渡し守の唄

水玉猫

prologue

虹の橋行きの船

 虹の橋行きの切符が届くと、地上で暮らす動物ものはみな、地上から虹の橋へと旅立たなければなりません。



 虹の橋行きの船が出る船着き場では、涙の色をした船と渡し守が、乗客を待っています。


 涙色の船は、ひとり乗りで、ゆりかごの形をしています。

 地上に生まれる前と同じ無垢むくな魂に戻って、虹の橋のたもとの街にかえるために、ゆりかごの形をしているのです。


 虹の橋には、ひとつだけしか、地上のものを持って行くことができません。

 地上で暮らす間に背負う荷物は、あまりにも重くて、船が沈んでしまうのです。


 渡し守はさおをあやつって、船を進めます。

 その棹の先には、リボンで結んだ鈴がひとつ付いています。

 棹さす度に鈴は澄んだ音をたて、渡し守はその音に合わせ「渡し守の唄」を歌います。


 地上から虹の橋のたもとの街までは、とても遠い旅。

 その長旅の間、乗客は渡し守の歌う唄を子守唄に、まどろみながら過ごすのです。



 虹の橋へ旅立ったゆりかごの船が、はやく安息の地に着きますように。そして、はやくまた、なつかしくいとおしいみんなに出会えますように。

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