《借金王》物語 救国の聖女と円卓の王

夏川 修一

第一章 聖女降臨

第1話 借金王、行き倒れる

この人里離れた初冬の森に迷いこんで、そろそろ一週間が経つ。すでに腰の革袋には一滴の水もなく、背負い袋もカラ。杖代わりにした長剣ロングソードは鉛のように重い。


そして……ついに一歩も動けなくなった。俺はぐったりとその場に横たわり、目を閉じる。閉じたまぶたの裏に食い物の幻が浮かんだ。


木製ジョッキを満たす金色の麦酒エール。ハーブと岩塩がまぶされた鶏の丸焼き。湯気が立ちのぼる琥珀色のオニオンスープ。肉汁が弾ける厚切りベーコン。香ばしい香りを放つ焼きたてのパン……。思わずゴクリと唾を飲みこもうとしたが、渇き切った口ではそれすら果たせなかった。せめて飢え死ぬ前にもう一度、腹一杯飲み食いしたかったぜ……そう思ったとき。


どこからか、かすかに水のはねる音が聞こえた。


近くに池でもあるのか? 俺は最後の力を振り絞り、よろめきながらそちらへと向かう。音がしたのはちょうど視界をふさぐ茂みの向こう。やっとの思いで茂みをかき分けた先には……





水浴びをする全裸の少女がいた。

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