第14話 王都に到着しました

「ショウさん! あれが王都レヴィーユですよ!」


 お下げ髪が俺の服を引っ張り、窓の外を指差す。俺は鬱陶しく思いながらも指差す方を見ると、そこには灰色の塀のようなものがあった。


「王都って壁のことだったのか?」


「違いますよ! というか分かって言ってますよね?」


「当たり前じゃん」


「まったく、ショウさんは」


 あきれる彼女を無視して、俺は窓の外を眺めることにした。




――――――




 俺たちは村を出た後、王都までさらに町を二つ経由したが、その間は魔物や盗賊に襲われずに何事もなくたどり王都へと着いた。


 その間にあったことと言えば、町の名前について抗議したことだ。何故かって? 辿り着いた町の名前が第一の町とか第二の町とかで、今後いく町は第三、第四の町とか嫌だろ。


 まあ、そんなことでGMコールして、何か名前を付けないのか聞いてみた。するとあっさり了解を得た。こんなにあっさり了解するなら、何で今までやらなかったのかというと、単に面倒だったからだそうだ。一応確約はとれたが、名前をつけるのに準備があるらしく、全てに名前を付けるには暫く時間がかかるそうだ。


 とにかく、これでもう少し異世界感が出るだろう。これから王都へ向かうし、他にも色々な町にも行くだろうから、名前がないと味気ない。


 他には道中でFランクの魔物に襲われたりもしたが、ハイウルフの群れと比べると規模も強さもかわいいもので、アズマさんだけで十分であり俺の出番はなかった。




――――――




 そんな安全な旅もあと僅かで、今、目の前には巨大な壁が聳え立っていた。そこには、三メートルほどの高さのある門があり、そこを守る二人の門番がいた。


「止まれ! 身分証を提示しろ!」


 馬車の前に一人の門番がやって来たので、カルロさんは馬車を止めた。俺達は指示に従いそれぞれ身分証を提示した。


「よし! 通っていいぞ!」


 門番に促され、カルロさんは王都の中へと馬車を進めた。


 王都へ入った俺達は、まずギルドへ向かい、依頼の達成を報告する為にギルドへと向かった。王都のギルドは始まりの街のギルドと比べると圧倒的に大きかった。外観は中世の洋館を彷彿とさせ、中に入ってみると木製のシックな作りで落ち着きのある感じであった。


 俺達は受付に向かい、用件を済ませることにする。


「すいません。依頼の達成報告をお願いします」


「はい。ではギルドカードの提示とこちらに名前の記入をお願いします」


 俺達は受付に出された用紙に名前を書いた。護衛依頼の時は依頼書をギルドへ渡し、依頼人と共に達成書にサインを書くことで依頼達成となる。


「はい。確かにお預かりしました。こちらが報酬になります」


「ありがとうございます。あと、これもいいですか?」


 そう言って受付の人はカウンターに袋を置いた。それを受け取った後、ハグルから貰った手紙を受付に渡した。


「はい。これはっ! 少々お待ちください」


 受付の人は手紙にあった印を見ると、少し慌てた様子で、受付の奥へと入って行った。暫く待っていると、先程の受付の人が戻ってきた。


「お待たせしました。アズマさん、ショウさん、ユネハさんはこちらへどうぞ」


「はい、ではカルロさんとはここで」


「そうですか。皆さん、ありがとうございました。暫くは王都にいますので、何か御入り用ならお声かけください。勉強させていただきますよ」


「ははは、その時は是非お願いします」


「ええ、是非」


 俺達はカルロさんに別れを告げた後、受付の人に付いて行き一つの扉の前で止まった。


「マスター、アズマさん、ショウさん、ユネハさんをお連れしました」


「どうぞ」


「失礼します」


 中へ入ると、そこには透き通るような白い肌の耳の尖った女性がいた。恐らくエルフなのだろう。始まりの街で受付をやっていたセリーヌさんも耳が尖っていたし。ただ、あの時は特に気にしなかったが、今、目の前のエルフと思われる女性を見ると改めて考えさせられる。それは胸である。セリーヌさんは絶壁とは言わないが、かなり慎ましかった。しかし、目の前の女性は明らかに違った。そう、ものが違った。所謂メロンサイズというものだろうか。エルフは絶壁という概念を壊された。ただ妖艶といった感じは無く、ほんわかした雰囲気の女性であった。


「はじめまして。私はギルド王都支部でギルドマスターをしておりますフアナです。どうぞ、そちらにお掛けになってください」


 微笑むフアナさんに促され、俺達は彼女の正面に座った。


「失礼します」


 俺達が座ると、彼女が口を開いた。


「では、改めましてギルドマスターのフアナです」


「ショウです」


「ユネハです。よろしくお願いします」


「アズマだ」


 挨拶もそこそこに本題に移ることにする。


「この手紙に書いてあることが事実ならば、Bランクへの昇格は間違いないでしょう。失礼ですが、確認のためゴブリンルーラーの魔石を見せていただいてもよろしいですか?」


「どうぞ」


 俺はストレージから、但しバックの中から出すように見せ、魔石を取り出した。それを見て彼女は一瞬目を見開いたがすぐに真剣な表情で魔石を見ていた。


「はい。ありがとうございます。では、国王への謁見ですが最速で一週間後になります。また決まり次第ご連絡いたします。また、その間の宿泊代はこちらで持ちますので、ギルドが経営している“月の宿”へ泊まって下さい」


「はい、わかりました」


 国王への謁見は最速で一週間後らしい。その間は完全にフリーなので何か依頼でもこなしながら能力の研究でもするかな。そう考えていると、フアナさんが話しかけてきた。


「それでですね、お願いがあるのですが。もしよろしければ指名依頼を受けて頂けませんか?」


 どうやら、その間に指名依頼をやって欲しいらしい。しかし、こんな時に頼まれるのは決まって厄介事だったりするものだ。なので自由をもっとしている俺は丁重にお断りすることとした。


「間に合ってますので結構です」


 そう言うと、彼女はポカンとした表情でこちらを見ていた。


「いやいや! ショウさん、こういう時はちゃんと話を聞いてから決めましょうよ!」


「え? だって、絶対厄介事だろ? ゴブリンルーラーの件が本当かどうかの力が見たいとかそんな理由もあるんだろう? 俺は別にこれを断ってランクが上がらなくても構わないし」


「あー、もう! それでもちゃんと聞いてください! ギルドマスター直々の指名依頼なんですから!」


「はぁ、しょうがない。じゃあ、その依頼とやらの内容を教えてください」


 お下げ髪が煩いため、取り敢えず内容を聞くことにする。すると、呆気に取れれていた彼女は気を取り戻し、話を続けた。


「あ……、はい。依頼というのは王都の北にある山脈地帯に盗賊団のアジトが発見されたのです。それで討伐体を編成しているのですが、そこに入って貰いたいのですが……」


 盗賊団か……、窃盗品とかの所有権はどうなるんだろうか。


「ちなみに、報酬は?」


「報酬は、盗賊一人当たり五百センです。盗賊の持ち物は早い者勝ちとなっております」


 五百センか……、なら普通に討伐依頼を受けた方が稼げるか。


「私は受けますよ! 盗賊団を野放しにしておくわけにはいきませんし。お二人はどうしますか?」


「俺は受けるが、ショウはどうするんだ?」


「そうですね……。なら、やはりお断りします。恐らく人員は足りていると思うし、アズマさんとコレがいればよっぽどのことが無い限り大丈夫だと思うんで」


「ひどいっ! これって何ですか! 私にはユネハという名前があるんですよ!」


「はいはい、ということで、俺はその依頼は不参加でお願いします」


 五月蝿いのは無視して、さっさと話を進めることにする。まあ、俺がやると確実にオーバーキルだし、アズマさんとお下げ髪は受けるみたいなので、二人に任せるとしよう。決して面倒臭いからではない。


 俺の言葉を聞いたフアナさんは少し残念そうな表情をした。


「そうですか。まあ、強制は出来ませんので仕方ありませんね。では、詳しい話をしますので、ショウさんはご退出願いますか?」


 一応機密情報であるため、俺は部屋を出ていくことになった。これ以上は特にいる必要もないので、この辺りではどんな依頼があるのか軽く依頼書を見た後、ギルド斡旋の月の宿へ向かうことにした。

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