第33話

あれから後日談というか、特に他愛もない雑談みたいなものなんだけど、どうやらエルフ達は一人として欠けることなく亡命に成功したようだ。俺が勇者たちの力を試している間、近くの村で待って貰っていたサーシャから聞いた話である。まあそれはいいことなんだが、マギルス皇国の方はどうすんだと聞いたら、



「むかつくけど正面から喧嘩を仕掛ける訳にはいかないのよね……ん? 諦めるのかって? あら、そんな訳無いじゃない。ゆっくり、じわじわと時間を掛けて崩壊へと持っていくわ。時間はたっぷりあるしね……」



と返ってきた。何をするのかは怖くて聞けませんでした。ヘタレ? そう呼びたいなら呼ぶがいい。俺は何があっても嫌だからな。なんなら代わりに行ってくれ。今ならぱサーシャのパンツあげるぞ。


……いや、やっぱパンツはダメだ。聖剣あげる聖剣。ちょっくら勇者から盗んでくるから待ってろ。何? そんなもの貰っても役に立たない? しょうがねぇなぁ、じゃあ俺の性剣を……これ以上はレーティングに引っかかるな。やめよう。


冗談は置いといて、これからの話だ。サーシャがエルフのまとめ役である以上世界を旅するという俺の目的とは相容れない。よって俺たちの旅路は必然的に分かれることになる。



「全く、エーロとかエルナに挨拶の一つくらいしていきなさいよ。使えない似非色男ね」


「似非とはなんだ似非とは。未練が残っちまうからしないだけだよ」



勇者との激戦から一日。俺たちは荷物をまとめて宿の外へ出て、別れを惜しんでいた。いや、惜しんでいるのかサーシャは? 少なくとも俺は惜しんでいるんだが。


余談だが、昨日サーシャのパンツを請求したら代わりにパンチが飛んできた。解せぬ。しっかりと契約したはずなのに。失意の中で俺の意識は消えていったが、朝起きたらポケットの中にパンツが入っていました。かわいらしいピンクのフリル付きでした。勿論興奮したのだが、年齢にそぐわないと一瞬考えてしまったのはここだけの秘密だ。


閑話休題。



「ところで次に行く場所のあてはあるの? 放浪するって言っても目的地くらいは無いと困るわよ」


「んー、そうだなぁ……パルマの子孫と会った、サーシャと会ったと来たら今度は戦士……ゴルドの子孫と会いてぇなぁ」



熊髭の大男、国一番の戦士だったゴルド=ガーランドルフ。そこらの男より男らしかった我がパーティーの女勢へ果敢に立ち向かい、何度も散っていった英雄だ。


脳筋ではあったが、俺が雑魚だった頃から面倒を見てくれた恩人でもある。その子孫がいるなら是非ともお目にかかって恩を返すべきだろう。あ、でも出来れば可愛いおにゃのこでお願いします。あの熊髭の遺伝子から女の子が出来るとは思わないが、そこは歴代の奥さんに掛けるしかない。



「ああ、それならロタリア王国の南の方ね」


「え、どこにいるのか知ってんのか?」


「ええ。同じパーティーだったよしみ、という訳ではないけれど歴代の当主からは挨拶の手紙やらなんやらが来るのよ」



ん? 今なんか変な言葉が聞こえなかったか?



「おいおい、歴代の当主だって? なんだよそんな貴族みたいな言い方しやがって……」


「あら、あいつは魔王討伐の後爵位が貰えたのよ? 因みに位は子爵」



………………。


「ええええええええええええええ!!!!???? あいつが!?貴族!? はぁ!?」


「驚きすぎよ……気持ちはわかるけど」



だって!? あの熊髭脳筋が!? 貴族って!! あいつになれるんだったら俺でもなれるわ!!



「うっそだろ……なんだよこの言い知れぬ敗北感」


「ま、あんたもあのまま帰ってたら爵位の一つくらい貰えたわよ。そう気を落とすことは無いわ」



サーシャの慰めが今は心に染みるぜ……。



「うう……そんで、ゴルドの子孫は今なにしてんだ? やっぱ騎士団長的な?」


「えっと現当主は……新設された魔法旅団の団長ね。一人娘がいるけど今はヴァンフォーレ公国の魔法学院に居るわ」



………………。


長い沈黙の後、深く息を吸う。



「なんでだよ!!!!!!!」



今日一番の大声が朝早い村に響き渡った。




◆◇◆




「はぁ……はぁ……はぁ……」


「で、ツッコミは終わった?」



あれから三十分ほど息もつかせぬ勢いでツッコミをし続けた。自分でもよくやったと思っている。多分文に起こしたら十ページは下らないな。心なしか全部キングクリムゾンされた気もするけど。



「それで、あなたはどっちに行くつもり? ま、大体予想はついてるけど」


「決まってんだろ!! ヴァンフォーレ公国だ!!」


「はぁ……あなたならそっちに行くと信じてたわよ」



心が通じあっているようで何よりである。決して心を読まれた訳じゃないからな。本当だからな。


サーシャが懐から一枚の手紙を取り出す。



「なんだそれ?」


「彼女が通ってる魔法学院への推薦状。先生にはなれそうもないから生徒として入学させることにしたわ」


「え、仕事早すぎねぇ?」


「言ったでしょ。あなたならそっちに行くと思ってたって」



俺の行動は一から十までお見通しのようだ。日々順調にプライバシーが音を立てて削られている。



「にしたって生徒か……俺試験とか出されても解けないんだけど」


「ま、所詮は裏口ってやつね。試験はないから安心しなさい。魔法が使えないって訳じゃないんだから」


「ええ……」



なんとあくどい。結構やっちゃダメなことしてるんじゃないだろうか。



「権力ってのは使えるときに使うものよ。それに学院自体金持ちの道楽みたいな所あるし、真面目な学生は極少数。それこそアリサ位よ」


「アリサ?」


「ああごめんなさい、さっき言ったゴルドの子孫の事よ」



うーむ、どうやら学校に真面目なやつが少ないのはどこの世界でも同じようだ。



「ま、少々気は引けるが、そういうことなら貰おう。ありがとよ」



そういって懐に手紙を仕舞い込む。今思ったんだけどサーシャの懐にあったものを懐に入れる。つまりこれは懐と懐、胸と胸を密着させていることになるのではないか。やっぱ俺は天才だな。



「……やっぱり行くのね。せっかく会えたのに、少し寂しくなるわ」



サーシャの寂しそうな声。表情も心なしか落ち込んでいる。ったく、そんな顔されたら行きづらくなっちまうだろうが。


ポン、とサーシャの頭に手を置く。



「あ……」


「心配すんなって。ぜってー帰ってくるからよ」


「……本当に?」


「四百年経っても帰ってきたんだ。少し位信用してくれよ」


「四百年待たせてるじゃない」



苦笑するサーシャ。そうそう、そうやってお前は笑ってりゃいいんだよ。



「ま、それに……」


「?」


「サーシャの下着まだ全部返してないからな!!」


「それは今すぐ返しなさい!!!」



ゴッ!! と俺の後頭部から恐ろしい音がする。


俺の旅立ちにはもうそろそろ時間がかかりそうだ。

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