第11話 乾いた手から汗が染み出る

ふと、妙な生物が小高い砂の丘からカサコソとこちらに向かって進んでくるではないか。私はとっさに電柱のように伸びる樹木のようなそれに登った。ある生物はその姿形をさまざまに変形させながら徐々にそれに近づいてきた。


本体は赤い。風船のように体積を膨らませたり縮めたりしている。爬虫類のように見えるが昆虫のようにも見える。ここは空想的で想像的な火星だろうか。生物Xがコミュニケーションを求めているようには到底みえない。


捕食されるのではないかと、安全圏であるはずの樹上で肝を縮めているとふと、周囲の風景に意識が移った。今まで背後にあった方向には何やら施設があるではないか。そして入口と思しきゲート、大きめの車両が出入りできそうなサイズをもった構造の前に、これはこれは人間らしい男女がなにやら会話をしているようだと気がついた。


つかの間、救われたとは一片も思われないまま彼らを観察するしかなかった。というのも、彼らは明らかに私の存在に気がついてはいるものの、この状況を意に介する様子はまったくなかったのだ。

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