第3話 『悪夢、再来』

 俺たちの新学期は、それはそれは酷く多忙なものだった。

 俺たちは無事に進級し、高校二年になった。つまり、後輩ができたということであり──

「あの、東條先輩と冬見先輩がいるって聞いたんですけど……」

「東條先輩はどなたですか!? マスコットみたいで可愛いって聞いたんですけど!」

「冬見先輩っていう大和撫子はどこにいますか!?」

「これを東條先輩に渡してくれませんか!」

「あ、俺も俺も!」

「私もお願いします!」

「ええい、お前ら! ちょっと黙れ!」

「冬見と東條は見せ物じゃねえんだ! 帰った帰った!」

 という感じで、休み時間になるたびに、どこから聞きつけたのか後輩が二年二組に殺到するのだ。

 二か所の出入り口を男子が手分けして封鎖し、女子は奥の方で東條さんと香凛を隠すことで、なんとか事なきを得ている。去年は去年で先輩方が殺到し、今の倍以上は殺到していたとのことで、毎時間授業の開始が十五分は遅れるという状況が出来上がっていた。

今年も同じ状況が予想されたため、東條さんと香凛は一緒のクラスになったんだとか。だが、うちのクラスにどちらのファン(?)も殺到するため、とんでもなくカオスな状況が出来上がっている。

「噂には聞いてたけど、とんでもないなこれ……」

「ほんとそれな……」

 ようやく収拾がつき始めたものの、まだ一時間目の休み時間。これからまだ最低でも七回は同じような状況ができる──そう思うと、ひどく憂鬱になるのだった。

「みんなありがとう! そしてごめんなさい……」

「私どものわがままのために、本当にご迷惑をかけております……」

 東條さんも香凛も去年のことを思い出したのか、げんなりしているように見える。香凛から話は聞いていたけれど、聞くのと経験するのでは臨場感がまるで違う。

 幸い今日は金曜日なので、明日は学校がない。それが今頑張るための希望と言っても過言ではないだろう。

 一人一人に労いの言葉をかけている二人を見ていると、姉妹じゃなくて親子に見える。これが同じ高校生だとはとても思えないほどだ。


 その後、二時間目の休みから六時間目の休み時間、あと昼休みを合わせて計七回の戦争を乗り切り、ようやく放課後。

 流石に帰るときまでクラスメイトは付き合ってくれないので、俺と颯太で道を切り開きながら、何とか昇降口まで辿り着く。

 交互に靴を履いて、一気に校門までの道を駆け抜ける。

「はあ……はあ……」

「大丈夫か?」

「え、ええ……なんとか……。やはり私も体力をつけないといけないですね……はあ……はあ……」

「悪夢再来だな……」

 去年の放課後は香凛の付き添いで同じことをしていたため、手際よく脱出することができた。むしろ、後輩だけを撒けばいい分、楽だったと言える。

「そういえば、東條さんは帰りどうしてたの?」

「私は、颯太が怒鳴って脅して道を作ってたから、あまり苦労はしなかったかな」

 颯太に向けて抗議の視線を送る。

「そんな簡単な方法があるのになんで実践しなかったんだよ!」

「いや、俺もさ、夏希に変なイメージがついたらアレだよなって思って……」

「ああ、なるほど……」

 颯太も頭が悪いなりにいろいろ考えてるんだな。

「とにかく、しばらくはこれも続きそうだし、この後ファミレス行かね?」

「いいね! 行こう行こう!」

「俺はいいけど、香凛は?」

「ええ、私も早急に目立たず忍のように逃げ隠れできる策を弄したいので賛成です」

「んじゃ、行くか!」

 颯太を先頭に歩きはじめる。

 確か、ここから歩いて十分くらいのところにチェーン店のファミレスがあったはずだ。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る