第3話 かみさま、きれいですね

Fair is foul,and foul is fair


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『叡智を司る龍の神リンフェリア、その御姿はなにゆえ美しくあろうか』



 全てが滅びたのだ、栄えたものは一夜にして灰燼に帰した。いくら一部が発達しようとも、全ての人を賢人へと昇華させることはできなかったのだ。騎士れきしかたちは滅び、わずかに生き残った者たちは少しでも、ぜんの王の教えを残そうと藻掻いた。なにせ、歴史を残すために諸国を廻る王を知らぬ歴史家きしたちから見ても、叡智の都市の、王が残した言葉はとても綺麗だったのだ。残されたものが唯一広めることができた、その教えはいつしか人々に尊きモノとして広まった。王はいつしか、善の王と呼ばれた、王はいつしか、叡智を授けしものとされた、王はいつかは善と叡智にの神とされたのだ。



 歴史家きしたちが残した御姿も、龍の血を継ぐとされる王家であった事も、人々の神聖視を助長させる事となった。どこの時どこの世界でも、綺麗言きれいごとは人に好かれるものだ。しかし、ある神学者は言った、所詮彼の神の御姿も信者を得るために美しく描かれたのではないかと。とある信者はそれにこう答えた、確かに美しいことは良いことなのだろう、だが、かつて我らの神はこう告げられたのだ。



『容姿美しくとも、我は真にそ奴を美しいとは思えんのだ、この身もその身も所詮もらい物なのだろう。

 いくら容姿の整った者に口説かれようとも、我はそ奴の手を見て答えたい、出直してこいとな』



 かみは告げられたのだ。我にとって身奇麗な武官きしほど頼りない者はないのだ、奴らは汗に汚れ、その手を剣だこでボロボロにするぐらいがちょうど良いのだ。そのまっすぐに流れる髪を見て我はなんと答えれば良いのだ。我にとって身奇麗な文官せいじかほど頼りない者はないのだ、奴らは髪はボサボサに目の下にクマをつくり、その手をペンだこでボロボロにするぐらいがちょうど良いのだ。その無駄に巻かれた髪を見て我はなんと答えれば良いのだ。儀礼に出来るときは仕方あるまい、ボロボロだと弱いのではないかと民には感じられるやもしれんからな。常に身奇麗な事を他の者きぞくは様式美と答える。奴ら笑っても市井の者が、生き汚くその身を汚して働く姿を我は笑えぬのだ。最後に神学者はこう問うた。



『ならばその身が、身奇麗に描かれていることはなんというのだ』


『死に化粧ぐらい、美しくとも良いではないか』




(とある神学者著 知の神後書き『王は死して神となったのだ』より)




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『我らはすでに、死など超越したのだ』



 かつて、叡智の都が諸国連合によって滅ぼされた時、都側の騎士、最後の言葉である。初代騎士より六〇〇年、歴史家きしたちは言ったのだ。我らは王がこの身を拾い上げたが故に、我らはあるのだ。王と共に、あの時死んでいれば今、この身はないのだ。王は死して希望ゆめを残された。我らは死なずして、絶望ゆめを得た。あの夢にどれほどの物が生を得たというのか。王が命じ、我らが残した歴史ちえは我らが死してもなお、民の中で生き民を生かすのだ。処刑人ワルモノの一人は言った。



『貴様の言う民は今こうして燃えているではないか』



 確かに、彼らに最後まで従った民は歴史家きしたち共に積み上げられ、焼かれていた。殺したのだ、焼かねば病疫が蔓延るのだ。歴史家は言った、ここにいたのは騎士なのだと。身はどれほど汚れていようとも、その身に装飾などつけていなくとも、騎士であったのだと。我らの歴史ちえは今もこうして生きている。その証拠に我らが王が申されたことを貴様らは成しているでないか。それだけで我らの歴史ちえが生きる証拠となるのだ。



 彼らの叡智を燃やしたたみは生き残った歴史家きしたちを広場へと集めた。そして、彼らが崇拝する王の肖像を踏みつけ、泥で汚した。知恵への侵略者は問うた。貴様らの崇拝する者を汚される気持ちはどうだと。その身が殴られるように痛むか、その身が焼けるように痛むか、その身が刻まれるように痛むかと、そう問うたのだ。歴史家きしたちはそれを見て、聞いて笑った。叡智を燃やしたたみはそれを見て問うた、狂ったかと。



『狂ってなどいない、我らが汚れ程度で嘆くはずがなかろう』



 王はかつて言われたのだ、我が今こうして食している者も民草が食べるものに比べ金はかかっていよう。だがそれを育てる者が、泥に汚れることに変わりはあるまいと。貴族しんりゃくしゃには分かるまい、彼らがその汚れた腕で汗を拭い、その顔を汚す美しさを。その身が汚れようとも、美しいものは美しいのだ。汚れと美しさは対ではないのだ。



『ならば、民が為に泥にその身を汚した、今の王は美しいきれいなのだ』



 歴史家は更に続けた。貴様らは貴様らへいしに襲われた娘をかばう母を無様だと笑った、生き汚いと笑った。だが、我らはそうは思わぬのだ。彼女らとて敵うなどと思っていない、それでも少しでも生きて欲しいと願っての行動であろう、その時は母は騎士であったのだ、笑えるはずもない。貴様らに殴られる年老いた親を庇おうとその身で抱きかかえた息子を、貴様らは小便をかけ汚し、そして笑った。だが我らは笑えぬ、その時息子は騎士であったのだ、笑えるはずもない。彼らは貴様らから言えば汚いのだろう、だが、彼らが抱える家族愛は貴様らにその身を汚されようとも、美しいモノではないか。



『貴様らがもし、我らに復讐する時に同じことが言えるか。

 綺麗好きな貴様らだ、さぞかし綺麗に答えてくれるであろう』


『生き残ったとしても貴様らに復讐する理由など、我らにはないではないか』



 これを聞き、侵略者は絶句した。だが、その王はそれが嘘だとし、あえて生き残りを見逃した。生き残った歴史家達はすぐさま他の場所で、叡智を復活させた。彼らの多くが死に消えたが、新たな叡智が再び蘇ったのだ。いく時かして、復活した叡智は侵略者かれらを上回ったが、彼らは再びの歴史ちえを紡ぎ、王の教えを更に広めただけであった。結局ところ侵略者が手に入れたものは、動きもせず、その身を飾る事もできぬ大きな宝石のみであった。やはり宝石は切ろうとも刃を通さず、汚そうとした叡智も汚せず、その何も残っていない都市を後にした。



(生き汚き神官著 『綺麗ではないか』より)




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三話による名称紹介


<叡智を司る龍の神リンフェリア>

言わずともわかろう、つまり、おうさま。

なんか、いつの間にか、かみさまになっていた、本人が聞いたら……

古代の神々と区別され、新しき神とされる。

いまや、世界最大の宗教神で、新しき神は三柱。

知の神リンフェリアの他に、武の神リンフェリア、救いの神リンフェリア。

……つまり同じ、おうさまが三分割されてしまった。

それぞれの元のネタ、

魔法学校、学び舎が知の神、騎士学校が武の神、そのままおうさまの教えが救いの神である。

同一神だが、時と場合にによって使い分けされるだけであり、祀る教会も壁画や肖像も同じもの。


<信者>

おうさまを神として崇める人たち。

生き汚く生きる人は等しく美しいが教え。

ほぼ全ての信者が勤勉、勤労、隣者を愛す。


<神学者>

叡智の民、歴史家きしたちとは異なる歴史家。

この世界は古代を合わせると様々な神が存在するが、主に最近の神々を主に研究する。

おうさまの他におうさまより少しだけ以前の神も考察している。


<処刑人>

ワルモノ?読んで字の如く、処刑人。

叡智の都に住む歴史家の一部を殺した人、複数人いる。

おうさまが燃やすように命ずる以前は、基本死体は埋めていた。

偶に埋めた死体がグールになることもあった、浅く埋めた時は虫が湧くこともあった。


<侵略者>

諸国連合、国にはびこる叡智の民がうるさくなってきたので消そうとした。

本来叡智の守護を担うべき国は、叡智の都が亡びるときより以前に、西の国、南の国共に滅びている。

叡智の都は都市国家として残っていた。




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 何も残すまいと、都市に油をまき火をけけた侵略者。結局のところに彼らは、何をしたかったのだろう。一部のちゃっかりとした者は確かに、叡智で積み上げられた知恵れきしを手に入れた。だが、彼らの大多数である叡智えをいらないものとした者たちは、都市としての叡智しか滅ぼすことができなかったのだ。ただ、金を使い、民や貴族の不満を買った侵略者たちの主は、その隙を突かれ叡智の復活を許してしまった。その失敗を認めえぬが故に彼らは、自らが度量を試すために態と見逃したものとした。



『何を美とする、美しき花もその根はどろの中なのだ』



 叡智としは滅びて、叡智れきしは生きた。されど、侵略者は何も残さずして、ただ周囲に生きる者たちの中に無意味おめいを残して消え去った。滅びぬ国はない、滅びぬ国はないのだ。奴らかれらは間違えたのだ。その場の、目先の欲にだけ囚われ、意味の亡き戦を起こし、結局のところ彼らが得た物は、自国での少しだけの利のみで、後の滅びであったのだ。




△▼




題 かみさま、きれいですね (『綺麗ではないか』の学習書)



女の子は言いました、かみさま、きれいですね

かみさまは言いました、あなたの、ボロボロになった手のほうがきれいですよ


男の子は言いました、かみさま、きれいですね

かみさまは言いました、あなたの、あせをふく姿のほうがきれいですよ


父は言いました、かみさま、きれいですね

かみさまは言いました、あなたの、しごとをやりとげた顔のほうがきれいですよ


母は言いました、かみさま、きれいですね

かみさまは言いました、あなたの、子を見る目のほうがきれいですよ


きぞくは言いました、かみさま、きれいですね

かみさまは言いました、あなたの、太ったお腹はきれいきたないですね


かみさま、かみさま、きれいですね

なんで、そんなにきれいなの

かみさまがきれいなのは、みんなのためにがんばったからなんだよ


かみさま、きれいですね




△▼




 一日経った、流石に暇である。物音一つしない、外の喧騒もない。動くものが一人しかいない、当たり前である。目を閉じて耳をすませど、あるのは己が生きる音しんぞうのおと。はてさて、腹も減ったし(といっても我慢できないほどではない、小腹が減ったな程度)、便意はなぜかないのが不思議だが、これを後一日続けるのは非常に苦痛である。パッと走って、パッと様子を見るぐらい大丈夫ではないだろうか。玉座の後ろの幕をくぐり、簡易執務室の作業机の引き出しより双眼鏡を取り出し、そのまま近くのバルコニーより外を眺める。



「何故だろう、双眼鏡を覗き込んでる時に、弓矢が飛んでくるところを幻視した」



 いや、普通の弓ならば長弓であろうと、高さ的には届くか届かないかギリギリなんだが、風の加護を得し矢ならば容易に届くだろうし、弩であれば王城を囲む内城壁の上からならば、少し頑張れば狙えるハズである。双眼鏡覗いた瞬間、額にサクって刺さる矢、力なくそのままの状態で生き絶え、後ろに崩れ落ちる我。非常に間抜けすぎる、あちらからしたらカモネギもいいところだ。いや、我だと気づいているならば、王庫を開くに必要であるため攻撃をせぬ可能性もあるが、のこのこと外へ出てくるような間抜けである、流石に普通、王はそのような事、考えなしな事はしないものだ。近衛の誰かの遠視見であると判断する可能性が高い。



「呟き程度の独り言であるとはいえ、口数が増えたものだ」



 奴らはわれのくにの貴族は間抜けである。他国の軍閥貴族は腹黒く優秀であるのに対して、我が国の軍閥貴族は王権が元々強く独裁的な要素が強かった王軍が存在するが故に、戦いを主導することには慣れていない。行軍予定など、王族の軍権を得たものが適当に決めていた。結構無茶振りもあったのだ、普通は時間がかかる攻城戦を3日で終わらせろ、旅人が歩いて1週間の道程を半分以下の速さで進め等である。王族側も流石に無理なことは分かっているが、それでも前後二日以内に済ませることが絶対条件であったのだ。此度はそのような枷、奴らにはない。慌てずともこちらに援軍はないので、非常にのんびり来そうである。



 何ということだろう、つまり、未だに後続の軍が到着していない可能性もあるのでないだろうか。決断力も、行動力も足りぬ奴らである。なんだ、反乱の使者など寄越し、胸を張って「王よ、我らは貴方が王位について二年、そして更に二年もの間、雌伏を時を待ちわびていたのだ」などと宣うのである。我、大爆笑。いや、確かにいつかは反乱すると思っていたが、反乱のくせに使者を寄越すことに驚き、合計4年も様子を伺っていたことに驚いた。いくらでも機会はあったろうに、父上が急病で死に、後を追うように兄様が死んだとき甘ちゃんの姉様ではなく、我が既に独裁していたのだ、その頃からお家取り潰し連発だったはずなのだが、一々我が王位に着くの待ってそれからだぞ。我、今二十歳、独裁し始めたの14の時、14~16歳の時が普通頃合であろうに。



「いや、そんな間抜けに負けた、我って酷くね?」



 考えるべきことではなかった、墓穴を掘る結果になってしまった。いや!仕方あるまい!なにせ、頼りな筈の王軍は弟リーンランドが、まさかのリオンデーンを倒したあとに流れ矢で死に、軍が散り散りとなるとは思わなかったのだ。あの時我は、食事も喉に通らなかったほどなのだぞ。虎の子は壊滅、停戦、そして和平を結ぶまでに頑張った我を褒めて欲しい。そこにたどり着くまで計四人の使者が首だけになって帰ってきたのだ。四人ともが全員外交に優れ政治にも優れた文官でお気に入りだった、かと言って落ち込んでいる間に少しだけ残った王軍の国境防備が突破されれる寸前だったし、なんとか持ち直したがな。



 いや本当に王軍は最後までよくやってくれた、軍事国家二国に対してあれだけ持ちこたえたのだ。父王がトローテルンガやイオキスハントに喧嘩売なくて、もし二面作戦だのにならなかったら、我もこんなことにならなかったんじゃないのかな~なんて。彼らにしては軍費はこちら持ちだとはいえ、鬱憤もたまっていただろうし、導火線に火のついた火薬の上に座っているようなモノだったのだ、滅びるの我、悪くないよ、全部父のせい。間抜けなのは父であり、ここまで持ったのは我のお陰なのだ!いや、誰だよ、導火線短くしたのアンタだからといった奴は。



「あれだろ?悪いのは我ではない!世界の方だ!」



 何か締めた気、話が大幅に変わっていた気もせんでもないが、結局のところ奴らがここに来るまでに相当数の時間がかかる可能性もあるのだ。先に到着した軍が早すぎたのだという考え。ぶっちゃけ逃げれる気がせんでもない。我が騎士より、王都に入ってきたのが8万と聞いていた。中軍が6万、後軍が8万、輜重隊が4万、総勢26万なのだとか。いや、これだけ馬鹿が多かったら西と南に勝てたのに。4万の王軍をやり繰りしていた我馬鹿らしいのは気のせいだろうか。また、思考がそれていた。8万あれば十分王都は囲める、残りの16万が到着してもし我が生きていたら汚しに怪我したあと処刑するって言ってたし、使者が。あの使者は我が怒ってその場でたたっ切られるとは考えていなかったのだろうか。現に側にいた近衛達は柄に手をかけていた。むしろ、潔すぎてそれを手で制したのだが、単に考えていなかったんだろうな。奴らもそこまで無能ではないだろうから、貴族側もおそらく厄介払いに送ったに違いない、奴がのこのこと帰ってきて唖然とする姿が目に浮かぶ。



 ……ん?今気づいたのだが、あのヒゲヅラではないか、今目の前に転がっているそれって。ヒゲヅラ哀れ、結局こいつ、遅かれ早かれ死ぬ運命だったのか。兵士にとほぼ同じくして突入させるなんて、他の連中はなんと唆したのだ。一番槍の功は貴様にあるとか、我を最初に好きにしていいのだとか?いや、こいつらに抱かれるぐらいなら自害するが、男、それも気持ち悪い奴らである。馬糞の方がまだ可愛い。そう言えば以前、騎士に嫌味でボロクソに虚仮威したものである。騎士は何故か感動するばかりで、同意も得られなかったが。ほとんど、市民、村民、農民出身から取り立てたからか?



 仕方あるまい、貴族騎士など我につけようものならば、マジ手篭にされる。12歳の時、伯爵家次男出身の貴族騎士に笑顔で「ありがとう」と告げたその夜、夜這いをかけられた。「姫が悪いのですよ、こんなにも可憐で」とか言いながら来たから、思わず咄嗟にもいだ我は悪くないのだ。手袋していなかったら触りたくもないけど。その後、もちろんもがいて蹲っているところを護身用の短剣で首掻ききってやった。その後、二名ほど貴族騎士が我の付きになったのだが、全て全部夜這いかけてきたのだ。二人目は手袋なかったから足で潰して、部屋の外に蹴り出した、喜んでいたのは見間違いだろう。三人目は近くに置いてあった、ペーパーナイフで切り落とした、ペーパーナイフは捨てた。流石にそれ以降は女官を付けるだけで護衛はなくなった。



 その後、すぐさま自らの近衛設立を父上に命じてたのんで必死に国土よりかき集めたのだ。各地で武術大会を開き、そこからよりすぐりを集めた。当初は120人だったのだが、私兵としての意味合いのあったので、順次増やしていった。周りが王のハーレムだとか呟いたが、男に襲われるのを防ぐために手足のごとく動く騎士団を作り上げたのだ。時折訓練と称して、200ほどの盗賊に50で突っ込ませて、文句言ったやつは第二近衛なるものを作って送り込み、姉様、妹にプレゼントしたりしたものだ、貴族騎士よりは有能、恭順だったので大丈夫だろう。そのまま西と南に喜んで連れて行ったし。



 姉様もあのお淑やかな見た目で我より酷かったものだ。何人のあれをクラッシュしたのか。噂だけで14人は硬かろう、嫁ぎ先の王太子を手玉に取る姿が目に浮かぶ。妹は気の強そうな見た目のくせに、常におどおどしていた、だが、泣きながら潰したらしい、何がとは言うまい。クラッシャー姉妹とは誰が付けたのか、むしろ壊される奴がこの場合悪いのではないのか。お家を罰するが当然の所業であるが、むしろ整いすぎた容姿のせいで昔から恒例になっていて、対応するが面倒になったと聞いたことがある。成功するのならばそのまま妻としても良いとされているが故に貴族の暴走である。美味しすぎるご褒美のため、チャレンジャーが後を絶たないのだ。



 悩んでも仕方あるまい、とりあえず、まだ来ないものとして外を伺うか、脇目もふらず騎竜に乗って逃げ出すか。あねさまーとか言って泣きついたら助けてくれる気がする。こっそり匿ってもらうのもいいかもしれない。結婚しない理由づけもできそうだし、「我は王の役目を捨て逃げてきたのです、恥ずべき行為を働いた我が何故女の喜びを知ることができましょう」とか言ったら大丈夫。貴方の決心は理解したわ、あとはすべて私に任せておきなさいといった感じにだ。



 剣を右腰に備える、そのまま執務室へと向かい、鍵付きの引き出しを開ける。中には装飾短剣と弟に遺品である双眼鏡。軍用のこれは以上に高性能で、市販されているモノと比べ、倍率すらも変えることができるのだ。短剣も腰の後ろに差し込む。先ほど一考したようにバルコニーにへと向かい、外を眺めようと双眼鏡を構えた。そして目に近づけようとして外の様子にようやく気づく。



「王都、でっかくなっちゃた」


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