Jewel Rings. (ジュエルリングス)

バルサみこ。

第壱の伝説「旋風《かぜ》」

「おお、よくきたな小僧!待ち侘びておったぞ!」と、大きく立派な椅子に深々と腰を掛けた男が言った。

「ははっ。大変長らくお待たせいたしました。マスター。」

小僧と呼ばれた男は、その男をマスターと呼んだ。両膝を床に着け、軽く結んだ両手を腿の上に置き、ペコリと頭を下げた。

「早速だが、約束の物は手に入ったか?」

「はは。こちらでございます。」

「おお、これがそれか!よくやった!褒めてつかわす。」マスターはおおいに喜んだ。

「お褒めに預かりまして、ありがとうございます。で、お約束頂きました例の件は。」

「ふむ、そうであったな。ご苦労であった。」

そう言うと、マスターはゆっくりと椅子から立ち上がった。

「ゲゲゲッ!!!!」

「どうなされました!?マスター!」

「ゲゲゲゲゲ、ゲハゲハゲハハーッ!」

差し出した品を手にとって言った。

「ゲゲゲハ、ゲハ、ゲハハハハーッ!これさえ手に入れれば、世界は俺さまのものだ!ゲハッ!」

(よく見れば、服は確かにマスターのものだが、顔も背格好も全く違う。)

男は直感的に感じとった。

「貴様!マスターではないなッ!」

「バカめ!今頃気付いたか!だがもう遅い。これを手に入れた今、世界は俺さまの手中にある!ゲハハッ!」

「よくも騙したな!この似ても似つかぬ偽物め!マスターはどこだ?」

「ヤツなら、この俺さまが消し去ってやったわッ!」

「よくもそんな事を!許してはおかんぞ!」

「ゲハッ!貴様にできるものなら、やってみな!ゲハハッ。」

(こいつはもう許しておけぬ。)

男は、偽物のマスターに向けて左の拳を突き出すと、バッ!と手を開いた。その指にはめられたリングがチラーンッ!と輝いた。

「むっ!?ほほう。貴様、リングの使い手か。面白い。ゲハッ!」

(リングよ俺に力を貸してくれ!)

「ウィンド!」と唱えると、右手を天高く突き上げた。

「ゲハ。風を操る者か。」

続けて「サイコロンッ!」と唱え、その手をグワッと開く。

「シングルッ!」と唱えるやいなや、突き出した男の腕に、びゅうびゅうと旋風(つむじかぜ)が巻き起こった。

男はその左拳をぎゅうと握り締め、腕をグイッと後ろに引いた。

「風とともに消え失せるがいい!喰らえーッ!!!サイクローンッ!!!」

ブオワッ!

渾身の力を込めて放たれた、その一撃は疾風(しっぷう)となり、巨大な旋風(つむじかぜ)となって偽物のマスターを包み込んだ。

びゅうびゅうびゅう、ごうごごうっ!

「ゲッ!!!ゲゲゲゲゲゲーッ!!!」

城は吹き飛び、大地はめくり上がり、周囲の木々迄をもなぎ倒す。

もうもうとした土煙で辺りは包まれた。

「ふん、たわいも無い。木っ端微塵となるがいい。それよりもマスターを探さねば。」

風が止み、次第に視界が晴れてゆく。

「・・・。ゲハッ。」と笑い声が聞こえた。

「な、なにッ!?」男は驚きを隠せない。

「ゲハハハハッー!なんだあ?ゲハ。微風(そよかぜ)も感じぬわ!」

「バ、バカな!?」

「霧ヶ峰かあ?いい空気だなあ。ゲハハハッ。」

晴れてゆく視界の中から、 偽物のマスターは、再び姿を現した。

「貴様は、リングの真の力を全く知らぬようだなあ。ゲハゲハゲハ。冥土の土産に教えてやろう。」

そう言って両手を交差させて前に突き出すと、ババッっと手を開いた。

「見るがいい!リングの偉大な力を。」

その手には、眩いばかりの光を放つ九つのリングが煌々(こうこう)と輝いていた。

「魔法陣ッ!!!」と唱えると、続けざまに両手を天高く振り出しこう唱えた。

「サイコロンッ!!!」

大地が、いやこの世界全体が揺れる様な異様な感覚に襲われる。

「ゲハッ。トリプルンだ。」

「ば、ば、ば、ばかなっ!トリプルンだと?!それは伝説のはずだ!」

「宇宙の塵となって消え去るがいい。」

そう言うと、両手を大きく前に向けて振り出した。

「とくと味わうがいい!フォース・ディメンショーンッ!!!」

「ぐわっ!ぐわわわわーっ!!!」

男は薄れゆく意識の中で、偽物のマスターに向けて叫んだ。

「き、貴様一体何者だ?!」

「俺様か?俺様の名は、カオーズ。ゲハ。」

「カ、カオーズ・・・?!」

「因みに、塵すら残らんがな。ゲハ。」

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