第28話 シュレディンガーの私

 『天井の染みを数える』

 昨晩、布団に寝転がっているとなんとなく題名だけが浮かんで、それを私なりに台本へ落としこもうと書いたものだ。ある日、天井の染みを数えていた一人の少女が宇宙人からのメッセージを発見して、単身、宇宙へと旅する話。星々を回るうちにあるロボットに恋をして、核爆発を阻止しつつも、宇宙ギャングに妨害され、なんやかんやで、天体の中心に立ち、愛を叫んでフィニッシュ。最高のものを書けたと畑先輩に持っていくと、気分高揚、一転して、原稿を読むやいなや、原稿はその場で縦に引き裂かれ、次いで横に切り刻まられ、等間隔の粉紙機に二度かけようとしては、その紙片の細すぎるために詰まりを起こして、それを隙間から引き抜くものだから、下部分が崩れ落ちて再利用すら叶わなかった。一晩中かけて私の書きあげたA4用紙のその束を畑先輩が烏賊そうめんのようにしているところを私は意外にも黙って、眺めていて、これが当然の結果だというように心のなかで納得していた。


 畑先輩がその作業を止めて、「なんでか判る?」と聞くから、私は「判りました」と応えると、畑先輩が静かに作業を続けながら「そう」と返した。「一言で言えば、リアルじゃなかった。鈴ちゃんじゃなくても書けるものだった」「(それ二言ですね、)そうですね。今理解しました」と私は本当に理解したのか、強がっているだけか、二人の自分が重ね合わせの状態で私の枠のなかにどうにか収まっていることだけは確実に理解していた。


 「どうしたい?また書く?」

 「書きます!」

 「じゃあまた、持ってきてね」


 私は演劇部室を後にした。

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