テスト・パイロット〜その6〜

 菊池が指差したモニターを見る鈴木、コックピットの中にいるパイロット達は皆、一様に目を血走らせていた。


 『どうだい? いけそうかい? 』菊池が問うと、一人のパイロットが口元に笑みを浮かべながら言った


 「当たり前じゃないですか、僕達だって伊達に訓練を受けてきた訳じゃないってのに、あんな高校生が女の子と一緒にテスト・パイロットに選抜されるなんて随分とナメられたものですね、プライドが傷つけられましたよ、絶対に墜としてやります! 」彼はヘルメットの中でカサカサになった唇を舐めた。


 「おいおい、川俣、お前こないだあのバケモンに撃墜されてたくせして、よくそんな威勢のいいことを言えるなぁ……」そう言って細い狐目をより細めたのは武石であった。


 『まぁ、取り敢えず頑張ってくれたまえ』


 「了解です! 」三つの小隊員達が声を揃えた。





 「向こうの人達、かなり本気みたいだね、マジに撃墜されちゃうんじゃないかってヒヤヒヤするよ」奏志はサブモニターに目を落としつつも、一時として操縦桿から手を離さなかった。


 「心配しなくても大丈夫ですよ。逆にこっちが撃墜しちゃわないか心配するぐらいじゃなきゃダメです」明希はロックオンを済ませてからニッコリと笑った。


 「それもそうだね」奏志は飛んできた光条をヒラリと躱して言った。どうやら実際の戦闘のようにいきなり始まる試験だったらしい、ヨーイドンで始まる戦争なんてありゃしないもんな、奏志はペダルを踵側に踏み込み急速に後退を始めた。


 「へっ! ビビってんのか! 」川俣は遠ざかっていくウニを真正面に捉えて、ミサイルをあるだけ全部発射した。背部から勢い良く放たれたミサイルはデブリの間を擦り抜けて飛んでいく。


 全周囲モニターに浮かぶミサイル、奏志はトリガーを引き込み、前方に向かって荷電粒子ビームを放つ。すぐに光の帯が伸びていって周囲のデブリごとミサイルを薙ぎ払って溶かした。


 「三時の方向、二機接近中! 」明希の声に合わせて奏志は操縦桿を倒した、細かくスラスターを噴射して複雑な機動で荷電粒子ビームを躱し続ける。


 「下方からも三機! 」痺れを切らした奏志は全周囲に向けて破壊の光条を放った。これなら撃墜できるだろう、そう慢心してかれこれ二十発は撃ったはずだが、一向に赤い点の数は減らない。


 「バーカ! ドローンと話が同じだと思ってんじゃねーぞターコ! んの程度なら避けられんだよ! 」川俣は奏志を口汚く罵ると、背部ユニットからサーベルを引き抜き、デブリの影から肉薄し、ウニに斬り込んだ。ウニの表面でエネルギーが火花を散らす、その間にも他の機体はゼー・イーゲルを取り囲んでライフルを乱射していた。


 「エネルギーフィールド、全球での収束率60%を切りました! マズイです! 」


 「分かってるんだ……分かってるんだけど、どうにもならないんだ! 」奏志は機体を三百六十度様々な方向に動かし、包囲を解こうとするも、一向に振り払えない、慣れてきたとはいえども、機体の癖が強すぎたのだ。


 「ホラホラァ! どこ見てんだよ! 」下方の死角となりつつある部分から再び川俣のサーベルが踊る、


 「チィッ! 」狙いを定めて荷電粒子砲を撃つも半身で躱されてしまった。どうにも威力は高いのだが、撃つまでにラグが生じるため、鈍重な印象が拭いきれない。


 ピシィャイ! 突如として飛んできた弾丸に機体が揺れた。今まで二人が聞いたことのないような音がすると、ゼー・イーゲルのエネルギーフィールドが四散した。


 「おいおい、AF小隊は川俣だけじゃねーんだぞ」武石はスナイパーライフルを構え直した。


 「エネルギーフィールド、収束不能! 頑張ってください! 墜ちちゃいますよ! 」明希の声が悲鳴じみてきたのを聞いて奏志は焦り始めた。畜生! クソったれ! 全周囲にスラスターを吹かし、少しずつ角度と距離を変えて荷電粒子砲を放っても、全て紙一重で躱されてしまう。


 機体の表面のアンチ・ビーム・コーティングが燻り始めた、実体弾の一つや二つを撃ち込まれれば、容易に機体は大きなダメージを負ってしまうだろう。


 「ちょっとやり過ぎなんじゃないかね」菊地は目を細めながら顎髭を撫でた。


 「あのくらいじゃないと、恐怖を覚えないじゃないですか、あの機体は搭乗者の脳波が極大値を示してからが本番なので、早いところアドレナリン出して貰わないといけないんですよ」鈴木は人差し指を立てて説明した。


 「あぁそう、ならいいんだ」演習中に死亡事故、なんてのは勘弁してほしいだがな……菊池はモニターから視線を離さずに言った。


 その頃、風城と環樹はドローン相手に苦戦を強いられていた。『クルセイダー』は申し分なく速いし、固いし、強い、そんな機体だったが、どうにも数が多すぎる、チマチマチマチマ撃って飛んで退いて撃ってと繰り返しても一向に数は減らないのであった。


 「あと何機だよ……かれこれ百はやったんじゃないか、幾ら速くて強くてもこれじゃあ話にならねぇな」風城はぼやいた。


 「向こうは見た目が微妙だけど一気に敵を殲滅出来るのが羨ましいわね……」


 「変えてもらおっかな、アレと」風城は近くのドローンを切り裂いた。飛散したパーツがゆっくりとクルセイダーから離れてゆく。


 「そうね、今更だけど、それがいいわ、明希ちゃん達もあの様子じゃウニを持て余してそうだし」環樹はサブモニターに映る最後に残ったミサイルを全て放った。辺りで起きた爆風が機体を揺らす。

 

 「俺らも早く次のフェーズに進みてぇなぁ、普通の機体だったら十五機ぐらい余裕なのによぉ」


 『ドローン三百機くらい余裕だって言ってなかったっけかな? 私はそう聞いていたんだがね、いかがかな風城くん』鈴木は二人をからかった。


 「そんなこと言った覚え無いっすよ! 」嘘だ、ハッキリと覚えている、風城は軽口を叩いたことを後悔した。


 『早くしないと減給だと総司令からのお達しがあったぞ』


 「げ、げんきゅう? ははっ、問いつめられるぐらい、大したことありませんよ」聞き間違いだ、減給なんて嘘だ、絶対に。風城は焦りを隠しながら言った。


 『給料を減らす方の減給だ』ハッキリと言い切った鈴木の言葉に風城と環樹は顔を白くした―――

 

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