紅蒼機 アイジャー・ヴァーミリオン参戦!

 いとも簡単に弾き飛ばされ、地に機体を叩き付けられたギルティオンを見て、幹部はこの世の終わりを、目の当たりにしたような悲鳴を上げる。


「な、なんなのだ! あの化物じみた奇妙な生物は!?」


「…私は確かに申し上げた筈です上官。農村部に異変が起こっているという話を」


「ま、まさか…コレが貴様の言っていた異変の正体か!? どうして知っていたなら全てを言わなかった!!」


「内容の話をする前に、噂自体が存在するという話をした時点で、誰も信じていなかったのは、何を隠そう貴方達ではないですか。―――現実を見ろ。このが」


 樹は文句を並べる幹部を、見下したように一瞥し、侮辱の言葉を吐き捨てると、モニターへと視線を移した。


 もちろんそんな言葉を、幹部が都合よく聞き逃すはずもなく、その言葉を耳にするなり、モニターに顔を向けた樹の胸座に掴みかかる。


「な、なんだと!? 貴様そのような口を利いて、ただで済むt」


「それは此方の台詞だ。半信半疑でもいいから、その噂を裏付けする証拠を提示するように、あの時言っておけばよかったものを…。とにかく、ギルティオンの最終責任者は俺だ。お前のような、踏ん反り返るだけが能の腰抜けじゃない」


「ヌヌヌ……!!」


「…あの化物を止めるには、現状ギルティオンコイツしか手段が無いんだろ?」


 とどめに樹は「お前等は、お得意の媚びを、自分より上のお偉いさんじゃなく、俺に売っていればいいんだよ」とだけ言って、自分の胸座を掴む手を強引に振り解いた。


 幹部も流石に、もう一度掴みかかる気にもなれないらしく、それ以上は何も言わなくなってしまう。


 そんな様子の幹部を、チラ見しながら気にかけつつ、叶香が樹の背を弱めに叩いて、満面の笑みで親指を立てて見せた。


「見直したわよ。まさか貴方があんな風にガツンと言ってくれるなんて! …ちょっと言い過ぎな気もするけど」


「神様なんていないって事だ。いるとすれば、人間やくびょうがみぐらいだろ」


「えっ? どうしたのよ急に…」


「自然界に住む動物を調べていれば、人間がどれだけ自然という枠組みから、除け者にされているかが、痛いほどよく分かる。だから、神様がいるとすれば、自然にとってよくない事をする、疫病神おれたちだけだって事さ」


もし本当に神様がいたとしても、たった1人の人間すら、助けもしない神様なんて――――だろ。


 それだけ言った樹は、叶香の顔を見る事も無く、再び指揮の席に着いた。


「ギルティオンの状況は?」


「先程の不意打ちには、流石に我々が驚きましたが、ギルティオンの機体には大したダメージはありません」


「それならば反撃だ。反撃のついでに、本体がどこにあるのかも、ちゃんと探すべきだろうな」


「了解!!」


 樹が下したその指示の元、オペレーター達が一斉に、画面へと噛り付くような体勢で、自分の前にあるモニターを見つめる。


「敵の本体の所在を確認。現在地より座標がマイナスを越えています! どうやら地中深くに、他の生物よりも高い、生体反応があるようです!」


「地中深く…か。ギルティオンには、地中を潜行するような機能は無い。どうしたものかな…」


『ならば私とアイジャーの出番だ。君達は危害を加えられない場所まで、その機体を下げてみているといい』


 突如として、オペレートルームに響く、謎の人物の声。樹と叶香が顔を見合わせ、オペレーター達の間でもどよめきが起こる。


 それと同時に、ギルティオンの眼となるカメラに、眩いばかりの閃光が、何の前触れもなく、唐突に飛び込んできた。


 モニターから発する閃光を、手で遮るような仕草で、樹や叶香達がモニターに何が映っているのかを見ようとする。


「ッ!? ギ、ギルティオンの後方より、謎の発光現象を確認!」


「んな事は分かってる! 大事なのはコレが何なのかだ! エネルギーグラフを使ってみろ!」


 樹の一声で、ギルティオンの視界モニターから眩しさは無くなり、代わりにサーモグラフィーのような色彩へと塗り替わった。


「光の中に高いエネルギー反応を2つ確認! 1つは人型、そしてその人型が装着している円錐状の物体です」


「なんでエネルギー反応が安定してねぇんだ? 普通はエネルギー反応の表示が、コロコロ変わるなんて事は無いはずなんだが?」


「どうやら……四角錐状の物体が高速で回転しているようです。その影響で人型の反応が、みるみるうちに地中へと沈んでいます」


「四角錐状の物体が高速で回転。その影響で沈んでいく人型のエネルギー反応……ドリルだな」


『ご名答、流石は鐵薙の国の学者さんだ。何をさせても万能のようだな』


 再び同じ人物の声が聞こえたと思えば、オペレートルームに1本の通信が入る。


 通信機の前にいたオペレーターが、困惑した表情で樹と叶香を見るが、樹が通信に応答するよう表情で促した。


「つ、通信に応答します。発信元は―――ギルティオン。通信相手をモニターに表示します」


「ギルティオンからの通信……? なんで、本部に通信が入るんだ?」


『すまない、私がその通信機を経由して、そちらに通信しているのだ。人が乗っていないわりに、なかなか便利な機体じゃないか』


 その発言の最中、仮面舞踏会に使われるような、ハーフマスクをつけた男が、モニターに表示される。


『言うのが遅れてしまったが、先程は挨拶も無く、いきなり失礼な事をした』


「……俺としては、どこからツッコんだら良いのか分からない奴だな、としか言えねぇ。そのハーフマスクは、どうにかならねぇのか?」


『君の色々と言いたい気持ちは分かる。コレをつける時、私も同じことを考えていたからな。……しかし、顔に付けられた治らない傷跡を隠す為だ。ハーフマスクについては、あまりツッコまないでもらいたい』


 そこで、仮面の男がゴホンとわざとらしく、大きな咳払いをした。


 この非常時に、仮面について触れた樹も悪いが、それに回答する相手も相手である。


 何とも言えない変な間を置いた後、樹がふと男の周囲を取り囲む機械に、興味を示す。


「アンタが乗ってんのは、人が乗るタイプの人型兵器だろ? どこの国出身だアンタ」


『……国の名よりも、この兵装の名を言った方が早いだろう』


――― 別動体浮遊ユニット。名をサクリファイズという。


「り、隣国の……ギャンボット!」


 『因みに私の事は、ロータスとでも呼んでくれれば結構』とだけ、短く男が言った直後。ズンと何かに衝突したような音を、男のマイクが拾った。


 それと同時に、男の周りにある強化ガラスが、あっという間に土の色から紫色へと塗り替わる。


『おや? 何か変なものでも掘り当ててしまったか?』


「地中にある反応が、先程の衝撃と同時に、人型の反応から少しずつ遠退いています!」


 ギルティオンのカメラには、明らかに先程とは違う動きを見せる、植物達の姿がしっかりと映っている。その姿は、痛みに身を捩っているような様子であった。


 これは、突貫隼ストライク・ファルコンへと変形して逃げるチャンスだと考えた樹は、いきなり声を張り上げる。


「逃げるチャンスは今しかない! 各員上空へと退避する準備だ! それから別の作戦を考える」


『《野生獣ワイルド・ビースト》から《突貫隼ストライク・ファルコン》への形態変化を実行します』


 『変形進行中…』の文字が表示されると、両前足のパーツが分離、そして2つのパーツが再び合体し、突貫隼ストライク・ファルコンの頭へと変形する。


 前足のパーツは胴体へと収められ、野生獣ワイルド・ビーストの頭も、胴体の中へと収められた。


 後足が前方へとスライドし、チーターのような足が、猛禽類の足へと火花をあげながら変形する。


 そして再び合体した突貫隼ストライク・ファルコンの頭が元の場所へと戻った瞬間。隼の双眸に、トパーズ色の光が再び灯った。


突貫隼ストライク・ファルコンへの変形完了。上空からの敵対する対象に、追跡・追撃を加えます』


 変形が完了し、地に空いた穴に向き直るべく、旋回したのと同時。その穴の中より、煌めく紅蒼色の光が飛び出してきた。


 紅蒼色の四角錐状に形作られた光は、ギルティオンの前で止まった。


 四角錐を形成していた光が、何の前触れもなく消え去り、今度はブースターが付いた翼のような、形へと光の形を変形させる。


 その中より、右半身は紅色、左半身が蒼色の鎧を身に纏った人形の機械を目の当たりにした。


 機体の胸には―――金色で縁取られた銀色の星が、眩しいほどに輝いている。


 その『金縁の銀星』を、樹は忘れていなかった。いや……忘れられなかった、と言った方が正しいだろう。


「隣国が保有する、3体目の機動兵器、アイジャー・ヴァーミリオン。まさか、本当に動いている姿を、この目で拝めるとはな」


 樹には、体色とは逆の蒼と紅の双眸が、ギルティオンを見て、強く光ったような気がした

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