魔女の嫌悪

妹尾 尻尾

第1話

 魔女について、少し話そうと思う。


 これは良く知られている話だが、魔女と一夜と共にした者には、その『ちから』の一部が与えられる。しかしその大きさは、決して自分たちの意思では決められない。それは、娘がほしいからと言って、生まれてくる赤ん坊を女の子に出来ないのと同じく、どうしようもないことなのである。


 いまやラジオが発明され、空では『飛行船』という名の巨大な風船が飛び交って、複数の都市国家が王国へ統一されたこの時代。科学的には全く証明されておらず、一般社会にもあまり知られていないことだが、しかし魔女たちの間では古くから、こんな言い伝えがある。




「――魔女から授かった『ちから』の大きさは、その魔女と男との、愛の大きさに比例する」


 女が臆面もなくさらりと言ったその言葉に、僕は、かつて無いほどの衝撃を受けていた。


 愛、だって?


「んで、その『ちから』の片鱗をわけてもらった男ってのが、俗に言う『魔女の使い』ってやつ。こっちは有名だけど。アンタもその一人ってこったね」


 タバコの煙をぷかぷか吐きながら、女は続けた。


「アタシも色んな『パシリ』を見てきたけどさァ……」


 吸い終わったタバコを、灰皿につぶす。『魔女の使い走り』で、『パシリ』か。


「アンタみたいなのは、初めてだね。相手の魔女の『ちから』、全てを与えられた男なんてのは」


 呆然とする僕にお構いなしに、女が何もないところから再びタバコを取り出し、ぱちんと指を鳴らして火をつけた。そんな、魔女の一連の動作を眺めながら、僕は、彼女のことを思い出していた。


 あの、『嫌悪』という名の魔女のことを。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る