うらぎり

 切尾商会の株主総会の場で、議決権を行使する者は、中ノ方サマの委任を受けた前の婿サマ、前の東ノ方サマの委任を受けた前の東ノ婿殿、西ノ方サマおよび北殿の委任を受けた西ノ婿殿、南ノ方サマの委任を受けた南ノ婿殿、それに前の老松長者、五丘労働組合の血池代表の六名であった。

 株主総会直前、南と西の両派閥の陣容は次の通りであった。

 南派は南ノ婿殿、前の東ノ婿殿、前の婿サマであり、西派は西ノ婿殿、前の老松長者、五丘労働組合であった。株式の保有割合は、六十二パーセント対三十八パーセントで、差が開いていた。

 当初、前の東ノ婿殿と前の婿サマは西派に与していたが、東ノ婿殿の策謀により、婿サマは南派に追い出された。そこまでは東ノ婿殿の思惑通りであったが、前の東ノ方サマの精神の変調が激しくなると、彼は看病のために家内政治を側近のアサイドに任せた。

 アサイドはもともと前の婿サマに近い間柄であったので、東の一族を再度、南派に転じさせてしまう。

 株主総会が開かれた。重要な議題は、南ノ婿殿から出された、西派の追い出しを中心とした改革案の可否であった。

 結果は、西ノ婿殿、五丘労働組合、前の婿サマ、前の東ノ婿殿の反対により否決された。賛成したのは、南ノ婿殿と、前の老松長者のみであった。賛成二十三パーセント、反対七十七パーセントであった。

 南ノ婿殿は、前の婿サマよりも前の東ノ婿殿の裏切りに驚き、思わず、アサイドから聞いていた話との違いを問いただした。東ノ婿殿は、東におけるアサイドの影響力と前の婿サマとの仲が許せないでいたので、アサイドをも罠にはめたのであった。

 西ノ婿殿の提案が通り、彼に敵する切尾商会の執行役員は役を解かれた。これにより、彼の権力の基盤が整い、権力争いは西派の勝ちに終わった。

 前の婿サマの側近たちは、前の東ノ婿殿を敗者にできず悔しがったが、新しい体制でも権威を確保できるであろうことを喜んだ。

 前の老松長者は、側近ともども、家内政治の才のなさを改めて示し、引退をよぎなくされた。

 アサイドと南ノ婿殿は死んだ。

 南ノ方サマは西ノ婿殿と面会し、三十年間の五丘町への出入り禁止を受け入れる代わりに、南の家長の座は保った。

 西ノ婿殿から報告を受けた西ノ方サマは、他人事のように、ディアドコイは終わったのね、と口にした。

 一連の混乱は、姉妹戦争と呼ばれている。

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