第27話「ヒュプノ」





「あー疲れたぁ……」


 結局あの後、俺はマリアの奴にもう二時間近く町をつき合わされかえってきた頃には荷物持ちの所為でくたくたになっていた。因みにマリアの奴は

『あー満足したわ! とっても楽しかった。マサヤ、ありがとうね! お礼に今度アクシズ教徒に入れてあげてもいいわよ♪ え、いらない? そう、ふーんだ! じゃあ、私は今日買ったもので部屋を飾るから、ごはんできたら呼んでね』

 っと、言って自分の部屋に閉じこもってしまった。はぁ、散々好き勝手人を連れまわしてこれなんだから本当にマリアの相手は疲れるよ。アイツも笑っている顔だけは同い年の女の子として可愛いんだけどな。


「さて、疲れたし風呂でも入るか」


 この屋敷の風呂は意外と広い。まぁ、シェアハウスとして作られたからなのか家の風呂のわりには旅館にある大きめの風呂くらいには豪華なのだ。だから、俺のパーティーの皆もこの風呂は何気に一番楽しみにしている。


「さーてと、風呂、風呂~♪」


 そんな風に風呂を楽しみにして、服を脱ぎながら脱衣所のドアをあけると、そこには服を脱ぎ捨て全裸の、るりりんがいた。


「は?」

「え…………」


 固まる世界、凍りつく時間。その瞬間、俺の全ての意識が一秒もしないうちに目の前の現実の危険性を告げていた。


「ひ、ひゃ……あ、ああっ!」


 ヤバイ! ヤバイヤバイヤバイ! るりりんの奴、いきなり俺が現れた事で体を隠すのも忘れパニックで叫び声を上げようとしてやがる……おいおい、もしもこんな所で叫び声なんかあげられて部屋にいるマリアや偶然帰ってきたアプリに目撃でもされたら、アニメや漫画でよくあるお約束のフルボッコシーンどころがそれを素通りして豚箱確定だぞ!

 ヤバイヤバイヤバイヤバイ! どうする? どどど、どうするぅううう!

 そして、ついにるりりんが叫び声を――


「ひゃぁ――」

「ヒュプノォオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

「――ッ!」


 上げようとした瞬間、俺はるりりんに新スキル『ヒュプノ』を使ってしまっていた。


「ふわぁわぁわぁわぁ~」

「やべぇ……ついに使ってしまった」


 俺の『ヒュプノ』をかけられた、るりりんは意識ここにあらずという状態でいまだに全裸なのに体を隠さずただふらふらと脱衣所に突っ立っている。

 …………説明しよう。

 この新しいスキル『ヒュプノ』は俺がバニルに教えてもらった『催眠術』のスキルだ。

 正直、パーティーの皆にスキルを教えてもらった経緯とか伝えるの面倒だったし、教えてもらってから意思の疎通が出来ない相手、つまりモンスターなどに効果が無い事が判明して結局使う機会が無かったのだが……まさか、最初の相手が仲間になるとは…………

 いや、でも本格的に使ったのは今が初めてだが軽くならこの前の屋敷の交渉の時にも使ったな。このスキル『ヒュプノ』の便利な所は込める魔力の強さによって影響力が変わる所だ。

 今のるりりんにはつい全力で魔力を注いだので命令待ちの完全催眠状態になっているが、込める魔力をごくわずかにすれば相手に対し自分の言葉の説得力が上がる程度の効果がでる。

 俺は前回の屋敷の交渉の時、実はこのスキルを発動させながらおっさんと話していたのだ。だから、おっさんは俺の行き当たりばったりの理論でも納得してくれたんだな。まぁ、説得力が上がるといっても、周りに気付かれないように使うとすれば本当に決断に迷っている時にかるく背中を押す程度の効力しか現れないので、結局は本人の意思を無視した行動や言動は操れないんだけどな。


「しかし、今回は少しやりすぎたな」


 俺はそう呟いて目の前のるりりんを凝視した。

 今のるりりんは俺の『ヒュプノ』をモロに受けてしまったために完全催眠状態。仲間に催眠をかけるとか皆にバレたらガチで殺されかねないしな。

 とりあえず、今はこの状況を騒ぎ無く修めるのが先決だろう。幸いな事にるりりんはまだ催眠状態なので俺の言葉を催眠で受け入れてしまうはず。


「いいか~? るりりん、お前は偶然風呂で俺と鉢合わせたが、それは何一つ不思議な事じゃない……何故なら、紅魔族では親しい男と女が同じ風呂に入るのは何一つおかしな事ではないからだ! そう、俺達と言う冒険者パーティーという絆で結ばれた仲間達は同じ風呂に入るなんて当たり前! これはおかしくない……おかしくなんかないんだ……絶対におかしくないんだぞ?」



 そして――



「はっ! 私は一体何を……? ああ、マサヤも今からお風呂ですか? では、ついでなので一緒に入りましょうか?」

「お、おう……」


 催眠から解除された、るりりんはすでに体にタオルを巻いており、俺の存在に気付くと何の疑問も持つことなく俺を誘って風呂の中に入っていった。

 あー……もしかして、俺ってとんでもない事しちゃったんじゃね?


 バカしたあああああああああああああああ! てか、良く考えれば『ヒュプノ』で俺が脱衣所に来た記憶を消して俺がここからいなくなれば全て解決だったじゃん! 何でよりによって一緒に風呂に入るようにしてんだよ俺! いやいやいや、マジで俺はロリコンじゃないんだぞ! マジだって! 今だってるりりんに催眠かけただけで、るりりん自体には何一つ手を出していないし! これからだって手を出すつもりはねぇよ! 

 あーくそ! どうすればいいんだ……こうなったら、もう一回るりりんに『ヒュプノ』を使っていままでの事を無かった事にして部屋に戻るか? 


「マサヤー、何しているのですか? お風呂入らないんですか?」


 すると、風呂の方から、るりりんが俺を呼ぶ声が聞えた。俺は――…………………


「今行く~♪」


 考えるのを止めた。

 そう、るりりんが呼んでいるんだから一緒に風呂に入ってもいいよね?


 あ! でも、俺はロリコンじゃ決して無いんだからそこだけは勘違いしないでくれよな♪




 

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