第5話 65時間

4日目の救助活動が始まった。既に2人が生き埋めになってから65時間が経過していた。タイムリミットまであと7時間だ。なんとしても今日中に発見しなければ、2人の生存は期し難い状況だった。

この日も行方不明の2人の家族が現場に来ていた。また、報道関係者の数も多くなっていた。

しかし、徒に時間が経過して行くだけで、軽自動車は発見できなかった。現場の誰もが焦燥感にかられていた。

そして、間もなくタイムリミットの72時間目に入る頃、報道関係者にも協力を依頼し、この日の何度目かのサイレントタイムが設けられた。

一切が静寂に包まれた中、隆正は自分が担当しているエリアに掘った穴で見つけた岩と岩の隙間に耳を近づけた。目を閉じて全ての感覚を耳に集中する。体の存在すら忘れ、自分が1個の巨大な耳になった感覚で耳を澄ませる。すると、隆正の耳が微かな声を捉えた。隆正はさらに集中を高め、頭を隙間に埋め込むようにして耳を傾けた。確かに声が聴こえた。話の内容は聴き取れないが、2人の声だった。

隆正は周囲にいたレスキュー隊員や消防団員を読んだ。全員で隆正が指示した場所で声に耳を澄ませる。

全員が声を聴いた。特に聴力の良いレスキュー隊員が、男の子と大人の女性の声だと断言した。

救助隊は色めきたった。

全メンバーをその場所に集中してすることになった。今までの疲労が吹っ飛んだように、全員で力を合わせて掘り進み、邪魔な岩を排除して行く。

掘り進みながら、大声で被災者を励ます。

「いま、助けるからな!!」

「がんばれ!!」

深く掘り進むにつれ、2人の声が大きく聞こえるようになった。確かに、男の子と女性の話し声で、言葉はよく聞き取れない。やがて、女性の声が歌声に変わった。そのメロディは、誰もが懐かしく覚えている童謡だった。

「『シャボン玉』だ!」

歌声に気付いた誰かが声を上げた。そう、それは、『シャボン玉』の歌だった。


  シャボン玉飛んだ 屋根まで飛んだ

  屋根まで飛んで  壊れて落ちた

  風、風、吹くな  シャボン玉飛ばそ


母親が子供を励ましているようだった。子供の笑い声まで聞こえるようになった。

「2人とも無事だぞ。みんな頑張れ!」

隊長がメンバーを励ます。

だが、隆正は不安な気持ちを抑えきれなかった。なぜなら、隆正は『シャボン玉』の2番目の歌詞を知っていたから。

作詞家が、夭折した我が子を悼んで作詞した、という説があることを知っていたから。


  シャボン玉消えた 飛ばずに消えた

  産まれてすぐに  こわれて消えた

  風、風、吹くな  シャボン玉飛ばそ

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