ。はらわたが煮えくり返ってる。今は無理でも、必ず。……元の世界に帰るついでに、白仮面を倒して、このふざけた世界を終わらせてやる」


☆☆☆


 カイト達と離れたソラ達は途中、機械兵達の襲撃を受けながらも何とか動力源にたどり着いていた。


 「これが動力源……大きいね」

 「これだけの戦艦を動かしているんだ。まあ、これくらいはあるだろうよ」

 「これを壊せば、この船は落ちることになるでしょう。この船の頑丈さは動力源から提供を受ける各システムが担っています。そのため、墜落への対応策をとることは出来ず、この船は地面に落下することで完全に破壊されます……クラック! カイトさんと流花に連絡を、僕たちも爆弾を仕掛けた後、直ぐさま、この船から脱出します」


 ノーマは兵器の中から爆弾を取りだし、動力源に付ける。タイマーをセットするとソラ達と共に元の道を戻り、乗ってきた飛行機を目指した。


☆☆☆


 船に備わっていた様々な私物を取りに行っていたルーカスは大きな爆発音と共に画面に表示された内容を見て、思わず声を上げる。


 「馬鹿な、もう動力源が破壊されたのか、あの、役立たずどもめ! 壁になって時間稼ぎをすることすら出来ないとはどういうことだ! 折角、俺が武器を貸し与えてやったというのに!」


 私物を脱出用のポットに押し込めながらルーカスは怒鳴る。だが、同時に安堵もしていた。


 「ふん、まあいい。動力源を破壊したと言うことは、もはやここまでは来ないだろう。この脱出装置の動力はサブの動力源から回される。例え、動力源が落ち、この船が墜落することになっても、俺は逃げ延びられる。いくらでもな」


 高笑いをしながら機器を操作するルーカス。飛行機に乗り込むと発射させた。


 「これが、劣等種族と俺たちの違いだ。上位者はいつだって生き残ることが出来るんだよ!……あ?」


 その時、ルーカスが予想もしていなかった事態が起こった。突如、飛行機の操作画面に大量のエラー表示が浮かび出す。


 「故障だと……! 馬鹿な! 数年前に確かに点検をしたはずだ。エルデンの飛行機がたった数年で故障するなど……」


 エルデンの技術力は圧倒的に優れている。長い時を生きるエルロイド達に合わせて作られた製品は故障の危険がほとんどない(・・・・・・)。にも関わらず大量のエラーを表示する飛行機を見て、ルーカスはあることに気づいた。


 「まさか、誰かが俺の船に細工を! だが、あの複製体どもにそんなことは出来ないはずだ! そうか、それが出来たのは!」


 ルーカスが何かに気づいたその時、飛行機は制御を失い、墜落したグラムの残骸に向かって突っ込み始める。


 「あ…。うあぁああああああ!!!!」


 鈍い音が鳴り、飛行機は残骸にぶつかった。


☆☆☆


 その頃、ソラ達はルーカスが墜落した現場に向かっていた。脱出の際に同じように飛び出す飛行機を見て、今回の件を引き起こしたエルロイドが脱出したということに気づいたためだ。


 「あれは……」


 ノーマがそう口にする。そこで見たのは、モズの早贄のように壊れたグラムの残骸に腹を突き刺され、空に浮かんでいる一人のエルロイドの姿だった。


 「間違いない。あれはルーカスよ。幾人もの子分を纏めるリーダーで、あの奴隷化を使っていた男だわ」

 「た、たすけてくれ……」


 かすれた声でルーカスが言う。


 「死にたくない、死にたくないんだ。俺たちは不老なんだ。治療さえしてくれれば生きられる。……助けてくれたら何でもする。お前達の味方になる、だから……」

 「お前はそう言って、死にたくないって言ってた子らを無理矢理死地に立たせたんだろうが、今更何を言ってやがる」


 カイトが突き放したようにルーカスに言葉を返す。


 「悪かったと思ってる。それに俺はお前達に有益な情報も持っている。だから助けてくれ……痛いんだ、ずっと痛んだ。刺さっているところがいだぃんだよ~!!!」


 ごふと血を吐きながら言うルーカス。その様子を見て、このまま放置すればいずれ死ぬとカイト達には理解できた。カイトはそのルーカスを置いて、歩き出した。他の仲間達も続く。


 「ま"て"」

 「……悪いと思っているんだったら。これがお前の刑罰だ。空を飛び、理不尽に花を踏みつぶしていったことを楽しんでいた、お前へのな。そのまま空上から落ちていけ、きっとそこで待っているさ、今までお前が踏みにじってきたものたちがな」


 そう言ってカイト達は本当にその場を離れた。目がかすんで来たルーカスがふと周りを見ると、そこには今まで使い潰してきた複製体や標本体、そして戦争の時に使い潰した地球人達がいた。彼女たちは待ちわびたかのように周りを取り囲み、腕を引っ張り、少しずつルーカスを地へ下ろしていく。その刑罰の執行を行おうとする。それを見てルーカスは言葉にならない叫びを上げる。


 「やめろ、やめろ、連れて行かないでくれ! いやだ、いやだ~~!!」


 好き放題してきたルーカスの地獄は今から始まるのだった。

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