第24話 卓球対決②-東城VS安屋敷ー

「さあ続いて第二試合! 中堅、お嬢様対安屋敷選手! 両選手が卓球台の前で合間見えます。解説の涼太さん、この対決はどう見ますか?」

「うーん、まあ東城は普通に運動できるのはわかるんですけど、安屋敷がどれほどなのか未知数なんで、予測できないですね」

「やっちゃって下さい、お姉さま」

「東城さんで終わりですね」

「あ、安屋敷さん、どうか頑張って下さい」

「りんりんファイトだよ」


 チームメイトから応援を受ける二人だったが、もうお互いしか見えていないようだ。

 熱い闘志をたぎらせる中、東城の様子がいつもと違うことに気づいた。

 一見普通に見えるものの、呼吸がいつもより荒い。

 横に目をやると、ベンさんも気づいているようだったが、特に何かするような気配はない。

 じゃんけんは東城の勝ち。東城のサーブから始まる。


「安屋敷様、正々堂々と勝負ですっ」

「かかってきなさい、東城のお嬢様」

「かかってきんしゃ〜い」


 東城のテンションが明らかにおかしい。

 まるで酒に酔っ払ったおじさんのようだ。


「いっきますよーっ! そ〜れっ!」


 ふわふわっとしたサーブが安屋敷の前に飛んでくる。


「とりゃあ!」


 甘い球をすかさず、スマッシュする。

 力強い打球が東城の横をかすめていった。

 ぼーっと何もないところを見ている東城。

 背後でコンコンと球が床ではねているのに気づいたのは数秒遅れてからだ。


「あれま。球がコンコンですよ? きつねさんもコンコンッ!」

「お嬢様が……お壊れに……」

「どうしたんだ東城?」

「ほわい?」

「ま、まさかこんなに……」


 安屋敷がひどく驚いたように苦笑いを隠せずにいた。

 何かしたのか?


「おい安屋敷! 東城に何をした?」

「な、何をって……ただ甘酒を飲ませただけよ」

「甘酒?」

「そうよ。悪気はなかったのだけれど、ただちょっと効果があるかなあって思って渡したのよ」

「甘酒だけであんなに酔うとは……」

「――さあ!どんどんいきましょー!」


 東城はハイなテンションで弾けていた。

 完全なるキャラ崩壊。


「あおいちゃんが攻略できないんれすよ〜。なんとかしてくださいよ〜林檎様」

「あおいって誰だよ! ってか、さらっと下の名前で呼ぶな!」

「あおいちゃんを知らないんですか⁉ あの超絶可愛い学園のアイドルですよ? 林檎……リンゴリラ?」

「誰がゴリラじゃ! それタブーよ、絶対に言わないでよ!」

「そ〜れっ!」


 突然、東城がサーブをした。不意打ちだ。

 しかしサーブは弱く、またふわふわっと安屋敷の前に飛んでくる。

 それを安屋敷は怒りに任せて振り抜いた。


「参ったか!」

「私の名前は真梨ですよ〜」

「呼んでねえっ!」


 その二人のやりとりはなんか新鮮で面白かった。

 結果は安屋敷の完全勝利。

 前の杏子と沙耶ちゃんの試合とスコアが一緒だ。

 しかし、安屋敷はひどく疲れたように、椅子に座り込んでしまう。

 対して東城は全く疲れを知らないかのように、フラフラとしていた。


 黙っていたベンさんが我に戻ったように、目を覚ます。


「し、試合は?」

「安屋敷の圧勝です。一対一で大将対決に突入します」

「き、気を取り直して……何という魂と魂のぶつかり合いでしょうか! 一対一の同点で両チームの大将が戦うことに!」


「まあ、こうなってくれないと面白くありませんからね」

「ついに、私の出番だ……」


 大将である霧咲先輩と柚希が前に出てくる。

 ここは仲が悪いというか何というか。

 柚希もだいぶほぐれてきたと思ったけど、やっぱり霧咲先輩に対しては闘争心むき出しだな。


「生徒会長さん、いや霧咲さん。もういいんじゃないですか?」

「何のことですか宮原さん?」

「隠しごとはもう無しにしましょうよ。私もはっきりと涼ちゃんが好きだって宣言しますから。あなたも本当の姿を見せてくださいよ」


 柚希……。

 霧咲先輩の真の姿を知っているのか?


「そうですね。あなたは気づいていたのよね……いいわよ、ヤンデレ小娘」


 き、霧咲先輩、本性が出ちゃってる。

 もうさらけ出してしまうのか?

 霧咲先輩の言葉を聞いたみんながぞっとした。

 知っているのは、昼に僕と霧咲先輩の会話を聞いていた安屋敷だけ。

 みんなにバラしてしまっていいのか?


「そ、それではジャンケンしましょう!」


 ベンさんの声が高らかに響いた。

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