第3話 リセット

僕は、能力値の初期パラメーターが、

ランダムで決まるRPGにはまっています。


湯山くんにそのゲームのことを話したら、

彼は大変興味を持ち、発売して少し経って、

攻略サイトが充実してきた頃にそのゲームを買いました。


そして、案の定、面倒なことになりました。


彼は攻略サイトで下調べをして、

最終的に一番強くなる育成方法に適したパラメーターにしようと、

何度もリセットするのでゲームが始まりません。


彼は百回以上リセットを繰り返した挙句、

僕にリセット作業を手伝わせました。


僕が操作してパラメーターを表示し、

湯山くんがそれを見て、気に入らなければリセット。

その時湯山くんは寝っ転がって画面を見ていたので、

無性に腹が立ちました。


しかも、これがダメだ、あれがダメだと、

いつまでもリセットを繰り返そうとするので、

僕は怒って、適当なパラメーターのキャラクターで、

勝手にゲームを進めようとしました。


すると、湯山くんは僕に謝り、

それでゲームを始めると言いました。

そのキャラクターの能力値が充分に高かったので、

妥協できただけなのかもしれません。


ゲームが始まってからも、彼は終始攻略サイトを見ながらゲームを進めます。

無駄なことをしたくないからだそうです。


この考えには共感できません。

僕は最初は絶対に攻略サイトを見ません。

友達に聞いたりもしないで一人でやります。

その方がおもしろいと信じているからです。


なお、そのゲームはアップデートでゲームバランスが変わることがあります。

強かった職業や技が弱くなったり、更に強い技が追加されたりします。


そうなった時、湯山くんは、最初からゲームをやり直します。

アップデート後の最強に、最も近い初期パラメーターを目指して、

また延々とリセットを繰り返します。


彼は単位が足りず、僕達と一緒には卒業できないことが決まっています。


大学に入ったばかりの時から、こんな大学にきたくなかった。

本命を落ちてしまい、しかたなくきたといつもこぼしていて、

授業にもろくに出ていなかったのです。


もしかすると、彼が本当にリセットしたいのは、

自分の人生なのではないか、などと、

とんでもなく失礼なことを、僕は時々考えてしまいます。

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