第6話 織姫《ブラックスワン》、撃墜

 回収作業が終わる直前、私は遠くから鴎の大群が押し寄せてくるのを目視で確認した。レーダーが反応してそれが敵襲であることがわかった。艦長の号令で全人型兵器が戦闘準備を始めた。

 近づいてきた敵が本当に鴎の形をしているので私は戸惑った。下を見ると海面にも飛魚のようなものが沢山飛び跳ねている。

「未来社の小型兵器だ」

 真理が無線で報告する。私は真理と二人で受けた極秘の別任務のことを思い出した。反乱軍に未来社が手引きしているかを探るのが私達の任務だった。

 味方が口々に悪態を着く声が無線のマイクに拾われてスピーカーに再生される。 私も罵声の一つも浴びせかけたい気分だった。鴎型の小型兵器はうっとおしく飛び回って小さい爆弾を落としては去って行く。大群が邪魔で自由に動き回ることもできない。キリがないことを悟った私は決断した。

「私が一掃する。全人型兵器は私から離れてほしい」

 私はその言葉を無線で伝えると操縦席パイロットルームの椅子を仰向けからうつ伏せの状態にした。頭が機首の方に来て、腹這いになる。機首を上向きにして私は機体を回転させ始めた。速度が少しずつ上がっていく。そのうち機体が完全に垂直になり、直立して高速で回転する。周囲の風が回転に巻き込まれ竜巻のように形作られるのがわかる。風は海水をも巻き込んでそれ自体が巨大な台風のように体積を膨らませていった。鴎型の兵器も飛魚型の兵器もその風と海水に吸い込まれ回転に巻き込まれていく。私は台風の目となった舞姫ブラックスワンの機銃を発射させる。回転に巻き込まれ、揉みくちゃにされながら破壊されていく未来社の兵器に次々と着弾する。

 これが、この人型兵器が舞姫ブラックスワンと呼ばれる所以だ。全てを巻き込み無に帰す。美しい白鳥の姫の振りをして、他人の運命を無惨にも握りつぶすのだ。この台風に巻き込まれた物は原型を留めることはできない。

 一通りの攻撃をして、態勢を戻して回転を止めた。霧が晴れるようにして視界が少しずつ広がって行く。重力の感覚を失った私はどういう態勢になれば機体が安定するのかわからない。

 無線から誰かの声が聞こえてくる。声量がありすぎて言葉が聞き取れない。何だろう、とふと見つめた先に、黒い影が見えた。

 砲弾だ。間に合わない。もう避けられない。そう思った。どうすればいい? 荒雲ヘラクレスが飛んでくるのが見える。

 体が放りだされた感覚があった。体中が痛い。動かないし、息もできない。目を閉じていないと怖くていられなかった。真理の顔が浮かんだ。荒雲ヘラクレスが助けに来てくれるのが見えたんだ。きっと真理は助けに来てくれる。ここがどこだかわからないけど、大丈夫。無駄な体力を使ってはいけない。

 ここが海の中だと気付いた時には体が急激に動かされていた。海面から顔を出すとそこに真理の姿があった。体に絡まったパラシュートの紐を解いてくれていた。

「真理……」

 真理が驚いて顔を上げた。

「意識があるのか?」

 真理が目を見開いて驚くが、自分だって気絶しなかったのが不思議だ。

「ああ、何でだろう。ぼんやりはしてるけど」

「とにかく、よかった。怪我はないか」

「多分、ない」

「戻ろう」

 波の音がして、平べったい形の潜水艇が一機近づいてくる。持田の直属の部下だった特殊潜水艇月影ウルヴァリンのパイロットが見つけてくれたのだ。

「織牙、さっき俺のこと、真理って」

 真理が思い出したように切り出す。私はその時自分が思わず真理と呼んでしまっていたことに気付いた。弁明する余地はない。私は正直に答えた。

「ああ、そうだ。私が初めて会った時から、お前は伊豆真理だったからな」

 真理が表情を変える。

「……私は、どうしたら織牙と一緒にいられるかわからなかったんだ」

 強がった真理の目が柔和さを取り戻して私は安心した。

「別に気にすることはない。もう過ぎたことだ」

 月影ウルヴァリンからパイロットが出てくる。

「真理さん、織牙さん。お熱いところ失礼ですが、とりあえずこっち来てください。体が冷えるとまずいですよ」

 真理と私は月影ウルヴァリン操縦席パイロットルームの中に入った。月影ウルヴァリンパイロットはハッチを閉めるとUターンした。母艦に無事を報告すると次の命令が下る。全パイロットは実行の準備を始めた。

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