カミツレ

よもつひらさか

第1話 僕の守護神が酷い

僕の名前は神庭遊(かんば ゆう)二十歳だ。


僕は幼い頃から体が弱かった。


何かといえば、すぐに高熱を出すのだ。


一度、僕は死に掛かった。


病院でもわからない、原因不明の高熱が1週間続き、


ついには意識がなくなったのだと母が言った。


僕がたぶん5歳くらいの時だ。


その時は、まだおばあちゃんが生きていて、おばあちゃんは


近所の古い神社の祠に毎日のように願掛けに通ったそうだ。


僕の熱が下がり、僕が意識を取り戻すようにと、


多いときは朝に夕に願掛けに出かけたそうだ。


しばらくして僕は意識を取り戻し、それからは嘘のように


熱が引いていったそうだ。


おばあちゃんの願掛けがきいたのだと、家族は喜んだ。


おばあちゃんはますます信心深くなり、その神社の小さな祠への参拝を


亡くなる前まで欠かさなかったのだ。


それからも僕はやはり体が弱く、よく熱を出したが、命に関わるような


大病はしなかった。


そして僕は体も弱かったが、運も無かった。


僕が楽しみにしている行事にはことごとく雨が降った。


遠足、修学旅行、キャンプ、ことごとく雨が降った。


よく、つまらないことで怪我もした。


自分では気をつけているつもりなのに、思わぬところに障害物があったりして


また、何も無い所でもよく転んだ。


そして、最大についていないのは、父の転勤だ。


元々、大阪の割と便利な所に住んでいたのに、父の転勤で


山口県の片田舎に引越しをしたのだ。


いわゆる、左遷というやつだ。


それからの父の収入は激減し、家族の暮らしはあまり裕福ではなかった。


その後、さらなる悲劇が襲う。


なんと、父の会社が倒産してしまったのだ。


父は職を失い、しばらく失業していた。


そのため、母がパートを掛け持ちし、僕たちは絵に描いたような


貧乏な生活を強いられたのだ。


やっと決まった就職口は、工場で父は今までの半分くらいの給料しか


もらえなかった。母はパート掛け持ちの無理がたたって、しばらく床に伏した。


結局僕は、片田舎の冴えない大学ですら、受けることすら叶わなかった。


僕は親に金銭面で苦労をかけないよう、高校卒業し、すぐに就職し、


独立して一人暮らしを始めた。


今では、父も多少給料が上がり、母の病状も快方に向かい


実家は安定している。


だが、僕のほうは、相変わらずついていなかった。


お金を結構貸していた友人が突然音信普通になった。


友人は借金を踏み倒して逃げたのだ。


僕はなけなしの貯金を貸していたので、結局貯金はゼロになり


1日、食うや食わずの生活をしていた。


親に頼るわけにはいかない。


僕は今夜も、スーパーで半額のお弁当を買ってきて食べた。


遅くまで起きていると、お腹もすくし、電気代もかかるので、


僕はさっさと床についた。


夜中、何となく、部屋の中に違和感を感じて、僕は目が覚めた。


誰か居る。小声で話す声がしたのだ。僕は心臓がバクバクした。


勇気を出して、照明を点けた。


「誰だ!そこに居るのは!」


僕は大声で叫んだ。


ぱっと見、部屋には誰も居ないかに見えた。


よく目を凝らしてみると、部屋の隅に何か小さな20cmくらいの物が二つ見えた。


「あ、バレてもた。」


そのうちの一つがしゃべった。


「アンタがごちゃごちゃ言うから、気付かれたんじゃ。」


もう一つがしゃべった。


僕は死ぬほど驚いた。


ちっちゃいオッサンが二人、部屋の隅でお茶を飲んでいるのだ。


「なななななな、なにっ?アンタら!」


僕はまともに言葉がしゃべれなかった。


「あー、何って、ワシら神様なんよ。」


はぁ?神様?両方とも神様を名乗るにはおこがましいくらい薄汚い。


「まあ、神様言うてもね、疫病神と貧乏神やけどね。」


関西弁が、シシシと笑った。


「もう見られてもうたからにはね。自己紹介しますわ。


わしが疫病神で、こっちが貧乏神。よろしくね。


よろしく言うても、もう坊とは長い付き合いやねんけどな。」


「僕は、夢を見てるんだろうか・・・・。」


僕がそう呟くと


「いや、悪いけど現実やねん。坊な、5歳くらいんとき、高熱出して


死に掛かったやろ?あんとき、ばあちゃんが願掛けしとったよな?


あんとき祠におったのがわしやねん。ばあちゃん冗談きついよな。


わし疫病神やのに、孫を元気にしたってくれって、そりゃ無理な話やで。


ほんでも、あんまりにも熱心にお参りしてくれるさかいに、なんか


可哀想になってきてな。わし、ある日ばあちゃんについていって、


坊の病室まで行ってん。ほしたらな、坊の周りには、悪い霊のおっちゃんらが


3人体育座りしとってん。ああ、こいつらの仕業か、そう思ってわし


そのおっちゃんらを説得して、元の所に帰ってもうてん。


その次の日に坊は意識を取り戻したんやで?」


どこまで信じていいのだろうか。僕はついについて無さ過ぎておかしくなったのか。


「ほんでな、坊のおばあちゃんが亡くなってから誰一人お参りする人がおらんようなってな。


わしの祠は荒れ放題なってある日、わしが祭られとった祠が、雷で焼けてもうてん。


わし、帰るところ無くなったさかいにな、しゃあないから坊んところにお世話になっとったんよ。」


僕は怒りが沸々と沸いてきた。


「じゃあ、僕が病気がちだったのも、お父さんが左遷されて


会社が倒産したのも、お前の所為なのか?」


疫病神は、しまった、という顔をした。


「ま、まあ、多少は影響してるんかな?あ、でもわし程度の低級な疫病神やから


そんなもんで済んでてんで?もっとごっつい疫病神やったら、エライことになってるわ。」


しれっとそんなことを言う。


「ふざけんなよ、お前のおかげでどんなに苦労したことか。


じゃあ、友達が借金踏み倒して逃げたのもお前のせいか!」


僕は疫病神ににじり寄った。


「坊、そ、そりゃわしの所為ちゃうで。こっちの貧乏神のせいや!」


突然わが身にふられたもう一つは、鳩が豆鉄砲を食らったように驚いた。


「いやいや、あんたらが勝手に私の住処に乗り込んで来たんよ。


私はあんたらが越して来たあの家に元々住んじょったんじゃけえ。


あの家には、元々、小さい神棚があったじゃろう?あんたらあれを


そのまま使いよったじゃろ。」


ああ、あの小汚い神棚か。


あんな物は早く処分すればよかったのだ。


それでうちは貧乏になったのか。


「で?なんで着いてくるんだよ、お前ら。」


神様同士は顔を見合わせた。


「坊はな、自覚は無いかもしれんけど、実は憑かれやすい体質やねん。


坊の両親はそうでもないけど、あんたは幼い頃から憑かれやすかった。


坊は時々、原因不明の熱を出したりしたやろ?あれ、霊のせいやねん。


わしら、その度に、そいつら説得して帰ってもらってん。


坊は自覚ないから、自分でなんとかでけへんやろ?」


貧乏神のほうも、うんうんと頷いた。


「なんで疫病神と貧乏神が僕を守るんだ。


疫病神や貧乏神は人を不幸に陥れるのが


仕事じゃないのか?」


僕は意地悪く言った。


「心外やなあ。疫病神や貧乏神を見くびらんといてや。


疫病神や貧乏神が全部が全部極悪やなんて思わんといて。


わしは、アンタのおばあちゃんに頼まれてん。


孫を頼みますと。疫病神とは知らずに、そりゃあ熱心に拝みはった。


わしは、坊のおばあちゃんの熱意に打たれてん。


山口までついてきたら、引越し先にたまたま貧乏神がおって


最初は喧嘩ばかりしとったけど、あまりにも坊が憑かれやすくて弱いから


協力して守ってくれって頼んだんよ。


でも、まあ、わしらも疫病神と貧乏神やから、多少は坊の暮らしに


影響は出るわいな。」


さっきから聞いていれば勝手なことを。


「誰が守ってくれって言った!疫病神と貧乏神を信用しろってほうが


無理だろう!出て行け。今すぐ!僕の部屋から出て行ってくれ!」


二人の小さなおっさん神たちは、目を白黒させて驚いた。


「出て行けって、そんな殺生な。」


「今までずっと一緒に暮らしてきたじゃろう。


私達、心配でずっとあんたについておったというのに。」


二人のおっさん神は泣きそうな顔になった。


「一緒になんて暮らしていない!少なくとも僕は今日まで知らなかった。


どうりで運が悪いし、貧乏なはずだ。出て行け!ここから出て行け!


二度と戻ってくるなあ!」


僕が叫ぶと、二人のおっさんはとぼとぼと、こちらを振り返りながら


ドアからすうっと出て行った。


僕自身は僕が守る。


何が守るだ。疫病神と貧乏神のくせに。


わけがわからない。


あの小さいおっさんたちが路頭に迷おうが関係ない。


知ったことではない。

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