金平糖 六腑の譚

旺璃

プロローグ

 その遊郭は、外観こそなんら変哲もない高層ビルだったが、いざ正面から入場してみると、初めの始めから見世物のようだった。番台には黒いくちばしを模したマスクの男が、水タバコを燻らし座っている。


「ご用ですか」


異様な姿にたじろいでいると、ぶわぁっと煙がくちばしから溢れ、キャラメルのような甘ったるい匂いが鼻についた。慌てて頷くと、頭のてっぺんから爪先までじろじろと睨み付け、鳥人間は、傍のキャビネットの中からひらりと一枚の紙を取り出しカウンターに置いた。


「初めてか、名前・電話番号・区民番号。それと鞄、あっちで、見ます」


ペンでがりがりと必要箇所にいびつな丸を付け説明をするが、それよりも気になったのはその手指だった。長い。褒め言葉でもなんでもない。気味の悪いほど長かった。何処となく虫を彷彿とさせるかたちだ。よくよく見ると、腕もだいぶ長い。首に至ってはテニエルの描いたアリスのようにも見える。挫けそうになりながらも、震える手で用紙に名前を書いていると、後ろから次の客が来たようで、長い手でしっしっと横に促された。


「――は、どのくらいで空きますか」


大きく影が出来たので、つい好奇心に負けて横を向くと、岩のような大男が立っていた。身長は2メートルを優に超えているだろう。肉食獣の牙が見える。指先で人が殺せそうだ。店が店なら客も客だ、と思った。すっかり気がめげてしまった私は、スミマセン、と謝りながら逃げ帰った……

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