第12話 チヒロとカオル子、二人の過去 後編


「まあ素敵!!とっても良く似合っていてよ」


 カオル子は胸の前で手を合わせ目の前に立っているワインレッドのワンピースを着た少女を潤んだ眼差しで見つめる。


「それはどうも…」


 しかしその少女の表情は晴れない…それもその筈、少女の正体は生涯で初めて女児服に袖を通してしまった少年、チヒロなのだから…。

 現在、自分を女と偽ってしまいそれを撤回できないまま女装をしてしまった事に自己嫌悪していたのだ。


「このお花の髪飾りを着けたらもっと可愛らしくなるのではないかしら」


 カオル子はチヒロの左側の髪にマリーゴールドを模った髪飾りを着けた。


「ほら…どう?素敵でしょう?」


「…あっ…これが…ぼ…私?」


 チヒロは手渡された手鏡に映る自分の姿に魅入ってしまった。

 胸の鼓動が早まり顔が熱くなる…今まで感じた事が無い感覚…。

 恋…チヒロは自分の女装姿に恋をしてしまったのだ。

 この時きっと開けてはいけない扉が音も無く開いてしまっていたのだろう。


 この日からチヒロは財前家の住み込み使用人、カオル子付きのメイドとして暮らす事になってしまった。


 当初、メイド服を着ているチヒロの性別を知っているカオル子パパには嘲笑と侮蔑の眼差しを向けられたが憎しみの感情を押し殺して耐え続けるしかない…これも実家の為…そう言い自分に聞かせて…。


 学校もカオル子の強い希望で彼女が通う私立の女子校へ転入する事になった。

 常識的に考えて性別上男のチヒロが女子校に入れるはずはないのだが、依然カオル子にはチヒロの性別は伏せたままであったので断るのも不自然になる…。

 だが娘に甘いカオル子パパは女子校に裏から手を回し金の力で何とかしてしまったのだ。


 ここからチヒロの想像を絶する苦悩が始まる。

 立ち居振る舞いを女性に見える様にしなければならないのは、男として十数年過ごして来たチヒロには至難の業であった。

 脇を余り広げない、脚は内股気味に意識して過ごした。

 声に関しては声変り前なのが幸いし、周りに怪しまれる事は無かった。

 しかし当然チヒロは男の子なので体育の授業の着替えはばれない様に別室で着替え、水泳の授業は体が弱いと言う事にして休講していた…カオル子は閉口していたが…。

 何とか正体がバレない様に仕草や言葉遣いに気を付けて暮らしていく内に、特に意識しなくても女性としての振る舞いが出来る様になってしまったチヒロは同級生の女子の友達も出来、近隣の男子校の生徒の憧れの的になりラブレターを貰うまでの美少女になってしまっていた…でもチヒロは男の子だ、そんな事はちっとも嬉しくなかった。

 だがチヒロが困っている時は決まってカオル子が庇ってくれたり助けてくれた。

次第に頑なだったチヒロもカオル子に対して心を許す様になり、当初のカオル子パパの目論見通り二人は親友と呼べる間柄になりつつあったのだ。


 そして一年が経ち、チヒロの髪が肩まで伸びた頃…。


「ふぅ~…このひと時だけが私が僕に戻れる瞬間だな~」


 湯船に浸かり深いため息を吐くチヒロ。

 ここはチヒロにあてがわれた部屋にあるバスルーム。

 生活の全てが殆どカオル子と行動を共にしているチヒロにとってこの夜の入浴時間は貴重なプライベートタイムであった。

 この後は眠るだけで一日が終わるはずだったのだが…。


「チヒロ~!チヒロはいらっしゃる?」


 ビクゥ!!


 突然のカオル子の訪問に狼狽えるチヒロ。

 彼がこの屋敷に連れて来られて以来、深夜にカオル子が部屋に訪れた事などただの一度も無かったのだから。


「…ど…どうしたんですか?こんな夜遅く…」


 動揺しつつバスルームのドア越しにカオル子に話しかける。


「あら!入浴中でしたのね…これは失礼しましたわ

 わたくしも先程自室のお風呂に入ろうと思ったのですが生憎湯沸かし器が故障してお湯が出ないのですわ

 それで申し訳ないのですけどお風呂をお借り出来ないかと思いましてこちらへ来た次第ですわ

 それにチヒロが入浴中なら丁度良いですわね、わたくしも一緒に入らせて頂けないかしら?」


「えええ~!?」


 とんでも無い事になってしまった…。

 カオル子はチヒロが実は男の子である事を知らない…。

 お風呂では体を隠す事が出来ないのでこのままでは正体がバレるのは必至。

 何とかしなくては…。


「私はいいい…今すぐ出ますから!!済みませんけど部屋の外で少し待っていて下さいません事?!」


 慌てた所為で思い切りおかしなしゃべり方になった。


「なぁに?恥ずかしがっているの?

 いいじゃない…女の子同士ですもの

 チヒロったらプールの授業すら参加しないのですもの…つまらないのですわ

 いい?入りますわよ?」


 カオル子のシルエットがドアの擦りガラス越しに映る。

 万事休す!!


「ちょ…ちょっと待って!!」


 チヒロは堪らずバスタブに飛び込む。

 その直後にカオル子が一糸纏わぬ姿でバスルームに入って来た。


「………!!!」


 女性の裸など産まれてこの方母親位しか見た事が無かったチヒロの顔が見る見る赤くなる。

 目の前に同世代の女の子の裸体が有るのだ…無理も無い。

 しかし不自然に背など向けようものなら確実にカオル子に怪しまれるので何とか耐えていた。


「ご…御機嫌よう…カオル子さん」


「どうしたの?そんなに顔を赤くして…」


「…ちょっとお湯が熱いかな~なんて…」


「あらそう…にしてもあなた綺麗な肌をしてますのね…初めて見ましたわ…あなたったら学校の水泳の授業に一度も出席なさらないんだもの…」


 仁王立ち状態でこちらを覗き込んで来る。


「あ…あんまり見ないでください!!」


 身をよじり両手で胸と股間を隠すチヒロ。

 お湯が激しく波打つ。


「本当…恥ずかしがり屋よねぇチヒロは」


 そしてカオル子も湯船に浸かる。

 チヒロにとっては堪った物ではない。

 いつ正体がバレないかひやひやしていた。


「………」


 しばし無言の二人…


「…わたくし…チヒロには感謝していますのよ…」


「え…?」


 唐突に話しかけられた内容に驚くチヒロ。

 自分に何を感謝すると言うのか。


「あなたも見ているでしょう? わたくしの取り巻きをしている彼女たち…

 あの子たちはわたくしの…いえ、財前の名と財力に惹かれて擦り寄って来ているだけ…友情は存在していません…

 でもチヒロ…あなただけは違った…

 わたくし、チヒロを親友だと思っていますのよ?」


 顔を紅潮させチヒロから目を逸らす、勿論理由は風呂のお湯が熱いだけでは無い。


「………」


 チヒロの心中は複雑だった。

 きっと今告白しているカオル子の言葉に一切の嘘偽りはないだろう…。

 しかし彼女はチヒロが財前家に連れて来られた経緯を知らない。

 チヒロの心中は自分もカオル子を騙しているという罪悪感と自身の人生を財前家に滅茶苦茶にされたという憤りの感情がせめぎ合っていた。


「…わ…わたくしったらどうしてしまったのかしら…お…お先に失礼しますわね!」


 告白してしまってから我に返って恥ずかしくなったのか、カオル子は湯船からそそくさと上がり身体も洗わずにバスタオルを巻いて急いでバスルームから出て行ってしまった。


「カオル子さん!…僕は…一体何をしてるんだ…」


 呼び止めるかの様に伸ばした腕をおもむろに胸の前まで引き戻し、チヒロはギュッと拳を握りしめた。






「失礼しますわお父様、わたくしに御用でしょうか?」


 入浴後、カオル子は彼女の父に呼び出され神妙な面持ちで書斎を訪れた。


「うむ…カオル子や…お前は明日の早朝すぐにアメリカへ発ちなさい…

向うの学校に通って見聞を広げて来るのだ」


「そんな!!急すぎますわ!!何も明日でなくても…!!」


 激昂するカオル子。

 このままでは年単位でチヒロに会う事が出来なくなってしまう。


「以前からお前に留学の話はしてあったし、お前も了承していたではないか!!」


「ですが…せめて数日の猶予を…!!」


「ならん!!これはもう決まった事なのだ!!お前はただ私の言う事に従っていればよいのだ!!」


「いいえ!!私はアメリカになんか行きたくありません!!どうしてもと言うならばチヒロも…あの子も一緒でなければ…!!」


 カオル子は抵抗を続ける、昔…父とアメリカ留学の話をしていた頃とは心の在り所が違うのだ。


「…さてはお前…チヒロに…あの少年にたらしこまれたな?あいつは親の借金のカタにうちに来て女装までして居ついた卑しい奴だぞ!!

きっと金目当てでお前に取り入ったに違いない!!」


「…なっ…何ですって…?お父様…今何て…?チヒロが少年…?」


「………」


 父はあからさまにしまったという伐の悪い顔をした。

 当然である、カオル子はチヒロが男の子である事を全く知らなかったのだから…

議論に夢中でつい口が滑ってしまったのだ。

 彼の頬を冷や汗が流れ落ちる。


「…お前が友達を欲しがった時に連れて来たあの子が男だと分かったのは

お前に会わせる直前だったのだ…だが自分を女と偽ってお前に取り入ろうとしたのはチヒロの意思だ…お前は彼に騙されていたのだよ…」


「…そんな…そんな!!そんなの嘘!!」


「嘘な物か!では聞くが彼が一度でもお前に自分が性別を偽っている事を話して来た事が有ったか?無いだろう?実際お前は今この場でその事実を知ったのだからな!!」


 カオル子は頭を抱えて床にへたり込む。

 顔はくしゃくしゃに歪み、止めどなく涙が溢れている。


「…ううっ…もう…友達なんて要らない…親友なんて…要らない…」


 そうカオル子は決心をした。






「あれ…カオル子さん遅いな…」


 翌日…チヒロは登校時にカオル子と落ち合う屋敷の玄関ホールに居た。

 当然、ブレザーとミニスカートの制服姿だ。

 玄関ホールと言ってもバスケットボールのコートが一面取れる位広い。

 そこへ警備職員の黒服のまとめ役である男性が現れた。

 時間も差し迫っていたのでカオル子について聞いてみる事にした。


「あの…カオル子さんを知りませんか?もう屋敷を出ないと学園に遅刻してしまうのですが…」


「…カオル子様は今朝早くアメリカへ発たれた」


「え…?アメリカ…?嘘…そんな話…ぼ…私、聞いてません!!」


 バシッ!!


「あっ…!?」


 ホールの床に倒れ込むチヒロ。

 一瞬何が起きたか分からなかった…左の頬が痛い…

 黒服の男に頬を殴られたのだ。


「何をするんですか!?こんな事をしてカオル子さんが知ったら…」


 男はニタニタと嫌らしい笑みを浮かべている。


「まだ分からないのか?カオル子様はお前をもう必要ないんだとよ!!このオカマ野郎!!」


「ええ!?」


 男が何を言っているのかチヒロには理解できなかった。

 ハプニングとは言えカオル子はバスルームで自分を親友と言ってくれた…

 昨日の今日で何故こんな理不尽な事になるのか…。


「嘘だ!!カオル子さんがそんな事を言うはずが無い!!」


 チヒロは勢いよく飛び起き黒服の胸ぐらを掴む。


「こんな事でお前に嘘を言ってどうなる!!さあお前はさっさとこの屋敷から出て行くんだ!!」


「あっ…!!痛い!!」


 黒服に逆に腕を極められギリギリとチヒロの関節が悲鳴を上げる。

 そのまま無理やり車に押し込められ屋敷の正門まで連れて来られたチヒロはそこから放り出されてしまった。彼の私物の入ったバッグも一緒に。

 そして正門の頑丈な鉄柵が完全に閉じられる。


「こんな…!!せめて…せめて一度カオル子さんとお話させて下さい!!お願いします!!」


「ええいしつこい!!カオル子様はもうお前には会わん!!」


 鉄柵にしがみ付き号泣しながら懇願するも叶わずただ一通の封筒だけが柵の隙間から差し込まれた。


「手切れ金だ、ありがたく受け取るんだな!!」


 そう言うと黒服はこちらに背を向け去って行った。


「…バカにしやがって!!」


 チヒロは封筒を力いっぱい踏みにじり、それからしばらく当ても無く街を彷徨った。




「はぁ…これからどうしよう…」


 歩き疲れてたまたま立ち寄った公園のブランコに座り考え込む。

 手にはくしゃくしゃになった紙幣が握られていた。

 結局、あの踏みつけた封筒を持って来てしまっていた。


「…僕って奴は…」


 自分の卑しさに自己嫌悪したがこれからの事を考えるとそうせざるを得なかったのだ。

 そう思うと無性に悔しくなりポロポロと涙が膝の上に落ちる。


「まあ!!あなたどうしたの?女の子がこんな所で泣いているなんて…」


「え…」


 チヒロの目の前にいつの間にかミニタイトスカートの紺色スーツを着た眼鏡美女が現れ、しゃがみ込んでこちらを見ていた。

 出る所は出、くびれる所はきゅっと締まっている、とてもスタイルの良い大人の女性だ。


「あら…あなた女の子じゃなくて男の子ね、カワイイわ~」


「!!」


 その眼鏡美女は優し気な笑みを顔いっぱいに湛えている。

 しかしチヒロの女装を一瞬で見抜くとは…一体何者。

 一年間女子校に通っていても誰にもバレた事が無い程の完璧な美少女ぶりを発揮していたチヒロの自信が無残にも砕け散る。


「いえ…私は…」


「隠さなくてもいいわよ?だって私もこう見えて男だから」


「え…ええ~!!!?」


 眼鏡美女は眼鏡女装男子であった…今日は驚く事ばかり起こる。


「私は七瀬ミズキ、とある学園の理事長代理をしている者よ…

あなたお名前は?」


「…源チヒロ…です」


「チヒロちゃんね…良い名前だわ、ところでこんな所で泣いているなんて…何があったの?」


「…実は…」


 チヒロは泣きながら今までの経緯を全てミズキに打ち明けた。

 するとミズキは自分が運営している学園への転校の手続き、おまけに住居まで世話をしてくれると言う。

 藁をも掴む思いでチヒロはミズキの好意にすがる事にした。



 そして転校初日…


「この学園はジェンダーフリーを謳っていて異性装も自由なの…

だから男の子でスカートを履いている子も沢山いるわ

でもチヒロちゃんは無理やり女装させられていた訳だし無理に女装を続ける必要は無いわよ?」


「そう…ですか」


 ミズキ先生の申し出はとてもありがたいしチヒロも実際そうしたかったのだが、身体に染み付いた女の子生活がもう既に日常になってしまい

 今更男物を着る気にはなれない。

 きっと似合わない…チヒロ自身、男の子だった頃の自分の姿が思い出せなくなっていた。


「あの…このまま女装で通ってもいいですか?」


「勿論OKよ!!この学園はそういう子の為にあるのだから」


 ビッ!と親指を立ててウインクするミズキ先生。


 こうしてチヒロの新生活はスタートしたのだが…


「もうお金持ちなんか…信じない…財前カオル子…許さない…」


 同時に新たな心の闇も始まっていた。




果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』こと銀野ツバサは激しく後悔していた。


 三人でパーティーを組む上で『虚飾の姫君プリンセス・イミテーション』こと源チヒロと『億万女帝ビリオネア・エンプレス』こと財前カオル子の仲を修復するために良かれと思って使った魔法『リーディングエア』であったが、想像以上にドロドロな二人の過去を掘り返し、更に直接関係の無いツバサ自身までその事を知る事となってしまった。


 チヒロもカオル子も一様に俯き押し黙っている。

 当然だ…二人の現在のメンタルを形成したであろうトラウマ的体験を再び垣間見てしまったのだから…


 若干12年しか人生経験の無いツバサが知ってしまうには重すぎる二人の記憶であったが、彼女にも理解できた事が一つあった。

 それは当事者であるチヒロとカオル子では絶対にたどり着けない、第三者のツバサだからこそ見つける事ができた最良の回答…

 思い切って勇気を振り絞り口に出す。



「ふたりは悪くないよ…」


「「え…?」」


 チヒロとカオル子はほぼ同時に声を上げ『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』の方を見る。


「何かがちょっとずつ食い違っちゃったんじゃないかな…

 お姫ちゃんの言い分だけを聞いたり、金ちゃんの言い分だけを聞いたんだったらどちらかに偏ってしまったかもしれないけど

 ここでは普通は絶対知る事が出来ない相手の思っていた事とどんな目にあって来たのかが分かったんだもの…

 二人共もう気付いてるんでしょう?相手だけが悪くないって事を…」


「…それは…そうなんだけど…」


 ちらっと上目遣いにカオル子を見たチヒロは驚いた。


「…ごめん…ごめんなさい…!!私が友達が欲しいなんてお父様に頼まなければ…こんな事には…!!」


 ボロボロと大粒の涙をこぼしながら謝罪するカオル子…遂にはその場に膝ま付き泣き崩れてしまった。

 次の瞬間何もない魔法空間が消え失せて、もと居たツバサの部屋に戻って来た。


「そんな…僕は友達を欲しがったカオル子さんを責めるつもりは無いよ…

実際僕を無理やり屋敷に連れて来たのは…その…カオル子さんのお父さんなんだし…」


「いいえ!!そもそも友達は誰かに用意してもらう物ではないのですわ…

 まして恐喝して連れて来るなど言語道断!!

 さあチヒロ!!私をちなさい!!このままではわたくしの気が済みません…さあ!!」


 膝ま付いたまま両手を広げ目を瞑るカオル子。

 その姿を目の当たりにしたチヒロも内心穏やかでは無かった。

 頭から血の気が引いていく感覚…目まい…

 膝がガクガクと震え一歩ですら足を出す事が出来なかった。


「…あ…あうあ…」


 言葉もまともに発せられない…涙で視界が歪む。

 

「お姫ちゃん!!しっかりして!!」


 既に変身を解いていたツバサは見かねて大声を上げてしまった。

 ビクッと身震いこそしたがそのお蔭でチヒロの身体の震えは止まっていた。

 そしてチヒロはおもむろにカオル子に前に膝をつきギュッと彼女を抱きしめた。


「…打つなんて…そんな事出来ないよ…僕だって実家の資金援助の為にカオル子さんに自分が女の子だって嘘を吐いて…男だって言っていればこんな事は最初から起きなかったのに…僕の方こそ打たれるべきだ…ごめんなさい!!」


 チヒロの抱きしめる力が少し強くなる。


「…違いますわ…あの嘘は必要だったのです…そうでなければ私達…

お友達になれなかったでしょう?」


「…カオル子さん…うう…うわああああん…!!」


 二人は抱き合いながら暫く泣き続けた…。

 これまでのすれ違って来た時間を埋めるかのように…。

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