第6話 イメージ

     ◆◆◆


 公園に到着。


 そこには誰もいなかった。親子も老人も作業員も誰も。もともととても小さい公園で、この辺りの人間でも認識しているかいないかぐらいの存在でしかない。しかしそれは寧ろ好都合だった。私たちが今から行おうとしていることは、この紋章の力試しなのだから。


 事の始まりは昨日の夕方に至る――



 久しぶりに家族でショッピングモールを訪れた。本来なら明日に控える球技大会の上位戦のために作戦を練らなければならないのだが、親がショッピングモールのビンゴ大会に参加するぞとうるさいので、渋々ついていくことに。まあ、作戦を練ること自体は別に自宅でなくても出来ることだ。ビンゴ大会の最中にだって考えられる。


 自宅から車で数十分のショッピングモールに着き、ビンゴ大会を開催する三階催事場へ向かった。それにしても、普段こういった催しに興味を示さない親がいきなりビンゴ大会に参加するからついてこいだなんて、よっぽど景品がいいのかハズレがないのか……。


 少し気になってビンゴ大会の景品が示されているボードを眺めた。1着はグアム旅行ペアチケット、2着は新潟県魚沼産コシヒカリ10キログラム、3着はこのショッピングモールの割引券。なるほどね。私は利用されたわけだ。グアムペア旅行を当てるために。別に気にすることはない。当たるわけないし、万が一当たったとしても両親が数日間グアムに行くだけの話だ。どちらにしろ害はないし、寧ろ当たってもらったほうがこちらとしても好都合だ。自由時間が増えるのだし。


 ……と、いろいろ考えているところでビンゴ大会の整理券が手渡された。開催時間は午後七時からか……まだ時間があるな。それまでは本屋にでも行ってようかな。両親はそれまでに食材やら生活品やらの買い物を済ませるらしいので、私は一人で本屋へと向かった。


 その途中だった。


 「……ッ!!!」


 急に右鎖骨下を激しい痛みが襲った。痛みはその部位を焼き焦がすようにじわじわと広がる。


 「ぁ、くッ……!!」


 道の真ん中でうずくまるわけにもいかない……お手洗いに行こう。そこなら鏡もあるはず。――なるべく周囲に迷惑をかけることのないよう、痛みを我慢して最寄りのお手洗いへと足を運んだ。だがその頃には既に痛みは消えており、普通に立っていても平気なぐらい。それでも念のため、痛みを感じた右鎖骨下を鏡で確認することに。


 「これは……!」


 肌の色と少し同化していて見づらかったが、それは確かに“紋章”だった。白の紋章……。これは明らかに異常だ。だがこの異常を訴えたところでどうにもなるまい。下手したら私の体を実験体にされかねない。とりあえず、周りに気づかれないようにしよう。


 それにしたって、よりにもよって白とは不自然だ。普通、という言い方もおかしいが何かが体に現れるにしたって、大体は赤・青・緑などのわかりやすい色が現れるはず。だとしたら私以外にも同じように紋章を刻まれた人間がいると考えるのが妥当だろう。そして、たった今“痛みと共に奇妙な紋章が体に刻まれる”というおかしな現実を目の当たりにした。もしかしたらこの紋章には物理法則を無視する力があるのではないか?


 マンガや小説の中の話みたいだが、そうであったら面白い。いや、寧ろそうであってほしい……!


 そしてこの紋章にそれだけの力があるのならば、私の夢を叶えることだって夢じゃない。信じてみよう。試してみよう。この紋章がどんな意味を持つのか。


 お手洗いの個室に入り、早速試してみることにした。紋章の色は白。だとすると、炎や水なんていうありがちな力はまずないだろう。考えられるとしたら……風、光、治癒とかだろうか。ありがちな話なら、「ソレ」を生み出すイメージをすれば出来るらしい。呼吸を整え、一つずつ試すことにした。


 まずは――風。風を生み出すイメージを思い浮かべ、右腕を前方に伸ばし閉じていた指をゆっくり開いた。――何も起きない。風は違うか……。


 次は――光。幸いこの個室は少し薄暗い。光の効果が発揮されればこの個室はたちまち明るくなるだろう。光を生み出すイメージを思い浮かべ、先ほどと同様に指を開いた。しかし、またこれも何も起きない。どうやら光も違うようだ。


 だとしたら、治癒なのだろうか? 私がサポート系の力を得るとは到底思えないのだが……。試してみたが、思った通り治癒の力でもなかった。まあ、そうだろうな……。それならこの白い紋章は一体なんだ?まさかただのお飾りとは思えない。


 「もしかして……」


 少しの不安と期待を込め、先ほど試したときと同じように右腕を前方に伸ばし、指を開いた。――イメージする。私が求めている力を……!!


 「……!!」


 ――――――閃光が煌いた。雷。それが白い紋章の――私の力。

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