魔王の息子だけど、恋愛は個々の自由でいいと思う その2

「早く追いかけよう!」


「……本当にやるんですね、坊ちゃま」


絶対巻き込まれますよ、それから死にます、おっ死にます、とぼそぼそ愚痴る従者の首根っこを掴んで僕は走り出した。いざ行かん。判子のために!


そしてめくるめく平穏ライフのために!





「走りながらだけど、作戦を立てようと思うんだ」


「腹括ったんで、もうなんでもどうぞ」


ずざざざざ、と首根っこを掴まれ引きずられている従者が欠伸をしてからこちらに向く。

この従者、引きずられながら平然と欠伸するなんて……意外とやるな、と思ったが多分諦めて垂れているだけだろう。


「僕は四兄様の被ってるパンツを取るから、その間どうにか三姉様の気を引いといて」


三姉様さえどうにかなれば後はパンツを取り返すだけでいい。四兄様も一筋縄ではいかないだろうが、なんとかなる、いやしてみせる。


「わかりま、……いやいやいや、無理ですよッ!!」


従者は僕の話をふんふんと頷きながら聞いていたが、突如くわっと目を見開き首をぶんぶんと横に振った。

だがしかし、従者に決定権はない。決定権があるのはこの僕なのだ! やると言ったらやる。三姉様の相手は従者に任せた!

従者はエルフの血が濃いわりに耐久値が高いから大丈夫だと思う。うん。


「坊っちゃまの横暴! 暴君! チビ!」


「チビじゃない! これから成長するんだよ!」


***


漸く僕らは三姉様と四兄様の元へと追いついた。そして襟首を掴んだままの従者を三姉様に標準めがけて、ぶん投げるッ!


いけ! 従者! 君に決めた!


「死んだら恨みますからねぇええ」


飛んでいく従者に笑顔でサムズアップを送り、僕は更に加速する。目指すは先頭を走るパンツ被った四兄様だ。




走れ。



走れ走れ。



床を強く、殺すように踏みしめて蹴り、その反発力で更に前方へと加速。



風が耳を切るように横切る。



それすらも生かして走る。



それでも、魔界随一のスピードキングと名高い四兄様に追いつくにはまだ足りない。


速い。

速すぎる。

圧倒的なまでのスピード。



小さな背中がまるで弾丸のように、いやそれ以上に速く遠くなっていく。きゅきゅきゅきゅと音のなる靴が、高速で動くことによって四重奏にも重なって聞こえる。




エルフの国で国際指名手配されて尚、その足一つで逃げ延びている理由がわかるというもの。全く誇れないけど。



だからこそ、僕はスピードで競うのを止めた。相手の土俵に何時迄もいる必要はない。


僕は服の袖口に付いている金色のボタンを引きちぎる。


そしてその弾丸を、投げたッ!


それは見る見る加速していき、前方を走る四兄様の耳を擦って、地面に激突した。砂埃が上がり、漸く四兄様は足を止めた。

そしてゆっくりとこちらを振り返る。


「……誰だ、俺の邪魔をするのは」


冷たい目だった。そこらの氷河などよりよっぽど冷え切った眼光だった。

肝の弱いものならば直ぐ様、頭を垂れるほどの威圧感。

年齢に不釣り合いなほど冷たい美貌がそこにはあった。白パンツがまるで王の王冠のようにすら思えた。

だが、怯むわけにはいかない。


「三姉様から奪ったものを返してもらいにきました……四兄様」


そう言うと四兄様は鼻で笑った。


「笑止! 奪われる方が悪いのだ!」


ぎり、と手に力が篭る。例えそうだとしてとそれがなければ僕の野望は叶えられない。



「それでも取り返したいと言うのならば……」










「魔族らしく、奪い返してみろ」


そう言って四兄様は嗤った。











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