抵抗主義

 勢いよく飛び込む私の速さと、この傷を負ってもなお動ける事実に男は驚愕の表情を表す。

そして、殺意をジョンさんから私に向ける。


 それでいい、後は私がこののま突っ込むだけだ。

奴に当たりさえすれば残るのは肉片だけとなる。


 男は銃をこちらに向け三度引き金を引く。

ジョンさんが気を失っている状況ではその銃からは三発の弾丸が放たれる。

一発目は体を反らして回避し、二発目は私の目の前で消し飛ぶ。


 三発目が右の頬を掠めた時にはもう男の胸元に手を伸ばしていた。


 恐怖で男の表情が歪む。

煩わしい事は抜きで男をこの手で爆破しようとする。


「待ってくっ――――!!」


 煩わしい事は抜きだ。この手が触れる寸前に男は爆破される。


「あれ?」


 と、自分でさえ間抜けだと思う声が出る。

この手が触れる寸前どころか既に手は男に触れているが、男は無傷のままだった。


 ならばと、男が持っている銃を奪い取り構えるが先に男の頭突きが決まる。

その拍子に銃を落とし、後ろに飛び退く。

じんわりとした痛みのする頭を押さえた。


「驚いたろ?」


 男は余裕の表情を浮かべ、私の落とした銃をこちらに構え直す。


「君達に刻まれたその傷は古傷だ。昔に負った傷が君達の体に現れる。」


 男はジリジリと一定の距離を取りながら私の周りを歩く。


「彼は気を失う程にこれまでの人生で沢山の傷を負ったようだね。」


「なのに、君はどうだ?女性だからといってあまりに傷を負わなすぎるぞ。」

「無菌室で育ったわけじゃないんだ。もっと痛みを知るべきだろう?」


 男はまた、引き金を引いた。

さっきと同じように私に当たる寸前に爆破し、粉々になる。


「うーん、弾丸自体が爆破していないように見えるね。」


 能力の多発は危険だ。

しかし、頭痛は鳴りやまず奴を爆破できなかった理由が不明なままでは迂闊に突っ込めない。


 ならば、と男はもう一度引き金を引く。

目の横、さっき撃った肩に向かって飛んできた弾丸は爆破されずに肩を貫いた。


「あっ――――」


 っと、悲鳴にならない悲鳴を出しうずくまる。

どうして当たったんだ?今までにこんなことは一度もなかった。

肩から流れる血の量はこの体に負ったどの傷よりも深く、痛かった。

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