第4話

 蛇足的な話になるが、虎目の未来千里眼にはいくつかの約束事があるらしい。

 まず第一に、虎目は彼自身の未来を見る事はできない。千年後の未来を見る事はできても、彼自身は今日死んでしまう可能性だって否定できない。だからこそ、彼は瓢谷隆善の下で暮らしているそうである。

 曰く、隆善や紫苑にはまだこれから先も長い人生が待っている。少なくとも、彼らと一緒にいれば刃傷沙汰に巻き込まれて死亡……という可能性は減りそうなのだそうだ。逆に言えば、虎目の姿が消えたら、隆善達の命が危ない印なのかもしれない。

 次に、本人に対して未来の話をべらべらと喋らない事。これは虎目自身が課した決まり事で、決まった未来に安心して努力を放棄したり、人生を早まったりしないように、との配慮からだそうである。

 曰く、未来というものはちょっとの事で簡単に変わってしまうものであり、先ほどまで安泰な未来が見えていたのに、もう一度見たら襤褸切れのようになって死んでいく姿が見えてしまう……という事もあるそうだ。

 そうならないため、彼は人生のネタばれは極力避けているという事である。ただし、例外はある。それは、このままであれば当人にとって悪くない未来がやってくる場合。努力とは違う、運命と言う名の力が働いている分岐点に至った場合。そんな時に彼は、少しだけ未来を教えてやるのだそうである。

 ちなみに、例えば千年後のような途方も無く遠い未来の話は周囲の人々の人生に何ら関係が無いため、暇な時にはべらべらと喋りたい放題に喋っている。……未来の言葉を使いまくって、その話を主に聴く葵や紫苑、隆善、時には栗麿が覚えてしまい、時折うっかり日常会話で使ってしまうのが問題点と言えば問題点であるが。

 あとは、彼自身がとっとと現状から抜け出したいと考えた時に周りを動かすため、あるいは周りに要請されて、この力を使う時がある。

 そして今、彼は葵に要請され、未来を見ようとしている。しかし、それに問題は無いのか。……後に、彼は言う。

「ぶっちゃけ、早く行こうが遅く行こうが、結果は変わらにゃかったにゃ。けど、とっととあの馬鹿が起こした問題ごとを終わらせたかったからにゃー……」

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