案内

「ようこそ、ギルド案内所へ。本日はどのようなご用件で?」


 すごく整った顔立ちと鋭く高い鼻、そして極めつけの長い耳。彼女は間違いなくエルフだ。

 こんな綺麗な人を前にするのは初めてで少し緊張してしまう。顔つきは、聡明というよりかはどこか子供っぽさを感じる気がする。しかも胸のサイズが僕の周りにいる二人とは、比べものにならない。

 僕が息を飲んで彼女を凝視していると、それを緊張していると受け取ったのか、アカリが溜め息を吐きながら先に要件を述べた。


「私たち、今さっきこの世界に飛ばされてきたんです。大体のことはこの妖精たちから聞いたんですけど、ダンジョンのこととか、まあ、その他にも色々と有益な情報があれば……。」


 僕たちはわからないことが多すぎて、正直何を聞いたらいいのかすらわかっていない。だから、こんな曖昧な質問になってしまう。それはアカリも同じようで、でも尋ねられる方の気持ちを考えると、こんな曖昧な質問はする方も少し気が引ける。


「召喚型の冒険者の方ですね。気にしないで下さい。初めてここに来る人は、そうなるのが当然です。ですから、こちらもちゃんと対応しますよ」


 エルフのお姉さんはニコッと微笑むと、その美しさにドキッとしてしまう。僕が彼女に見とれていると、両隣からの冷たい視線が僕に突き刺さる。ちなみにアカリは左側に座っていて、アイリスは僕の右肩に座っている。

 僕は誤魔化すように急いで疑問を口にする。


「召喚型って、どういうことですか?僕たちみたいに急に異世界から呼び出された人以外にも、冒険者がいるってことですか?」


 僕の質問にお姉さんは優しげな声音と、優しげな表情で答えてくれる。何て良い人なんだろう。この世界に来て初めて、こんなお淑やかな女性に会えた気がする。まあ、周囲との対比で余計に良く見えているのは言うまでもないが……。


「冒険者にはあなた方のような召喚型と、この土地で生まれ育ち冒険者になった定住型の二種類の冒険者がいます。あなた方召喚型は、この世界に呼び出されたその瞬間から魔導書が与えられ、冒険者になることができます。ですが、定住型の冒険者は努力と鍛錬を積み重ねることで、選ばれた者だけが魔導書を与えられ冒険者となるのです」


 それを聞いた瞬間、僕の脳裏に嫌な予感が走った。たぶんアカリも同じことを考えているのだろう。息を飲む音がはっきりと左隣から聞こえてきた。僕たちの表情から察したのか、お姉さんも真面目な表情で話を続けはじめた。


「つまり、定住型の冒険者は召喚型の冒険者に対してあまり好意的ではありません。もちろん、そんなことを気にしない冒険者もたくさんいます。ですが、どうしてもそれを許せないという冒険者も、少なからずいるのが現状です。実際に起きた事件では、パーティを組んだ召喚型の冒険者をダンジョンに一人置き去りにして、帰って来たという事件もありました。その召喚型の冒険者は結局その後帰ってきませんでした」


 どこの世界でもやはりそういうことは起こるのだ。僕たちがいた世界と何も変わらない。お互いを分かり合えない者同士が傷つけ合う。いや、力の無い者が一方的に傷けられる。そう、僕にも同じような経験がある。


「ですから、あなた方が力を付けるまでは、なるべく定住型の冒険者とはパーティを組まないで下さい。特にヒューマンの冒険者とは……。エルフや龍人の冒険者はそんなこと気にすることはありませんから、パーティに誘われたら是非組んでみてくださいね。彼らは誇り高き戦士です」


 結局、心の中が黒いのはいつも人間だ。嫉妬深くて、妬み易く、腹黒い。そんな人間と関わるのが嫌で、僕はゲームやラノベの世界に逃げた。創作の世界に逃げ込んだ。主人公は皆誠実で、誇り高く、カッコ良かったから。僕は、そんな彼らに憧れた。


「わかりました。肝に命じておきます。あっ、そうだ、ダンジョンについて詳しく教えてもらってもいいですか」


 僕は、表情を何とか明るく保ちながら質問を重ねた。


「ダンジョンにはこの世界の様々な場所に現れます。この市街地を中心として、様々な地形がこの世界には広がっています。海、山、森、荒野、平原……。それらの場所に洞窟や神殿、塔のような形で現れるのがダンジョンです。ダンジョンの中にはモンスターが存在し、そのモンスターの強さも様々です。そして、ギルド側がモンスターの強さに合わせてダンジョンのランク付けをしているのです」


 そう言ってお姉さんが机の上に紙を広げた。そこにはE~SSSまでのランクと、それに対する冒険者の平均パラメータが記されていた。


E:パラメータ平均5~50相当

D:パラメータ平均50~100相当

C:パラメータ平均100~200相当

B:パラメータ平均200~300相当

A:パラメータ平均300~500相当

S:パラメータ平均500~700相当

SS:パラメータ平均700~1000相当

SSS:パラメータ平均1000以上


「このように、冒険者の方々は自分のパラメータから、どこのダンジョンに行くかというのを選択します。あなた方はまだ初心者なので行くとすれば、ランクEのダンジョンですね。ちなみに、ダンジョンにはそれぞれ最深部に宝物庫が存在します。その中には武器や財宝、秘伝書などが隠されています。しかしダンジョンには、その宝物庫を守護するボスモンスターが存在しますので、それを倒すことができれば、晴れてダンジョン攻略となります」


 つまりはモンスターを倒しながらダンジョンを進み、最後にボスモンスターを倒すといった、僕らの世界に存在する王道RPGと同じ作りになっているらしい。ゲーム知識というのも捨てたもんじゃない。


「ちなみにダンジョンは一度誰かが攻略すると消滅し、その中の人は自動的にダンジョンの外へと還されます。つまり、ダンジョン攻略は早いもの勝ちということです。しかし、ギルドではどのダンジョンにどれだけの人数が攻略に向かっているかを全て管理しています。これが、現在存在しているダンジョンの数です」


 そう言って差し出されたのは少し分厚い石板だった。周りが額縁のように装飾されている以外は本当にただの石板だった。お姉さんが念じるようにその石板に手をかざすと、少しずつ文字が浮かび上がってきた。

 僕とアカリは驚きのあまりに、感嘆の声を上げながら、その石板に釘付けになってしまった。その様子に、お姉さんは少しだけ苦笑しながら説明を続ける。


「これは魔石版と言って、魔法の力で書き換えが可能な便利な道具です。ダンジョンの情報については目まぐるしく変化するため、いちいち紙で書いていては時間も資源ももたなくなってしまいますので……」


 つまり現実世界で言うパソコンを想像してもらうと早い。

 そこに浮かび上がったのは、数えられないほどの量のダンジョンの名前だった。百どころではない。この世界にどれだけのダンジョンが存在するんだよ……。これを創りだす神とやら、パないっす……。


「現在出現しているランクEのダンジョンは約二十個です。その中でも、誰も攻略に向かってないのは二つですね。最近はあまり初心者の冒険者が出ていないから、ランクEに関しては取り合いになったりはしていませんね」


 お姉さんは魔石版を見ながら、僕たちに説明を続ける。

 それにしても、取り合いにならないというのは嬉しい限りだ。いきなり誰かとの競争になって、急いだ末にモンスターに殺されてしまっては堪ったもんじゃない。

 まずは色々と様子見をしたいし、ゆっくりとダンジョン攻略をしたい。だから僕たちが選ぶのも必然的にその二つに絞られる。


「ちなみにこの二つですが、一つは森でもう一つは海です。でも、海は初心者にはあまりおススメしません。地形的に戦いにくいので…。ぬかるみとか水たまりが多いので、戦闘で足を取られやすいんですよ。ただ、森の方は少し遠いところにあるんですけど、どうしますか?」


 時間を命には代えられない。近いからという理由で、いきなり地形的に不利なダンジョンに行って殺されては元も子もない。選択肢は一つしかない。

 アカリを一瞥すると全て任せるといった表情でこちらを見て頷いたため、そんな信頼あるのか僕?と少し驚きながら、僕はお姉さんへと向き直る。


「わかりました。じゃあ、お姉さんのおすすめ通り、森のダンジョンにします」


 僕たちの意向を伝えると、お姉さんも、ニコッと笑顔で答える。


「わかりました。じゃあ、登録してきますね」


 そう言ってお姉さんは奥の方へと行ってしまった。ああ、後ろ姿も美しい人だな……。

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