2たまゆらのまにまに

 町から見える山を越えて、さらにもうひとつ山を越えた場所に館へ通じる道がある。


 道中には来る者を拒み、去る者を躊躇させるほどの馬鹿デカイ錆びた鉄の門が館を守っていた。


 その門から延びるように左右に永遠と展開されている鉄柵の外と内で堀になっており、有刺鉄線がそこら中に張り巡らされていて門以外の侵入は不可能だ。


 高さは4メートルで揃えられており、門の右上には旧式らしい監視カメラが一つ取り付けられている。


 この門を開けてもらう為には、何かしらの合図をカメラに示すしかない。


 俺に至っては簡単で、ノイズを二つほどカメラに叩き込めば簡単に重い扉は開いた。


 門を潜ってすぐ右隣にはクマが退屈そうな顔をしながらタバコを吸っていた。


 そこには灰皿が用意されており、館の中を除いては喫煙できる唯一のスペースだった。


 俺も胸ポケットから短いタバコを取り出して火をつける。


 灰皿を見ると既に10本の吸い殻が散らかしてあった。


 クマの吸うペースが一本につき大体10分なので100分以上はここで待っていた計算になる。



「遅れてすまないな。」


 タバコの煙を吸い込み、空に向かって煙を吐き出しながら言う。


 クマは11本目のタバコを揉み消しながら、バイクに寄せかけていたスーツケースを投げて寄越す。


「俺は大して待っちゃいないさ。それより、館で一番待っている人がいるだろう?」


とクマが笑みを浮かべた。


 俺の手からまだ半分も吸っていないタバコを取り上げると顔を館の方へクイっと向けて、行ってやれ。と呟いた。


「こいつが出来上がった時点で予定よりかなり遅れていたんだ。気にしちゃいないさ。」


 胸ポケットから再びタバコを取り出そうとすると今度は箱ごと取り上げられた。


「お前がつまらん言い訳を考えている時間の中でも待っているんだ。行ってやれ。」


 流石に箱ごと取り上げられては吸おうにも吸えない。


 だが、タバコを吸いたいが為に留まっているのではなく、言い訳を考えているのは本当だった。


覚悟を決めて行くしかない。


 クマが俺の吸いかけだったタバコを吸っているのを横目にみながら進んでいく。


 俺が事を早く済まさないとあの箱から全てのタバコがなくなってしまいそうだから。

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