刻の召喚士

@jnsto

少年期

プロローグ「立花創矢は振り返らない」

…転生というものなのだろうかこれは。


どうにもこうにも先ほどから…といっても自分がここにいる、と気づいたのはついさっきなのだけど…手足の動きが悪い。力が入らず全身がまるで海で日焼けした後かのように、妙にひりひりするような感覚にも襲われている。あとよくわからないけれど体中がベタベタしている気がする。俺は海の中にいるのか。


いや違う。それだけははっきりわかった。むしろ先ほどまで居た空間が海だとすれば、今俺はそこから這い出て陽の当たる場所に出てきたような。そんな温かさを感じつつある。


だが…とても眩しい。何も見えないし、よく聞こえない。そしてひたすら苦しい。口に何かが詰まっているのだろうか。吐き出したい。…吐き出した。うまく吐き出せない。苦しい。


…まさに俺は今この瞬間、この世に生を受けたのだろうか。

そんなありえない考えが頭をよぎる。でもその考えが頭から離れない。


じゃあここで考えている、おれ自身は誰なんだ。


どうしようもない不安感に襲われ、それに抵抗し足掻くかのように。俺は声を振り絞った。精一杯叫んだ。もう海からは出た筈なのに、水の中にいるのようにくぐもる自分の声は、言葉ではなく叫びになってしまう。おそらくこれは、おれ自身の産声だ。


…俺は何故か、前世の記憶を持ったまま生まれているらしい。最後の記憶は…高校の体育の授業で頭をうって…ああ、もういいや。そんなこと、新しく生まれ変わるなら考えても無意味だ。


俺こと立花創矢は、決して後ろなど振り返らない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る