スカウト


「未成年だからラムレーズンでヤケ酒してやるっ! お酒はハタチになってからだからね!」

 ラムレーズンのアイスを買いに、少女がコンビニを目指す。

 ヤケ酒ならぬヤケラムレーズンをしたいのには、理由があった。

「アイドルなんて、こっちから願い下げなんだからねっ!」

 彼女はアイドルになりたかった。

 だが、なれなかった。

 オーディションに落ちてしまったからだ。

 不合格通知には、落ちた理由までは書いてなかった。しかし、心当たりはある。ダンスをミスって、そのミスを引きずって、まともに踊る事も歌う事も出来なかった。

「アイドルなんて……」

 今回もダメなら諦める──。そう決めてオーディションに臨んだ。

 ヤケラムレーズンで、アイドルになるという夢とは決別。一種の儀式である。

 儀式完遂のため、コンビニに行く途中──。


「君、北大路さんだよね?」


「はい?」

 スーツ姿の青年が、少女──北大路に声をかけてきた。青年は、懐に手を突っ込んだ。少女が「まさか、拳銃!?」と身構えるが、出てきたのは1枚の紙。

「俺は、こういう者だ」

 少女の目の前に姿を見せたのは、世間一般で言うところの名刺である。

 しかし、少女は名刺を受け取らない。

「……怪しい人とは会話しないようにしてるんで。失礼しますです!」←逃げ出す

「待ってくれ!」

「待ちません!」

「待てや、こら!」←すぐに追いついた

「ひいっ!」

「俺は怪しい者じゃない! 君をスカウトするのが目的なんだ!」

「私のスカートをめくるのが目的!?」

「スカウトだ、スカウト。君、芸能界に興味あるだろ?」

「どうして、それを……?」

「養成所に通って、アイドルになるレッスン受けてるよな。実は、君がレッスンを受けてるのを見た事がある」

「そう言えば……たまにスカウトマン的な人が来たりしているような……?」

「俺は、こういう者だ」

 青年が、再び名刺を差し出した。

 少女は、しぶしぶながらも受け取った。

「……神谷さん……ですか」

「『プロデューサーさん』と呼んでくれ」

「え? プロデューサーさん?」

「そうだ」

「でも、この名刺には……」

「ああ。俺は、声優のマネージャーなんだよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る