新入生への挑戦状 8

 最初は小高さんを探そうとも思ったが、生憎私は小高さんがどこにいるのか、そもそも小高さんはまだ学校に残っているのかも分からない。その一方で森永先生は職員室にいる可能性もある。そう考えた私は先に職員室に向かった。案の定森永先生は職員室にいた。

「名無しのもう1冊は牧羽さんのものだったのね。了解。後で名前を書いておいて」

 森永先生は机の引き出しから『1-D English Akemi Morinaga』と書かれたファイルを取り出し、紙をめくって名簿に赤いサインペンで牧羽美緒の欄に丸をつけた。おそらくワークを提出したか確認するためのチェック表。授業態度の評価は提出物の提出状況が大きなウエイトを占めることもあるので、そこは念入りにつけているのだろう。

「もう1冊、とは?」

「英語係の小高さんにワークを渡したときに小高さんから『名前書き忘れてました』って報告してきたから、彼女の方はチェックをしたわ。

――小高さんから預かってきたんじゃなかったの?」

「講義室にいたお節介な人たちが届けてくれました」

 森永先生は「ああ、そう」と軽い返事をして足元にあるカゴの中を見た。このカゴは授業で使う教材を入れておくものらしい。何しろ教科書やプリント、CDやCDラジカセ、フラッシュカードなど英語の授業で使う教材はとても多く、持ち運ぶにはまとめて入れるものが必要だと一目でわかる。森永先生はカゴの中をごそごそと探すと、いきなり叫んだ。

「Oh, no! I left my chalk!」

「……講義室にチョークを置いてきたということですか」

 森永先生は首をかしげる私を見て、「Yeah」と少し悲しい顔を見せた。森永先生はオレンジや緑などを交えて板書では多色を使う関係上、授業では自分のチョークを使うことがある。

「でも、よくわかったわね」

「何となくです。”チョーク”という単語は分かりますし」

「勉強熱心ね。じゃあ、私はチョークを取りに行くとするわ。では牧羽さん、今度は名前を忘れないように。Make sure!」

 私も特に用はないので職員室を出て行こうとすると、おさげの女子生徒が入ってくるのが見えた。

「あの、ここに忘れ物届いていませんか? メガネケースとワークなんですけれど」

 私は彼女に駆け寄った。

「もしかして、小高さん?」

「え? あ! 牧羽ちゃん! もしかしてそれ?」

 彼女は私の持っていたメガネケースを指さした。

「そうなんじゃないかしら? お節介な人が私に届けてきたの」

 私は小高さんにワーク、メガネケース、そして手紙を渡した。

「あー、牧羽ちゃんありがとね! その人たちにもお礼、言っといてね!」

 そういうと小高さんは「失礼しました!」と叫ぶかのように言うと、昇降口の方に行ってしまった。とりあえず持ち主が見つかったのだからよしとしましょう。

「でも全く、あの人たち何なのかしらね」

 私は職員室を出てこうつぶやいた。

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