第七幕『襲撃』

 午後三時の鐘を時計塔が打ち鳴らしたのを合図に、俺は再び砦の壁の中を駆け回った。見張りが巡回に行く隙を見て爆弾魔の男が没収された所持品を拝借し、更に砦のあちこちに仕込みをする。逃げ道の確保も念入りに。偵察済みの砦内部を、短い時間で正確に回り切る。そうして辿り着いた中庭の見える塔の上から、男の姿と周囲の民衆、そして海軍の兵隊の姿を確認する。


「んっんー!いいねぇ、派手で実に良い。供物への祈りが届いたかな?」


 思わず拍手が出てくる。さぁて、素晴らしい舞台が出来上がった。あの爆弾魔、メーヴォ=クラーガを頂戴に上がるとしよう。


「これより、我らの民を脅かした殺人鬼の処刑を執り行う!」


 国軍将校の高らかな宣言と共に、爆弾魔メーヴォが処刑台の前に連れて来られる。彼の足取りはしっかりとしていて、時折抵抗するように身を捩るし、付き添う兵士の腕を払うように肩を揺らした。そんな抵抗も意味を成さず、その首が処刑台の上に置かれた。見届け人がメーヴォの首に墨で一直線に切取線を書き込む。メーヴォの上に重石が載せられて身動きが出来なくなったのを確認すると、目隠しをされた巨人族と思わしき処刑人が、別の見届け人に連れて来られる。フラフラとした足取りで処刑台の横に立った処刑人は、一気に巨大な首狩り斧を降り上げる。が、振り上げた途端に処刑人は横を向いてしまって、慌てて見届け人に向き修正を食らっていた。


「そんな手元で大丈夫か?っとぉ!」


 皮肉を口にしながら、俺は右腿に下げたホルスターから愛用の魔法銃と別の、もう一丁の銃を構える。愛しのエリーの遺品でもある魔法銃の魔弾は一直線に処刑人の手元に命中した。


「うぎゃあぁ!」


 目隠しした処刑人がその衝撃に錯乱し、斧を振り回す。見届け人の一人が頭を吹っ飛ばされて絶命したのを皮切りに、その場の混乱が始まった。続けざまに銃を撃つ。民衆の手前に三発、処刑台を囲むように五発。着弾した魔弾はその場で巨大な氷の柱を生成し、民衆と処刑台を分断し、そして処刑台を囲ってそこを孤立させた。

 もちろん中庭は大混乱。手に氷を纏わせて斧を固定された処刑人を押さえるのに軍の連中は必死で、コチラに目をやる者は少ないし、ましてや分断された処刑台を気にする者すら居ない始末だ。

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