第6話 ストーリー

僕の家でマリオをやっている時のことでした。


中村くんが、

「お前、何回ピーチ姫助けた?」

と聞いてきました。


僕は、なんだそりゃ?と思いました。


すると、僕より先に松岡くんが、

「何それ?ピーチ姫助けたとか?普通、何回全クリした?とか聞かね?

だーれがピーチ姫なんて助ける為にゲームやるよ?」

と、バカにしたような口調で言いました。


僕も同感だったので、スカッとしました。


すると、中村くんは、

「ゲームのストーリーも知らずに只、亀を踏んづけているとは愚かな」

と言いました。


中村くんはイケメンでもないのに、このように、

少年ジャンプの中二病キャラの真似をすることがあります。


それを聞いて、松岡くんはムカついた顔で、

「ストーリーなんていらねぇ!おもしろけりゃそれでいいんだよ!

まさかてめぇ、いちいち説明書読んでからゲームしてんじゃねーだろうな?」


この意見に僕は共感しました。

僕はいつも説明書を読まずにゲームを開始します。

それで困った覚えはありません。

また、ロールプレイングゲームでさえ、ストーリーは全く気にしません。


しかし、中村くんは、

「読んでからやるに決まってんじゃん」

と、事も無げに言いました。


「キモっ!じゃあ、てめぇは何回ピーチ姫助けたことあんだよ?」

松岡くんは、相当ムカついているらしく、

完全にチンピラの顔になっていました。


「三回」


「うわうわっ!少なすぎ!ダサすぎー!」


「お前みたいにゲームばかりやる時間無い」


「えー?ゲームやる時間がないってー?一体何で忙しいんですかー?

勉強?・・・・・・な訳ないよね?

この間の中間テスト、オレより下ってか、

全体でビリに近かったよねー?えぇ!おぉぅ!」


「お前なんかに言ってもわかんない」

中村くんは、泣きそうな顔で、プルプル震え出してしまいました。


そこで僕は、中村くんにマリオをやらせることで、

この流れを断ち切ろうと、わざと穴に落っこちました。


僕は無言で中村くんにコントローラーを渡しました。


すると、

「おーい!ストーリーが全部わかってるんなら、

楽勝でクリアできるんですよねー?

えー?ピーチ姫助けるんですよねー?」


待ってましたと言わんばかりに、松岡くんが煽りました。

松岡くんはこういう時、全く敬意の無い、慇懃無礼な敬語口調になります。


ストーリーがわかっているからと言って、

クリアできるかどうかは全く別物だとは思いますが、

とにかく、中村くんは、

ヘマをすることが許されない状況に、追い込まれました。


そして、またプルプル震え出しました。


僕は下手こいたと思いました。

コントローラーを渡すべき相手は、松岡くんだったようです。


しかし、中村くんがどんなプレイをするのか楽しみでもあります。

三回クリアしてるなら、文句を言わせない程度には格好をつけられるはずです。


ステージ開始。


中村マリオはBダッシュでスタート。

最初の敵キャラ、

亀がのろのろと向かって来ました。


それをジャンプして、踏みつけると、亀は手足を引っ込めて停止。

もう一度踏むと、甲羅が進行方向に向かって勢い良く滑り出しました。

中村マリオはそれをBダッシュで追いかけます。

甲羅が、キノコやヘルメット型の敵キャラを、次々になぎ倒して行きます。

点数が、どんどん上がって行きます。


あと一匹なぎ倒せばボーナスで、マリオが一機増えます。


松岡くんはおもしろくなさそうな表情。


滑っていく甲羅の先に、羽の生えた亀が現れました。

こいつをなぎ倒せば一機増えです。


しかし、ついてないことに、甲羅が通過する時に、

羽亀がジャンプしていたので、一機増えは、おあずけとなりました。


中村マリオは、さらにBダッシュで、甲羅を追いかけます。


すると画面端に、緑色が見えました。甲羅はそれに当たりました。

そして、ボコッといって、跳ね返りました。


跳ね返った先に中村マリオ。甲羅とマリオが正面衝突。


ぷちゅ!と音がして一瞬画面が止まり、

中村マリオは両手をバンザイの形に上げて飛び上がった後、

画面外に落っこちて行きます。

続いて、人をバカにしたような短い音楽が鳴りました。


緑色は、土管でした。

土管の側面は壁なので、甲羅やヘルメットが当たると跳ね返ります。


数秒の沈黙の後、

「ぎゃははははぁー!何やってんすかー?

勇者さま?最初の亀で死んでんじゃないすか?

えぇ?おぅい!」


松岡くんは大満足。


中村くんは顔を真っ赤にして、泣きそうになっていました。


僕は素早くカートリッジを、マリオからトラクエに差し替えました。


トラクエの知識を披露させ、中村くんの汚名を返上させようと考えたのです。

それに、トラクエならロールプレイングなので、運動神経は要りません。

これだったら、バカにされにくはずです。


ファンファーレが鳴り、冒険が始まりました。


松岡くんはまだ笑っていますが、僕は中村くんに質問をしました。


トラクエは、どういうストーリーなのかを聞きました。


「トラクエはねー。魔王を倒す為に勇者が旅をする話なんだよ」


それくらい僕でもわかっているけど、

中村くんが幾分自信を取り戻しつつあるようなので、

へーそうだったんだーと驚いて見せました。


すると、

「そんなことも知らないでクリアできたのかよ?」

と言って来ました。


僕は不覚にも、イラッとしてしまいました。


そこで松岡くんの再登場。


「ちょい待ち?これよ、魔王倒すのになんで勇者一人で行くの?

軍隊とかねーのかよ?」


「勇者は特別な人間なんだ。軍隊でも普通の人間じゃあ魔王には勝てないんだよ」


「でもよ、特別な勇者の割には、最初にもらえる金とか武器しょぼすぎね?

これって、期待されてないんじゃね?」


「魔王の影響で王国も疲弊しているんだ」


「ふーん。

けど、勇者に棍棒程度の武器しか提供できない国なんて、

魔王が攻めてくりゃ一撃じゃね?

それなのにいつまで経っても攻めてこないけど、それはどういうこと?」


「町の周辺は聖水が撒かれていて、モンスターは入れない」


「なら聖水ぶっかけまくって領土拡大しろ!

あとよ、最後の方の町ほど、売ってる武器防具が強いの、おかしくね?」


「周辺に出るモンスターが強いから、武器や防具もそれに合わせて強くなるんだ」


「じゃあその強い武器で、モンスターが弱い所行って、

領土奪回したり、弱い国とか侵略すればよくね?」


「モンスターがいるから遠くまで行けない。

インターネットがないから自分達の武器がどのくらいの強さなのかわからない。

弱いモンスターがいる地域もわからない」


「まぁ、いいけどよぉ。さっきっから言ってる、

特別な人間だとか、聖水とかってさー、どこに書いてあんの?説明書?」


「・・・・・・。」


「ほーらな。てめぇが今考えたんだろ?

勝手に妄想してんじゃねーよ。

いいか?ゲームのストーリーなんてこんなもんだ。

最初から破綻してんだよ。

おもしろけりゃどうでもいいんだよ。

わかったら、最初の亀で死なないように、毎日マリオの練習しなちゃい!

よちよちバブバブ!」


中村くんは泣いてしまいました。


次の日の休み時間。

中村くんは、僕と松岡くんに、

「プログラムの本を買った。おれは、お前等が驚くような、

すごいストーリーのゲームを作る!」

と宣言しました。


小学校を卒業する三日前の話です。


八年後。

成人式に来た僕と松岡くんは、そのことを思い出して。

中村くんがゲーム会社に入ったり、

プログラムができるようになっているのではないかと、

少しだけ期待していました。


しかし、彼は家業である農業を手伝っていました。

プログラムの勉強は、あれから一週間も持たず、すぐにやめていました。


そして相変わらず、

「聖職者が刃の付いた武器を扱えるのがおかしい・・・・・・」

などと、設定に、いちゃもんをつけながら、

シコシコとゲームをやっています。

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