新入生への挑戦状 3

 高瀬先輩が言うには、英語のワークは1年生のものなので、これらの持ち主も1年生とみて間違いない。要するに1年生を探すのは同じ1年生の力を借りたいと言っているのだ。彼は「できれば全員に頼みたいんだ」と付け加えた。

 俺は「もちろん協力します!」と言った。澄香も「はい」と頷く。意外にも篤志も「いいですよ」と答えた。本人曰く『以前お世話になった』そうだ。

 高瀬先輩が軽く会釈すると、さっそく本題に入った。

「まず、これらの持ち主に心当たりのある人は?」

 3人ともないと答えた。

「じゃあ、1年生の英語は少人数の授業で、この教室も使っているということかな?」

「そうです」と篤志が答えた。俺と澄香も頷く。

 英語の授業はクラスを半分ずつのグループに分けて別々の先生が授業を行う少人数授業を行っている。片方のグループはクラス、1年A組だったら1年A組の教室で授業を行うが、もう片方のグループは講義室のようなクラスの入っていない教室で授業を行う。1年生の英語は確かこの講義室1を使うはずだ。ちなみに1年生の英語で、教室で授業を行うのは川崎先生、講義室で授業を行うのは森永もりなが先生である。グループ分けの基準は出席番号が奇数の者は川崎先生の方、偶数の者は森永先生の方、という具合に半々に分かれている。

「今日英語の授業があった場合、何時間目だったのか教えてほしいな」

 俺は「A組は英語の授業はありませんでした」と答えた。

 篤志は「C組は1時間目にありました。でも、教室で授業を受けるのでこっちの方は……」と語尾を濁した。

 澄香は「B組は2時間目にありました。私は講義室で授業を受ける方です」と答えた。

 これはすぐに見つかるかもしれない。

「ここに座っているのは誰?」と俺はワクワクしながら聞くと、澄香は申し訳なさそうに答えた。

「——私」

 一瞬の沈黙の後、篤志が「まさか小倉のものでは……」と口走った。澄香は「私のじゃないよ」と答えた。

 森永先生は目の悪い生徒を最前列の席の中から決めて、残りの生徒を教室の右端の列から出席番号順に座席を指定したのだという。問題の席は右側から2列目の前から2番目の席。小倉澄香ならだいたいその辺りにくるだろう。川崎先生は授業の初日に黒板に座席表を貼ったが、森永先生は用意していないらしい。

 篤志は「2時間目か……」とつぶやく。確かに微妙な時間だ。

「授業の時にはあった?」

「ううん。引き出しの中には何もなかった」

「じゃあ、残るはD組か」

 高瀬先輩は俺たちの会話に頷きながらこう言った。

「今日はどのクラスも5時間目は学級活動だからこの教室は使わないはず。でも3・4時間目に1年D組で英語の授業があるかもしれない。そうすると1年D組の生徒の可能性が高い」

「それなら」と俺はこう提案した。

「1年D組の人に聞いてみます。知り合いは何人かいますし」

 そう言って俺は1年D組にいる高浜小出身の人や塾の知り合いを思い浮かべる。澄香も指を折るしぐさをしているので、俺と同じ考えなのだろう。

 一方で篤志は苦言を呈した。

「おいおい、まさか持ち主に当たるまで聞きまわるのか? どこにいるのか分からないのに。おまけに部活中なのにホイホイ飛び込んで行っていいものなのかもわからないのに」

「時にはそういうことも必要になるね」と高瀬先輩は篤志の肩をポンと叩いた。

「確かに君たちの人脈を伝って持ち主を探す手もある。でも篤志君の言うように仮入部期間で誰がどの部にいるのかあやふやな状態で探すのは大変だし、時間もかかる。まだ部活に入っていない君たちに2日も3日も続けて探させるのは部としてもさせたくない。おまけに別行動をとると収拾がつかなくなる。

 だから一旦1年D組の教室に行って今日の時間割を見てくるのはどうかな? 誰か教室に残っていればその人から話を聞けばいい。人海戦術はその後だ」

 俺は「そうですね」と頷いた。その手があったか。

「なら早く行きましょう」と澄香が忘れ物をまとめる。かさばるものではないが、忘れ物は3人で分担して持つことにした。

「資料をしまうから先に行ってて」と高瀬先輩が言うので、俺たち3人は1年D組に向かった。

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