自虐家は空っぽだ
別にいい作品を作ろうって気負ってる訳でもねえし、そうやすやすといい作品ができるなんて到底思ってもいない訳だ。
こんな自分が、まだそんな技量に達していないことなんて分かっている。それにそんなことを考えること自体、どこか烏滸がましいという気もしてならない。
今はただ自己満足出来ていれば、それでいい。それくらいでちょうどいい。
だが、どうだ。
今はどうあがいても自己満足すらできやしない。いくら書いたって虚しさが募るばかり。全くだ。
そもそも、自己満足できる作品すら書けないってのはどういうことなんだろうな。いくら文をたたきつけて見たって、なんら満足しないのさ。
自分が満足したいがために文を書いているというのに、その文で自分は何一つ満たされちゃいない。乾いた大地にいくら水をやっても、すぐに乾いて消えてしまう。
焼け石に水、とんだ渇き、とんだ飢えだ。
そうして苦しみまくってはや半月、結局その間自分が書けたものはたいしたものにならないゴミ屑。いくら読んだって、自分の評価はこれに尽きる。
一体どうすればいいのか自分は調べに調べ、分析するだけ分析して、結局どうにもならずじまい。こうしてベットに寝転んでる。
八方塞がりだ。
どこへ向かって見たって、突き進んだ先の壁にぶつかる。これを乗り越えなきゃ先へは行けないらしい。けれど、乗り越える術なんて今の自分には残されちゃいない。
だったら術を手に入れればいいと、様々なものを見聞きし、学ぶ。本だって久々に何冊も読んだ。小説、新書、なんだって。本を読めば、きっと何か手がかりができるはず。なんてアテのない希望に囚われて見るのも悪くはなかった。実際に、中々面白い本に出会うこともできたのだ、収穫は上々。
だが、現実はそう甘くはない。
いざ文を書こうとしたって、結局はどうにもならずじまいなのさ。溜め込んでも、ダメだったらしい。
確かに面白いものは手に入った。
けれど、それを吐き出したいか? と言われたら答えはNOだった。
どれも吐き出したいとは思えない。ぶつけたいとは思えない。
面白いけれど、何か違った。面白いし、楽しい、それだけのもので再び何かを書けると思ったら、大間違いだったというわけだ。
筆が止まるたび、何もぶつけられなくなるたび、自分を責める自分の声が聞こえてくる。
「もっと書けるはずだ。自分はこんなものではないはずだ。前はもっといいのが書けたはずだ」
ある意味では強迫観念と言ってもいいのだろうか。そんなものが自分の周りで渦巻いて、ひどく鬱陶しくて。
しかもそれが自己満足とは程遠い、「いい作品を書こう」というもんだから、矛盾が過ぎて笑っちまう。
それを取っ払おうとまた文を書こうとして、書けなくての繰り返し。うっとおしさに苛まれた頭で書いた文じゃ、ただ自分の嫌悪が増すのを助長するだけだ。
そして最後は破綻する。
もう何もかもが嫌になって、唯一自分ができることがなくなった様になって、休日は余計に部屋に引きこもる様になった。
もう何も考えたくなかった。
自分は文を書くのが好きだったはずだ。だというのに、今じゃ文のことを考えるだけで胸が苦しくなる。鎖でギチギチに巻きつけられた様な感覚、もはや解けそうにはない。
このまま自分は文を書くことをやめてしまうのか、もう二度と文を書けなくなってしまうのか。
そんなことばかりが頭の中でとぐろを巻く。もはや書きたいことすらわからない。一体自分が何を書こうとしていたのか、わからなくなってしまった。
自分の中にはもう何も残っていないのか。ぶつける様な感情が、想いが、もうなくなってしまったというのか。
そんなつまらない人間に成り下がったというのか。
ふと、そこにあったケータイが目についた。いつだってその時の思いを吐き出した文が、その中にあることを思い出す。闇雲になって、自分はそこに文を叩きつけていたっけか。
向こうに見えるパソコンも、同じ様な文をたくさん叩きつけた。その時の思いをがむしゃらに、叩きつけて、吐き出していた。
今では感情のままに、想いのままに何かをぶつけていたその時の自分は、どこにもいない。
そりゃそうだよ、今の自分は空っぽの産物だ。ぶつける様な感情だって、叩きつける様な想いだって、どこにもありはしねえのさ。
そうだ、どこにも、どこにも、そんなもの……、
「ないわけじゃ、ねえよな」
自分は一つのことを忘れていた。
それはその時の感情、想いが途切れるなんてそうそうないってことだ。いつだって想いというものは持続するし、感情は否が応でも現れる。心の中では何かしら渦巻いてやがるし、悩むことはそう尽きない。
自分はそいつを書いていたはずだ、そいつを吐き出してたはずだ。
じゃあ今はどうだ。今自分はどう思ってる。
何も書けなくて辛い。やめたい。どうしようもない。
だったらそれを叩きつけてやればいい。そいつを吐き出してしまえばいい。
わかってみれば簡単な事だ。悩む必要なんてさらさら無かったことだ。
いつだって自分をかこうとしていたはずじゃねえか。
だったら、この思いを書かずにどうする。この思いを書いてこそ自分じゃねえのか。
こんな自分でも、この思いを形にすることはできるだろう?
そして自分は再びデスクトップを前にする。久しぶりに清々しい気分だった。歌でも一つ歌ってみたい、そんな気分だ。
それじゃ、吐き出してみるとしますかな。
自分は自分を書けばいい。
今しかいない自分を書けば、それでいい。
「そうだろう、自分」
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