第21話 神鳥が襲来しました

 見渡す限りの碧い海、果ての見えない地平線。顔を撫でる風は潮の香りがする。初めてこちらの世界の海を見たが、地球の海とあまり変わらず、むしろこっちの方がきれいに感じるくらいであり、沖縄の海などを彷彿とさせた。そんな風に黄昏ていると、五月蝿い同行人の声が聞こえてきた。


「ショウさん! 海ですよ、海! 私、海なんて初めて見ましたよ! こんなに綺麗なものなんですね!」


「そーですね」


「しかし、ショウさんといると本当に驚くことばかりですね。北方大陸に行く手段があると聞いたときは流石にショウさんでも無理だと思いましたが、まさか飛竜を手なずけているとは思いませんでしたよ」


「そーですね」


「しかし、あれですね。危険腫を討伐して、竜をも倒すなんて、物語に出てくる勇者様とか英雄の所業ですよ。ショウさんは一体何者なんですか?」


「そーですね」


「ショウさん! さっきから“そーですね”しか言ってませんよね! というより、話聞いてませんよね!」


「そーですね」


「はあ、ショウさん。もう少し会話をしましょうよ」


 お下げ髪がガクッと肩を落として、諦めたかのように再び景色を見始めた。まあ、彼女の言い分も分からなくはない。誰かと一緒に居て無言の状態が続くと居心地が悪くなる人は居る。ただ、俺は基本そんなもの気にしない。もともと他人とそんなに話す方でもないし、会話はいつも必要最低限を心掛けている。何処かの誰かが言ったように、“やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に”である。省エネはいつの時代、どんな場所であっても大事である。


 さて、今どういう状況かというと、アズマさんとお下げ髪と食事をした翌日、俺は北の山脈地帯に行った。というのも、例の飛竜に話せば竜の里まで行く方法、可能であれば連れていって貰おうと考えたわけだ。


 そう考えて山脈地帯へと向かったのだが、いつの間にかお下げ髪も着いてきて居た。まあ、町を出た辺りから付けられているのは気づいていて、あえて無視していたのだが……。彼女は飛竜を見たときは驚いて腰を抜かしていた。その時も、さんざん論外だとか、頭が可笑しいだとか言われたがスルーした。


 で、実際に飛竜に聞いてみたところ、連れていってくれると言うので、その言葉に甘える事にした。ただ、何故かお下げ髪も付いてくると言って、半ば強引に飛竜に乗ってきた。落としてやろうかとも考えたが、何をしても付いてきそうだと感じたので、そのままにしておいた。


 ちなみに、王都で買った魔道具の一つ、“万能鞍”と“万能手綱” を飛竜に着けている。これは馬から竜までどんなものにも使える伸縮自在の鞍と手綱である。まあ、衝動買いで買ったものだが役に立ってよかった。……値段? そんなものは覚えてない。


 というわけで現在、俺とお下げ髪の二人は飛竜に乗って、竜の里を目指しているところである。


「あと、どれくらいで着きそうだ?」


「そうですね、あとどのくらい転移をして頂けるのかにもよりますが、半日もあれば着くと思います」


「そうか」


 大陸間の移動が半日ちょっとで出来るのは、俺の転移によるものが大きい。ただ、そんなまどろっこしいことせずに、転移出来るなら竜の里まで転移すればいいと考えるのが普通だろう。


 しかし、このテレポブーツによる転移は自分の知っている所にしか転移が出来ないようで、竜の里まで転移しようとしたが転移が発動しなかった。このテレポブーツによる転移は、すでに自分が知っている場所か、自分が見えている範囲内にしか転移は出来ないようだ。


 それと今回新たにわかったのは、自分の周りの一定範囲内であれば、選択的に自分と同時に転移が出来るようであった。今まで何回か転移して感じたのが、この転移の主体は何なのかということである。


 テレポブーツ自体が本体とすると、テレポブーツに触れていない服などが一緒に転移する理由がわからない。また、テレポブーツの装備者が主体であれば、その辺りは何となくではあるが分かる。


 なので、とりあえず触れたものが全て転移するかを確かめた。結果は全て一緒に転移した。次に、触ってた物は転移しないように考えながら、転移を行ってみると、その触れていたものは転移しなかった。


 では、触れていて、一緒に転移するようにすれば転移するのか? いや、そうすると靴は靴下を履いているから、直接触れていない。なら、靴が主体なのかという話に戻ってしまう。ここで試したのは、触れていないものも一緒に転移する事が出来るかである。結論として、出来た。実際に距離などは分からないが、目に見える範囲内であれば、自分と共に転移が出来た。しかし、必ず自分と共にというのが必要である。つまり、自分は転移せず他の物を転移させることは出来ない。そう考えると少し不便な感じもするが、十分な性能である。


 そういうわけで、そんなテレポブーツの機能を使い、俺は飛竜に乗りながら転移を繰り返していた。なら、それだけで大陸横断すればいいという話もあるが、使用制限などが不明確である以上、いつ使えなくなるかわからないので、そんな冒険はする気は無かった。


「しかし、ショウさん。貴方は一体どれだけの力を隠し持ってるんですか?」


「ん?まあ、普通の人より少し多いくらいだろ?」


「全然少しでは無いと思いますよ!」


 まあ、五月蝿いのは放っておいて、俺はマップを見る。すると、進行方向に何やら反応があった。 反応はマップの端の方なので、まだ十キロメートルほど距離はあるが、飛竜の速度だと数分でぶつかるだろう。まあ、飛竜より強いのなんてそうそういるとは思わないが、一応調べてみる。



 名前:ガルーダ

 性別:男

 種族:ガルーダ(ランクB)

 HP 15000

 MP 6000

 ATK 5500

 VIT 4500

 AGI 8000

 INT 7500

 MND 8000

 DEX 6000

 LUK 1200

 特殊能力:臥薪嘗胆、咆哮、野生の勘、MP自動回復、威圧(上級)、魔術(風)


 臥薪嘗胆:復讐のために長い時間努力してきた。復讐対象への与ダメージを倍にし、復讐対象から自身への被ダメージを半減する。



 へぇ、ガルーダか。何かどっかでガルーダは竜の天敵とか聞いたことあるが、それでこんな能力が付いたのか? まあ、聞いてみるか。


「何か十キロメートル先にガルーダってのがいるけど、知ってる?」


「ガルーダですか……」


「ショウさん、今ガルーダって言いました!? ガルーダって竜と敵対して滅ぼされたと言われている伝説の神鳥ですよ! 何でそんなのがいるんですか!?」


「いるんだからしょうがないだろ。で、行けそうか?」


 俺は、途中何か雑音が聞こえた気がしたが特に気にせず、飛竜にガルーダを任せていいか尋ねた。すると、飛竜はフンッと鼻を鳴らし、さも当然のように言った。


「問題ありませんね。ガルーダごときに遅れは取りませんよ」


「そうか。じゃあ、任せた。まあ、無理そうなら俺がやるから」


 そう言って俺は飛竜の背で横になった。ステータス的には同じくらいだが、あの特殊能力がある以上ガルーダの方が優勢だろうが、俺にとってはどちらも大差ない。いざとなったら、どうにでも出来るだろう。


「そうなることは無いと思いますが、その時は宜しくお願いします」


 その時、前方に赤い何かが見えた。恐らくガルーダだろう。飛竜は一度止まり、ガルーダへ向けてブレスを放った。ガルーダは避けることなく、正面からブレスを受けていた。


「やりましたかっ!?」


 お下げ髪が何か言っているが、そう簡単に倒せるわけがない。案の定、ブレスは掻き消され、何事もなかったようにガルーダはそこにおり、風の刃がこちらに向かって来ていた。


「効かんわっ!」


 向かってきた風の刃は、飛竜に当たる一メートル前辺りで掻き消えた。恐らく竜王の加護の効果だろう。やっぱり、本来なら反則級の能力だな。


「ブレスでは埒が明かないので接近します。しっかり捕まっていて下さい!」


 そう言うと同時に、飛竜は疾風の如くガルーダに向かって突っ込んでいった。俺は手綱をしっかり握り振り落とされないようにしていた。お下げ髪はと言うと、俺の体にしがみ付いていた。役得と言っていいのか、彼女の柔らかさを体で感じていたが、それは結構どうでもよかった。


「ん? ショウさん。今、何か失礼なこと考えませんでしたか?」


「気のせいだ」


……女の勘か。今のはあんまり感付かれなかったが、具体的に考えるほど気づかれやすいのだろうか。取りあえずそれは置いといて、飛竜は結構苦戦しているようだ。


 ガルーダの防御力に対して飛竜の攻撃力の方が上回っているので、当たればかなりのダメージが望めるが、如何せん、ガルーダのスピードに飛竜が翻弄されている。飛竜に魔術が当たらない以上、決着は時間の問題であるが、ダラダラ待つのも面倒になってきた。どうせ倒すのならさっさとやってしまおう。


「というわけで、飛竜。時間切れだ」


「なっ!」


 俺は無詠唱でスタンを掛けガルーダの身動きを封じたところで、雷属性初級魔法サンダーを放った。それにより、凄まじい轟音と共に鋭い稲光がガルーダへ直撃した。しかし、流石ガルーダといったところか、それでもなお意識を保っていた。ただ、その体は既にボロボロであり、もう一発魔法を当てれば倒せるといったところであった。


「はあ、何というか運がなかったと思ってくれ」


 俺はファイアを使い、ガルーダを焼き払った。そしてガルーダは光の粒子となって消え去った。


「終了だな」


「……流石です」


「はあ、神鳥まで倒すなんて無茶苦茶ですよ。もう、神って名乗った方がいいんじゃないですか、ショウさん?」


 飛竜は唖然としつつも羨望の眼差しで、お下げ髪はゲンナリした表情で俺を見て言った。とにもかくにも障害は無くなったので、引き続き竜の里へと目指していった。

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