2.2

「え、何、れいか……」

「《霊狩り》対策室人界××支部の、ヴェリテです」


 甲高い声で自己紹介をするもこもこに、千草は楽しそうに拍手をしたり、触ってみたりする。


「すごーい、よくできてるねーできてるねー……最新のぬいぐるみ恐るべし……恐るべし……なんか温かいんですがこいつ。何、蒼のサプライズプレゼントなの? プレゼント?」

「なわけないだろ」

 否定する。

 それから、少しだけ目をそらした。


 が、千草はそれを見逃さなかった。


「蒼、知り合い? 知り合いなの?」


 しまった。

 こいつの観察眼をなめてはいけなかった。


 あー、と僕は少し詰まりながら答える。

「何ていうか、一度僕の家にきたって言いますか」


 頬の温度がさらに上がっていくのが分かる。

 どうしよう、どうやって切り抜けよう。


「来たの? 何しに?」

 そ、それ以上聞くな……。


「もちろん、《魔法少女》のお誘いだよ」

 ダンディな声で、もこもこは言った。


 その場の空気が、固まった。


 ……こいつ、言いやがった!


「え、声、急に……まほう……少女? 少女?」

 もこもこと僕を交互に見ながら、千種は首をひねる。


「いや、それが……」

 もこもこ――もういい、ヴェリテがさらに説明を加えようとするところを、僕はあわててさえぎった。


「こ、こいつが僕に《魔法少女》になれって言うんだ!」

 多分、こいつがあることないこと言いふらすより自分で加減しつつ話したほうが僕のダメージが少ないだろう。しかし……なあ。


「え、でも蒼、男じゃん。ヘタレ男じゃん」

「ヘタレゆーな」

 自覚はしてるけれど。


 覚悟を決めて、説明する。

「ちょっと前くらいに、僕の部屋の窓にこいつが乗っかってたんだ。きざっぽく、魔法少女にならないかとか何とか聞いてきた。……突込みどころが多すぎて、自分の頭がおかしくなったのかと思った」

「まあ、そーでしょうな。そうでせうな」

 せうな?

 ヴィリテが口を開いて、その後の説明を続けようとする。


「で、とにかく口説きまくって、説明して、一応はそれなりの納得をしてもらって――」

「もちろん断った」

 僕はヴェリテを再びさえぎるような形で言った。


「あ、断ったんだ」

「当たり前だろ。あまりにしつこいから、野球漫画の要領で空に投げ返してやった」

「うわあ……」

 ヴィリテがこっちをみて身を硬くする。

 しかし、相変わらずもこもこだな、こいつ。


「夜、かつ女性限定で、今二人の魔法少女が活動しています。まあただ、もちろん男性系の《敵》もいるわけで、その役目を今日は貴方にお願いしに来たのだよ、千草さん」

 大人の女性の声から男子高校生のような声に変貌しつつ、ヴェリテは言った。


「……え、あたし?」


急に出てきた自分の名前に驚いて、千草は言葉の繰り返しを忘れていた。

 いきなりキャラが崩壊していた。


「なんで、あたし……なの」

「それはもちろん、運命だからですよ、お嬢さん」

「うんめ……い」

「力が、欲しくない? ――何でもかなう、魔法の力」

「魔法の、力。……ちから」

 熱に浮かされたような声で、千草が呟いた。


 結局、千草は《魔法少女》になることを了承した。

 一つ、条件をつけて。


「いや無理だから! だから、僕少女じゃないし!」

「じゃあ魔法少年でいいじゃない。いーじゃない」

「何そのとってつけたような名前! 僕はやらないよ! 忙しいし!」

「昼休みとか、土日とか、暇な時間見つけてでの活動で結構だよ。それで十分だ」

「なんでヴェリテが援護射撃してるの!」

「運命だよ、運命。あきらめて、蒼。あきらめるの」

「ぎゃーっ!」


 ……かくして、僕は魔法少年になった。


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