第15話

「け、ケツが痛ぇ……」



馬車に揺られること丸二日。俺達はマギルス皇国の王城に到着していた。



「あら優也、出かける前の威勢はどこへ行ったの?」


「ヘタレ」


「むぐぐ……」



雅と優芽の口撃! 急所にあたった!


まあなぜこんなことを言われているのかというと、原因はマギルス皇国に出かける前のやり取りだったりする。



『ユウヤ様、馬車はとても大変なのでクッションを用いられたほうが……』


『俺男だから。大丈夫!(見栄)』



後から思い返しても十中八九優也の自業自得である。これは笑われても仕方ない事だ。



「だ、大丈夫ですかユウヤ様……?」


「う、うん。問題ないさ。あはは……」



痛みを隠すように体を前に向けながら、誤魔化すように乾いた笑いを浮かべる。こんな優しい子に心配をかけてもらうのは忍びないからな。それも自業自得で。



「……ふんっ、なによ。ぽっと出の女にデレデレして」


「嫉妬?」


「ち、違うわよ!」



向こう側でなんか言い争いをしているようだが……ま、二人の事だ。問題ないだろう。


それより問題はこれからまた王と謁見しなければならない事だ。こうも立て続けにお偉いさんとの会談を用意されてはたまったものではない。地球で例えれば、大統領と会った後すぐに首相に会いに行くようなものだろう。最早自分が重役になったかのような気分になる……



(ってそうだ、俺達一応重役になるんだっけか)



気づけば勇者という称号を手に入れていた俺達。客観的に見れば、勇者の称号は俺達には荷が重すぎるであろう。そう思えば一番最初に離脱したアイツは正しい判断をしたのかもしれない。



(でも、ねぇ……)



目の前の王女を見つめる。彼女の真摯なお願いに、多少は手伝ってやろうという気持ちはわかなかったのかと不思議に思う。彼女に限らず、目の前で困っている人がいるならば、何かしら助けるべきでは無いだろうか?



「? ユウヤ様、私の顔になにか?」


「あ、嫌、何でもないさ。少し考え事」



パルメニアからの疑問を苦笑いでかわす。詮無いことに思考を割いてしまった。今は自分に出来ることを精一杯やるだけだ。そう決意を新たにした。



「……」


「……飴食べる?」


「……要らないわ」



その背後で更に空気が悪化していたのだが、俺が気付く事は永遠に無いだろう。




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「おお! 勇者様方にパルメニア姫よ! よくぞいらっしゃいました!」



俺達を出迎えたのは、いかにも大臣といった風のでっぷりとした男。風体のお陰か、それとも本人の資質か、優しげな印象を受ける。



「あら、アラム大臣。お久しぶりでございます」


「ええ、式典以来でしたかな?」



どうやら以前にも面識があるらしく、親しげに笑いあう二人。



「そういえば以前より兵士の数が多いようですが……なにかあったのですか?」



そう疑問を呈するパルメニア。俺達は平均がわからないため、見たところで「こんなもんか」と思っただけだが、どうやら彼女から見るとおかしいようだ。



「ええ、実は先日王からの命令がありまして……」



大臣の話によれば、大規模な賊が近辺に現れたらしく、その為に軍を集めているとか。



「何分急な命令でして、我々も時間に追われているのですよ」



溜め息を付きながらそう話す大臣。まあ上の無茶な命令で焦る気持ちはわかる。俺も無茶な命令を雅にちょこちょこされるからな。え、ベクトルが違う?



「そうですか……それではいつまでも引き留めておく訳にはいきませんわね」


「いえいえ、姫と会話が出来て、こちらとしてもいい休息となりました」



人当たりのいい笑顔を浮かべると、こちらへと向き直る大臣。



「勇者様方も、我が国へようこそ。歓待の準備も出来ておりますぞ。さあ、此方へ」



そういって俺達を先導し始める大臣。俺達は大臣の言葉に従い、彼の後ろを着いていくこととなった。




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「んで、これからどうすんだ? 只では済まさないっつっても二人じゃまともには戦えないぞ?」


「あら、一緒に戦ってくれるの?」



意外そうな顔で言ってくるサーシャ。むしろ放って置くと思われてた方が意外なんだが……。



「当たり前だろ? 他でもないお前が困ってるんだ。助けるに決まってんだろ」


「……そういうのを素面で言えるのはさすがよね」



え、もしかしてバカにされてる?



「誉めてるのよ、バカ」


「結局バカにはされるんですね……」



肩を落として大仰に落ち込んで見せる。が、サーシャには効果が薄いようだ。そのまま何事も無かったように話を続ける。



「ま、私と貴方なら戦力的には十分ね。私の計画は隠密だし。その内容なんだけどー」



そう前おいて、サーシャは計画を話し始めようとする、が、何かに反応したかのように言葉を切る。


そして見つめるのはドアの向こう。俺もじっと集中してみると、何かの気配が感じられる。



「……誰?」



サーシャがそう問いかけると、向こうの気配は観念したようにゆっくりとドアを開けた。



「……」


「あら、エーロ。どうしたの?」



入ってきたのはエーロだ。なにやらやけに落ち込んでいるようだが……。



「……あの、さっきの会話を偶然聞いて……」


「……そういえば防音を忘れていたわ。ここには誰もいないとおもったのだけれど」



変なところでサーシャも詰めが甘い。サーシャはエーロの元へと近付き、そのまま抱き締める。



「大丈夫よ。私達はとっても強いんだから。あんな奴らすぐやっつけて帰ってくるわ。ただ、ちょっと危ないから皆には避難しててもらうだけ」


「……うん……」



端からみれば心配する幼女とそれを慰めるお姉さん、といった感じでとてま微笑ましい。


が、俺は見逃さなかった。エーロが抱き締められるときにニヤリと笑ったのを。そして彼女のポケットからサーシャのパンツがチラ見していたのを。こ、こいつ……一瞬でも落ち込んだのを気にかけた俺がバカだった。



「その、せめて今日は添い寝を……」


「ええ、わかったわ」



!? あいつめ、俺ですらまだハグもしてもらってないのに、それを飛び越えて添い寝だと!?


あまりの怒りと衝撃にプルプル震えていると、部屋を出ようとしたエーロが此方に気付く。


そして小さく此方に向けられた腕から見えたのは、なんとVサイン。そのまま勝ち誇った様子で部屋を出ていった。こ、こんのクソガキャ……。



「……なに変な顔してんのよ」


「は、はっ!? そんな顔してねぇし! いつも通りのクールな顔だし!」


「その冗談、とてもクールね。部屋の温度が五度は下がったわ」


「酷い!」



それ俺の顔が酷いって遠回しにいってるよな!?


くそ、駄目だ口論では分が悪い。なぜ俺はサーシャに勝てないのだろうか。



「あら、貴方がバカだからに決まってるじゃない」


「言ってはならないことを言ったな! そこに直れ! 成敗してくれる!」



なんて非情な女なのだろうか。綺麗なバラには刺があるとは正にこの事だと思う。



「さ、ふざけてないで作戦の詳細を詰めるわよ。貴方にも分かりやすいよう図解してあげるから」


「バ、バカにしやがって!」



その程度もわからないと思われているとは舐められたものだ。ここはプライドにかけて反論しなくては。



「あら、じゃあ専門用語を交えて語り合う?」


「お気遣いありがとうございますサーシャ様!」



プライド? いいやつだったよな。



「ほら、今度こそ真面目な話するから。ちゃんと聞くのよ」


「うぃ、了解」



こうして俺達は作戦を煮詰める為、真面目な会議を始めるのだった。


まあ俺はそんなに役立って無いんだけどね!

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