冷姫と退学阻止 6/25

「……冷姫君!」


「……あ、駿河先輩。先日はお世話になりました。ところで、俺に何か用ですか?」


 振り向くと、そこには少し赤い髪の女性が走ってきていた。学園第3席の駿河が走ってくるということは、彼女には俺への緊急の連絡があるようだ。


「今月はまだ大空君は安全圏内だったはずなのに、退学になるの!」


 先輩の言うことをまとめると、退学候補には上がっていたが、大空より下の奴が三人以上存在したにも関わらず、退学になるということか。


「……仕組まれた、ということですか?」


「その可能性は高いかもしれない。でもそれをとがめるのは、今は二の次」


「俺に何が出来るんですか?俺もあいつをチームに誘った身です。それに、だから俺を当たったんでしょう?」


 駿河は汗を浮かべた顔で、にこりと笑う。余程急いだのだと、たった今悟る。


「話が早い。実は、策が一つあるの。

 まず私があの子の『ブレイヴ・ハーツ』への志願書を書いてきたの。それに彼のサインかハンコがあれば、それで彼のチーム加勢が認めてもらえる」


「つまり、印鑑を探せ、という事ですね」


「その通り。生徒会からの承認は、私のネットワークから何とかしたから、あとはそれだけなの」


 俺は心の底から思う。この人を敵に回した時点で、この学園生活終わりだな、と。


「あと、勝手で申し訳無いんだけど、決闘を受諾しておいた。彼の成績を上げるには、それしか無いの」


「それは全く問題無いです」


 ごめんね、とジェスチャーを浮かべる駿河の息はようやく落ち着いてきていた。


「最後に、これはどうクリアすれば良いかわからないの」


「と言いますと?」


「今月の集計は既に締め切られているの……これだけがどうしても攻略法が浮かばないの。生徒会と特待生の権利を使っても、どうにもならない。理事長か校長の判断をどうにかして変えなきゃ……」


 今月の集計が終わっていたら、どうしようも無いのではないか。


「……どんな方法を使っても良い。私を使っても良い。それは君の判断に任せても良いかな?」


「……なんとかやってみます」


 案は全く出ないが、取り敢えず、駿河が大空と落ち合って、二人で出て行くのを待つ。すると、苦々しい顔つきをした大空が出てくる。完全に見えなくなって、彼女達がいた教室に入る。


「ちょっとだけでいい。大空の退学を阻止するの手伝ってくれないか?」


 教室は暗鬱な雰囲気で包まれていた。それを払拭ふっしょくするためにも、出来るだけ優しく言う。


「……お前は、冷姫か。何があったんだ?」


「説明してる暇はないから、それは後で大空に聞いてくれ。

 あいつの印鑑何処にあるか知らないか?」


「……多分だけど、あいつ、大事な物はロッカーに置いてる」


 ……馬鹿かあいつは。口を開いた友人は、ロッカーを指差してくれたので、そのロッカーを開ける。ロッカーの右奥の方に、何やら箱が置いてあったので、それを開けてみる。


「あった」


 こんなに早く見つかるとは……。あいつの注意力の無さは恐るべし。まあ簡単に見つかった今は、かえってそれに感謝すべき時だが。


「ありがとう、助かった」


「あの、冷姫」


 俺は教室から出かかった足を止めて、呼ばれた方を向く。


「あいつを、助けてくれ」


「……ああ」


 良い友人を持っているな、大空。

 大空正義は、俺のチームにとって、必ず欠かせない人材だ。絶対守ってみせるさ。お前らのお陰で、あいつを守る方法が浮かんだしな。

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