第5話 タイムアタック

 

 そして、何事もなく一週間が経過し、とうとう実践演習の日がやってきた。



「よしじゃあ、第三アリーナ集合な。遅れるなよー。あと、CVA忘れんなよー」

 

 


担任の高橋茜はいつもどおり少しけだるそうな感じで言葉を残し、教室を去っていく。

 

 クラスの様子はやはり全員楽しみにしていたのか、浮き足立っているような雰囲気であった。


 そして、第三アリーナに全員が集合する。

 


「よしじゃあ、今日は基礎の発動からタイムアタックをやってもらう。んじゃ、有栖川。お前主席だったから実演してみせろ。」


 そういうと華澄は前でて、CVAを発動する。


「……創造クリエイト

 

 すると華澄の右手のブレスレットが弾け、その弾けた粒子が彼女の両手に剣を創っていく。刀身はそれほど長くなく、スタンダードな双剣であった。


 そして、発動時間は誇張ではなく一瞬。これは強さと直接的な関係はないが発動時間が早い方が上級者であるのは間違いなかった。


「おぉ、さすがだ。」「さすが有栖川さん! やっぱり御三家は違うわ!」




 

 (おー、やっぱり早いな。てか、双剣のCVAか。珍しくはないけど、あれ使う人苦手なんだよなぁ)


 などと歩が考えているうちに全員がCVAを発動していた。



「俺も出しますか」


 

 歩は右耳にあるピアスを親指で軽くはじく。すると彼の両手にはグローブが形作られていく。グローブと言っても手に完全にぴったりハマっており、グローブというより薄手の手袋のようだった。


「お、歩。お前のCVA……そりゃなんだ? ユニーク系か?」

 

 雪時は大きなハンマーを右肩に担ぎながら話しかける。


「あぁ。まあ、一応ユニーク系のワイヤーだよ。使い手はあんまりいないけど、そんなに強くもない微妙なやつさ。」

 

 歩は肩をすくめ、自虐的に答えた。


 それもそのはず、ワイヤーには弱点が多い。ワイヤーのCVAは遠距離の戦闘は得意だが、近接戦闘は壊滅的かいめつてきに弱い。

 

 しかも、CVAは近接武器が多いのもあってワイヤー系の武器はサポートするための武器という認識が強いのである。

 

 ちなみに、ワイヤーは硬度をある程度自由に変えられる。本人の創造力にもよるが、だいたいは剣並みの硬度を保つことも可能である。加えて切られてもすぐに再生可能なのでワイヤートラップを作ったりと、そう言う面では多彩な武器。





「まぁ、でも強さはCVAだけじゃないぜ。VAも大事だからな。ほんじゃ、一緒にがんばっていこうぜ!」


「そうだな。てか、お前は予想通りというかハンマーなのな」


「このハンマーはまさに俺にぴったりの武器だな! あれこれ考えずに殴ればいいだけだからな!」

 

 クラスの全員がお互いにどんなCVAなのか話しているとき、茜は次の指示を出す。


「全員発動したなー。じゃあ、タイムアタックやるぞー」

 

 タイムアタックとは、世界的に採用されているCVAの基礎能力検査である。直接的な強さとは関係ないが強さの一つの指針となる。


 検査方法は、まずフィールドに入りスイッチを押す。すると、10秒後に計30体の人形ドールがでてくるのでそれをCVAで破壊する。その全てを破壊する時間と人形ドールに与えたダメージを点数化する。


 ポイントは分かりやすいように100が上限である。


 人形ドールはAI(人工知能)を搭載しているので攻撃はしないがランダムに移動はする。いかに移動する人形ドールを追い、効率よく倒すのかが鍵となってくるのだ。




 「じゃあ、テキトーに始めてくれー」



 

 最初はあの主席の有栖川華澄からということで、クラス全員が神妙な面持おももちで彼女を見ていた。みな、この学校の主席がどの程度のタイムを出せるのか期待しているのだ。




「じゃあ、始めます」

 

 華澄はフィールドに入りスイッチを押す。そして、10秒のカウントダウンが始まる。


 彼女は見られているのに対し緊張感は全くないように見え、むしろ自信にあふれているようだった。


 ――3、2、1 START! 



 という文字が彼女の目の前から消えたと同時に、その場を駆ける。


 双剣と身体を低く下げ、ものすごいスピードで人形ドールへ向かっていく。


 

「ハッ!!!」


 声を上げながら、一体目、二体目を双剣で同時に切り裂く。威力も申し分なく高い。それは見ているものにも明らかだった。

 

 そして、後ろを振り向くこともなく右手の剣を後ろに薙ぐ。


 いくらクリエイターの身体能力が高かろうと、見えないモノは反応しようがない。


 しかし、彼女は死角の人形ドールを切り倒した。これは一つの答えに導かれる。



 なるほど、感知タイプのVAか。でも、変だな。人間ならともかく人形ドールにも反応できるとなるとただの感知タイプじゃない。となると……


 歩が色々と思索しさくふけっている間に、華澄は残り5体まで来ていた。


 ここまで9秒。時間だけで言うなら非常に好タイムであった。

 

 そして最後の人形ドールも倒しブザーが響いた。時間は10秒フラット。



 しかし、時間だけでなく威力も換算されるのがタイムアタック。


 終了し、3秒程度経過したと同時にモニターに点数が映し出された。


 ――92ポイント。そう映し出される。



「おい、まじかよ!?」「ここまでなの!?」「さすが、有栖川家だな!」


 ほぼ全員が驚きの声を上げる。


 このタイムアタックは70点台がでればいい方で、高校生のクリエイターのおおよその平均は60ポイント半ばである。それを軽く凌駕し脅威の90ポイント台を叩き出す。それほどまでに主席――有栖川華澄は優れていた。



 

「まぁ、当然の結果ね」

 

 そう言うが、彼女がそれをいっても全く皮肉には感じられない。クラスメイト全員は改めて彼女を認めたのだった。


「おお、すごい点数でたな〜。じゃあ、次のやついけよ〜」

 

 茜がそう言うと次の人が行き、続々と結果が出て行く。しかし、始めの驚異的な結果は出ないままであった。よくても60ポイント台である。


「えーと、次は七条歩か。オーイ、七条行けるか? 大丈夫か?」

 

 担任の茜はそう尋ねる。なぜなら、歩はぶつぶつと呟き、順番なのにまだ所定しょていの位置に来ていなかったからだ。



 あれはなんだったんだ。見たことない感知タイプのVAだったな。人じゃないとしたら無生物に反応するのか? そう言う例もあるが、人に反応できなくて無生物に反応できるってのもなぁ……


 そう思考を巡らせていると、やっと呼ばれているのに気づいた。


「あっ、すいません。ちょっと考え事してました!」




 小走りでスタート位置へ行く。周りの生徒達もくすくすと嘲笑ちょうしょうではなく純粋に笑っていた。

 

 カウントダウンが始まる。

 

 3、2、1 START!!


 始まると同時に歩の瞳の色が緋色に変化し、そして彼の目は無数の視界にとらえた人形ドールをロックオンした。

 

 これは本当にゲームのように彼の目にはロックした印が見えているのである。


 そしてその瞬間、両手のワイヤーを伸ばし一気に10体もの人形ドールこまれにした。




 よし、あとは20体。このぐらいなら、一気に行けるか。


 そう歩は考えると上空に飛び上がった。彼は空中ですべての人形ドールにロックをかけ、両手のワイヤーを一気に伸ばす。


 そして、残り20体ほぼ同時に切り裂く。くだけ散ったポリゴンが舞う。その光景はまるで雪が降っているようであった。これは同時に大量の人形ドールを破壊したからこそ見ることができる珍しい光景である。




 

 そのまま着地すると、周りは再びざわついていた。



 

 結果は3秒。しかし、威力も考慮されるのでそこまで高ポイントが出ないだろうと誰もが思っていた。しかし、ポイントが出たときそれは裏切られた。


 ――91ポイント。あの有栖川華澄に1ポイント差にせまる点数。これには流石の華澄も驚愕せずにはいられない。


 さらに周囲がざわつく。そんな中、華澄が歩に近づいてきた。




「七条君。きみ、ここまでできる人だったのね。ワイヤーなんてユニーク武器少し侮っていたわ」

 

 上から目線で話しかける華澄だが、その言葉には少しうれしさのようなものが混ざっていた。


「正直、この3年間同学年には私に勝てる人なんていないと考えてたけど……今後が楽しみね!」

 

 彼女は微笑んだ。まるで、楽しいおもちゃが見つかったかのように。


「まぁ、でもタイムアタックだからこその結果。肝心の対人戦は苦労しそうだよ」


「まぁ、謙遜して。でも、私もこれを機会にユニーク武器について少し勉強しようかしらね」

 

 そう言い残し彼女は去っていった。

 

 それから30分ほど経過し、全員の結果が出た。トップは有栖川華澄、2位が七条歩、3位が不知火しらぬい彩花あやか、4位は相楽雪時。90点台を出したのは二人のみで80点台が一人であった。




「じゃあ、これで今日の演習終わりな。はい、解散」

 

 茜がそういうとみな教室へと戻っていった。



 戻る途中、雪時が歩に話しかける。


「歩、すごいじゃん! あの有栖川さんに1ポイント差まで迫るとか! しかもお前のVAなんだあれ!? 視覚系なのか!?」


「ちょっと、落ち着けって。VAは視覚系だよ、複眼マルチスコープってやつ。同時に複数のものにロックできるVA。ワイヤーと相性いいから重宝してるよ。でも使ってる間は目の色変わってて対人戦なら相手にモロバレだし、使いすぎると目から出血するとか欠点もあるけど」


「はー、すごいな。俺が持ってても使い物にならないVAだな。やっぱりVAって本人に一番なじむやつが発動するよな。俺とかは部分的な身体強化で、まさにハンマーにはもってこいって感じだからな」


「まぁ、そこんとこ含めてCVAってホント謎だよ」





 実践演習はこうして終了するのだった。

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