セレモニーおとこのこ

 「ほら、これが今送られてきた今回のリスト」

 「うわー、前回にも増してって感じですねー。まあ、激化してますものねー」

 「すいませんプロデューサー、先週渡された前回のリスト、分析してきました」

 「おめーおせーんだよ。またギリギリじゃねぇか」

 「すいません」

 「まあいいわ。で、誰がいいの」

 「はい、この二等兵なんですけど」

 「おう。こいつな」

 「あ、今回のリスト、持ってって分析させますねー。私は次の記事あるんでー」

 「おお、お疲れ。で、この二等兵のどこがいいの」

 「前に取材した軍曹の息子なんですよ」

 「ああ、あの部下放っといて逃げようとしたところ逆に敵に囲まれたあいつの息子なのか」

 「そうなんですよ。でも放送では部下を守るため一人だけ囮となった英雄ってことにしたじゃないですか」

 「ああ、そうそう。あれはみんな喜んでくれたわ」

 「だから、親子二代の悲劇、っていうの、いいんじゃないかなって思って」

 「なるほどな、お前、のろまだけど目の付け所はいいじゃねーか」

 「それに、家族写真とか軍曹の時に預かったのもうあるんで」

 「ああ、それは楽だわ。前インタビュー撮ったから家族も段取りはわかってるだろうしな」

 「先輩にさっき聞いたんですけど、家族はちゃんと泣くし、感謝とか怒りとかも出してくれるんで、編集もやりやすいって言ってました」

 「オッケーオッケー、で、こいつどう死んだの」

 「なんか、殺されたらしいです」

 「いや、殺されたのは当たり前だろ、戦争なんだから。どんな敵にどう殺されたかってのを聞いてるんだよ」

 「そうじゃなくて、仲間に殺されたみたいです」

 「おい、それどういうことだよ」

 「あ、お話中すいませんプロデューサー、この議会の記事ですけど」

 「わりぃ今大事なことなんだ。勝手に決めちゃってくれよ。どうせ満場一致だろ」

 「あ、はい、わかりました。じゃあ失礼します」

 「頼むわ。で、続けて」

 「拠点の中で別の二等兵に撃ち殺されたみたいなんですよ。なんか女の取り合いとかで」

 「最悪だなそれ。そこまでのは聞いたこともねぇよ」

 「あ、その撃ち殺した二等兵はその場で自殺して、リストの下に載ってます。やっぱよくないですかね」

 「いや、いいさ。その辺はどうにでもなる。大事なのは親子ってことさ。それはいいドラマになる」

 「そっすね」

 「よし、こいつで行こう。手紙と写真は用意できそうか」

 「はい、軍の方から写真と手紙は預かってます。ちょっとあまり戦いたくないみたいなこと書いてるのあったんですけどそこは映像では見えないようにしますんで」

 「でもあれだ、戦いたくないけど大切なものを守るためには仕方がないみたいな感じで手紙嗅いてあったら、それはむしろありだからな」

 「あ、はい、確認しときます。それにしても」

 「どうしたよ」

 「僕、警察取材の方から移ってきたばかりじゃないですか」

 「それがなんだよ」

 「軍って、協力してくれるなと思って」

 「あいつらには俺たちは大事なんだよ。俺たちがこうやってさ、泣ける報道にしてくれるから、戦争も続けられるってものさ」

 「でも、こんな裏データ渡して、報道されたらとか思わないんですかね」

 「おまえ、放送したいと思うか」

 「嫌ですよ、殺されますもん」

 「そうはっきり言うなよ。でも、あの雑誌記者、まだ見つからないもんな」

 「まあ、そうですよね。インターネットの方も情報部隊いるみたいですしね」

 「この前のジャーナリストへの叩きも未だにひどいしな。死因は、親と一緒で仲間を庇ったことにしようか。いや、現地の子どもを保護しようとしたらその子が爆弾持ってたでもいいかもな。とにかくいいやつを用意しろ。これはセレモニーなんだよ」

 「セレモニー、ですか」

 「こうやって死を感動的に飾って、遺族の悲しみや怒りを描いてやることでさ、家族への見舞金をがっつりあげることにも文句でないし、死んだ男の名誉も守られるだろ。女の取り合いで殺されたよりよっぽどいいもんな。親も周りの人間からどうこう言われないしな。それに、二等兵のいい話の取材もしっかりやれよ。殺された側がいかにいい人かをちゃんと流した方が、殺した奴への怒りを喚起できるじゃないか、それは事件も一緒だろ」

 「そうですね、そうすると警察の人喜んでくれました。あとたまにいく裁判所の人も」

 「だろ、そうやれば遺族も傷つかない。お偉いさんは権限拡大とか利権とか自分たちのやりたいこと通せて両方幸せよ。いや、視聴者も男の子の悲劇で泣いて怒れてだから、もっと幸せってことよ。俺たちはそのセレモニーをやるプランターみたいなものさ」

 「もしかして、プランナーですか」

 「ああ、そうそう、それそれ、じゃあ、頼んだわ。俺、今から今日の放送チェックするから」

 「わかりました。早速取材に向かわせます」

 「おお、頼むわ。さて、今日は、帰還中の船で自殺したやつだっけか。あいつは、確か帰還中の船が小舟に乗ったテロリストたちの襲撃を受けて、そいつらと相打ちになったってことにしたんだっけな。確か取材チームはA班だよな。ちゃんとテロリストっぽい映像作ってるかな。国内の反政府団体とのつながりを匂わせろって警察側から言われたんだっけか。まああいつらは言われたことはちゃんとやるから、大丈夫だろ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る